怖いもの見たさ

A男は子供の頃から「怖いもの見たさ」が強かった。


彼が小学生の頃の話。

 

彼は学校の図書室に行っては、人体図鑑の内臓のページなどを眺めて「怖いもの見たさ」を満たしていたそうだ。


ある日、彼が弟と散歩をしている時だった。

上級生の子が、

「あそこの電柱のそばに、グチャグチャになったカラスの死体があるよ。すごいよ」

と声をかけてきた。


A男は「怖いもの見たさ」から喜んだ。彼にとって動物の轢死体も「怖いもの図鑑」のひとつだったのだ。


駆け寄って見てみる。


だが、何もいない。

アスファルトの歩道と側溝があるだけ。


後で分かったことだが、その上級生はたちの悪いウソを下級生に吹き込んでは楽しむ奴だったらしい。


何もないアスファルトを前に、キョトンとするA男と弟。


上級生の子は、走って遠ざかっていた。


そして、A男を指さして大笑いしたそうだ。


そこは車道だった。


上級生を後ろから乗用車が撥ねたのだった。


上級生の子は、ボンネットに乗り上がり、路面に倒れた。


A男と弟は慌てて駆け寄った。


上級生の子は、頭から血を流し、白目を剥いていたそうだ。


それから救急車が来たり、パニックになった母親が駆けつけたり大騒ぎだったらしい。


A男は言う。


「いや、本当に人間って白目を剝くんだなって思ったよ。今でも覚えてる、あれは見ものだったなぁ」



A男の知的好奇心は、上級生のお陰で心ゆくまで満たされたそうだ。


上級生がそれからどうなったかは、知らないそうだ。




【おわり】

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