手を振る先には…

C子さんは2歳の小さな娘がいた。


C子さんは全く霊感がなく、夫も心霊やオカルトは全く信じない質だった。


夫はむしろリアリスト過ぎて、オカルトを馬鹿にしていた。


そんなC子さんと夫は、とある木造アパートに住み始めた。

築年数はそこまで経っていないのに、家賃が安かったのだ。


ただ、不動産屋が「心理的瑕疵物件ですよ」と言った。


事件事故があった訳では無いが、変なモノが見えるという。


夫は全く気にせず、成約した。

それで安くなるなら構わないと。

C子さんは少し不安だった。


割ときれいな部屋で、住心地も良かった。


だが、程なく2歳の娘が何もないところに手を振るようになった。


ベランダの外に向かって、隣の部屋に向かって、部屋の隅に向かって…色々な場所で手を振る。


だが、C子さんには何も見えなかった。

おもちゃか家具に手を振っているのかと思ったが、何もない壁と床しかない場所に振ることもある。


C子さんは気味が悪くなって夫に相談した。


夫は一笑に付し、C子さんを連れ立って、娘を観察した。


C子さんが娘をスマホで撮影し、夫は娘のそばにいた。


娘は、ベランダの外へ手を振った。

夫は、それを見て同じ方向にふざけて手を振った。


C子さんはその様子を、カメラを構えたまま肉眼で見ていた。


何も変わったことはなかった。



だが、何となく胸騒ぎがしてスマホの映像を再生した。


再生したところ、ベランダの外には、見知らぬ女の子が立っていた。


汚れた服で、5〜6歳の子に見える。


ここは3階だ。小さな子がベランダに侵入するのは不可能だ。


2歳の娘が手を振った時、女の子は満面の笑みで手を振り返す。


だが、夫がふざけて手を振った時…


とても子どもとは思えない悪意と憎悪に満ちた表情で、夫を睨みつけていた。


C子さんは怯え、流石の夫も怯え始めた。

娘は無邪気にスマホの画面へ手を振っている。


翌日、夫は交通事故に遭い、右手を骨折した。


それはふざけて手を振った方の腕だった。


C子さんは怯えて、神社にお祓いに行くと違約金を払ってその部屋を出たそうだ。


その件以来、余程怖かったようで夫はやたら神仏や心霊に傾倒するようになったそうである。



【おわり】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る