交差点の家

E子さんが住んでいた町に、道路が何個も交差している歪な交差点があった。

その交差点の角には、大きな二階建ての家があった。


現在は「売家」の看板が立てられ、だれも住んでいない。

交差点のすぐそばにあるので、付近を歩く人には必ず目につく。

付近の中学への通学路でもある


かつてその家には、E子さんの同級生Xさんが住んでいた。


彼女は、引っ込み思案で人見知りの子だった。

さらには、宗教か研究団体か変わったコミュニティの出身者で中学生になってE子さんの学校に入学してきたのだ。


そのためか、若干周囲と軋轢が生じることがあった。

周囲の意見を聞き入れなかったり、話し合いを拒絶するようなところがあったらしい。


軋轢は孤立を生み、いずれいじめとなった。

90年代はいじめの絶頂期で、社会問題化した時期でもある。


特定の三人が徐々にいじめをエスカレートさせていき、Xさんの様子は日に日に弱っていく。

E子さんは、見て見ぬふりしかできなかった。


当然ながら、下手に不穏分子を庇えば、標的にされるのは自分だ。

それはこの小さな中学校でも、大企業でも、独裁国家でも同じことだ。


Xさんは救いを求める目で、周囲を見ていた。

数度ほど歓談したことのあるE子さんをも…


だが、結局Xさんは学校の屋上から身を投げた。


悲惨な死に方だった。

家族も一家離散のようになり、家も売り払われた。


苛めの加害者も、現在ほど社会的制裁を受けることもなかった。

なにせネットやSNSがさほど普及してなかったからだ。


異変はそれからだった。


Xさんの家を通る度、二階の窓からXさんが顔を出しているという。

ただ、その様子は少し寂し気な顔をしているだけだと噂が立った。


いじめの犯人たちは、やや違った。

Xさんは、頭から血を流し、ぎょろついた目をして、血に染まる歯を食いしばり、憎悪の表情で睨んでくる。

青ざめた顔で彼女らはそういった。


犯人の女子たちは、それから立て続けに、交差点で車にはねられなくなった。

二階の方を怯えながら見ていて、車道にはみ出し、車に気付かず…


皆はXさんの呪いだと騒ぎ立てた。


それ以降、Xさんの姿を見かける人はなくなった。


だが、E子さんはしばらく見えていたらしい。

あの救いを求める目で、悲し気にE子さんを見つめていたそうだ。


E子さんは心の底で見て見ぬふりを謝罪していた。

しだいにE子さんはつらくなり、高校進学を機に町を出たそうだ。



現在もその家は建っているが、心霊が出るという噂は聞かなくなっている。



【おわり】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る