廃墟のはずの家

私が中学生の頃だった。


学校からの帰り道、一軒の家があった。


ブロック塀はひび割れ、家屋にはツタ植物が巻き付き、外壁を覆っていた。

庭木は伸び放題で荒れ果てている。


玄関はいつも開いていて、脚の折れた椅子や、ホコリを被ったテーブルなどガレキが積まれていた。


家の南側にある掃き出し窓のガラスは一部割れていて中のレースが見えた。


そんな荒れた様子で、人が出入りするところなど数年にわたって見たことがなかった。


私はその家は廃屋だろうと思っていた。


ある日、私は夜も更けたころ外に出た。


テスト前で勉強に疲れて気分転換に散歩しようと思ったのだ。


私は暗い中、懐中電灯を持って家を出た。


街灯が点々とした暗い道を歩く。


中学生にもなれば、夜を怖がることもない。


むしろ楽しんで散歩していた。


だが、楽しい気分は例の廃屋の前に差し掛かると消えた。


廃屋と思っていた家の窓から、オレンジがかった色の、明かりが見えるのだ。


なぜだ、あそこは玄関にガレキを積み、割れた窓を放置する廃墟のはず…


好奇心から私は近づいた。


明かりが見えるのは、割れた掃き出し窓からだ。


明かりがあるため、窓の向こうも少し見える。

木目の壁とか、カブトガニの標本のような置物が壁に掛かっている。

部屋の奥は暗がりで見えない。


人が住んでいるのだろうか。

なぜ、住んでいるなら家を手入れしないのだろう。


私は塀の外からだが、窓の方を注意深く見る。


ふと、部屋の奥へ黒い人影が動いたのが見えた。

私は、やはりだれかいるのかと思った。


好奇心に駆られ、さらに家人の顔を見ようと思った時だった。


部屋の暗がりから、二つの目がこちらを見据えていた。


私は腰が抜けそうになり、だが、余りの恐ろしさにすぐ踵を返して家の方へ駆けて帰った。


翌日、その家は変わらず廃墟のような様子だった。


私は怖くなって、夜にその家を覗くことはなくなった。



そのうち、数カ月してその家は更地になっていた。


私は、近所の友人に自分が体験したことを話した。


友人は怪訝な顔で答えた。

「おかしいな…あそこの家は、何年も昔から空き家のはずだぞ」


だれに聞いても、そう答えるのだった



【おわり】

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