第9話 バナナ姫VS三千人の兵士
「青空が広がって太陽が眩しいでござる。ここって本当に城内でござるか?」
貧相な武士の田宮伊右衛門が空を見上げて言う。
「いや、ここは城の裏手の訓練場だ」
虎獣人の、ジュニアことアントニオ・ジェット・シンJr.がこたえる。
「おお、どうしたアントニオ! そこの貧弱そうな連中は新しい志願兵か!」
ベレー帽を被った
「違います! バナナ姫さま、こちらはラーテル辺境伯軍突撃隊のンゴロンゴロ隊長です! ンゴロンゴロ隊長、こちらはラーテル辺境伯さまを訪問にお越しの、エルフのバナナ・パインテール姫であらせられます」
「え? その
ンゴロンゴロが疑問に思うのは無理もない。エルフの姫といえば細身で儚げな美女のイメージだ。
ところがバナナ姫は身長120センチ四頭身。骨太で固太り。頭は大きくて太い。首が太い。肩も太い。腕も太い。腹も太い。脚も手の指も太い。ずんぐりむっくりでガチムチだ。「エルフ界の天童よし◯」とか「白いドラえも△」とかささやかれている。
「よしなに」
バナナ姫が優雅に会釈する。が、ンゴロンゴロ隊長と紹介された男は尊大な態度でバナナ姫を見下ろしたまま言う。
「まあいい。俺はンゴロンゴロ・グヌーだ。そのお姫さまがラーテル領になんの用だ? 辺境伯さまにお目通りと言うからにはこちらに加勢に来たのか? それとも敵として乗り込んで来たか?」
「随分とストレートに聞くんだな。嫌いじゃないぞ。それはそちら側の出方次第だ。わたしはマジックアイテム『打ち出の小槌』さえ頂戴できればそれで良い。アレは魔力量が乏しいお主たちが持っていても宝の持ち腐れだ」
「ほーう」
「ただでとは言わん。辺境伯が協力を求めるなら、手伝ってやらんこともない」
「なるほど。では辺境伯さまが断ったら?」
「知れたこと。力づくでも『打ち出の小槌』を手に入れるまで」
「わかりやすくて良いねえ。敵になるんなら通しちゃなんねえし、味方でも足手まといになるような奴らは辺境伯さまに会わせるまでもねえ」
「ほう。貴様にこのわたしを止められると思うか?」
「いやあ、ウチの連中と模擬戦をしてもらいたいんだよ。そっちで一番強いのは誰だ?」
「「「この人です!!!」
変顔覆面長身エロフのジャック・ドードリアンと伊右衛門とジュニアの三人が一斉にバナナ姫を指差す。🫵
「わたしが戦っていいよな?」
バナナ姫が言えば、
「「「どうぞ、どうぞ!」」」
と三人が出番を譲る。
「そうか。では、ライコス・グレイ! お相手して差し上げろ」
「イエス、サー!」
大楯とサーベルを持った
「ライコス、怪我はさせてもかまわんがエルフの王族だ。殺すなよ」
「イエス、サー!」
「バナナ姫さま、ちゃんと手加減してあげるでござるよ」
「わかっている。秒殺で終わらせてやろう」
「秒殺だからって本当に殺さないで下さいよ」
「わかっている! 爆裂技は使わん!」
三メートルほど離れて向き合うバナナ姫と犀獣人のライコス。
「随分と余裕があるな。お手並み拝見だ。では試合、始め!」
ンゴロンゴロ大佐が試合開始を告げる。
「うおおおおおお!」
ライコスが大楯を構えてシールドバッシュをかまそうと大股で一歩踏み込んだその瞬間。
「タケノコ召喚」
「はうっ!」
突如地面から生えてきた大きなタケノコがライコスの股間を直撃。
「「「うわあ〜!!!」」」
「なんて卑怯な! 大丈夫か、ライコスッ!」
「む〜ん、む〜ん、む〜ん」
ライコスは股間をおさえて丸まってうめいている。とても立ち上がれそうもない。
「なにが卑怯だ、油断する方が悪い。戦闘不能でわたしの勝ちだ。軟弱者が!」
「あんなことされたら男は誰でもそうなるわ!」
「うんうん」
「たしかに」
「でござるな」
「ちゃんと手加減はしたぞ。尻の穴にぶち込まれなかっただけありがたく思え」
「おのれ、下品エルフめ!」
「ほざけ。このわたしは一騎当千だ。貴様の部下ごときがわたしの相手になるはずもない」
「なんてことを言うんだい、ハニー。キミの悪い癖だよ」
「大きく出たな。そちらが一騎当千だと言うならお望み通りに一人対千人での模擬戦をやってやろう。まさかできませんとは言わねえよなあ」
「そいつは気前が良いな。折角の接待だ。お受けしよう」
「「なんだって!」」
「決まりだな。突撃隊全員集合!」
ンゴロンゴロが叫ぶと、訓練中の兵士と、隊舎で休息中の兵士がわらわらわらわら集まって、バナナ姫たちより十メートルほど向こうに整列する。野球の内野くらいのスペースに獣人兵士がひしめいている。
「こ、これは多過ぎるでござる!」
「そうだねえ、ボクが見たところざっと三千人はいると思うよ」
「ンゴロンゴロ隊長! コレはいったいどういうことですか!」
「
「よろしい、ならば戦争だ!」
「ようし、決まりだ。お前ら! こちらのお姫さまがお前たち全員相手にたった一人で模擬戦の相手をしてくださるそうだ」
ざわざわざわざわざわ
「お姫さまが参ったをするか、戦闘不能になればお前たちの勝ちだ! お前たち、戦闘不能になったら今晩のメシは抜きだ!」
「「「「「えええええっっ!」」」」」
「コイツらが勝ったら、一騎当千のお姫さまには土下座で詫びを入れてもらうが、かまわんよな」
「わたしは一向にかまわん! わたしが勝ったら、ンゴロンゴロ、貴様にも罰ゲームを受けてもらうぞ!」
「勝てるものならな。では、一人対千人の模擬戦始めっ!」
うおおおおおおおお!
推定三千人強の獣人兵士がバナナ姫に突撃してくる!
「姫さまどうするでやんすか?」
使い魔青虫🐛のはらぺこウイリーがターバンから顔を出して聞く。
「後ろの山に向かって、全速前進!」
バナナ姫はくるりと百八十度回転して突撃隊に背中を向けると一目散に駆け出した。
「「「えええええっ?」」」
「逃げるな卑怯者! 追えー! 逃すなー!」
ンゴロンゴロが叫ぶ。
うおおおおおおおお!
三千人強の獣人兵士たちがバナナ姫の後を追いかけて走る、走る、走る!
「これは戦略的転進だ! 逃げているのではない!」
バナナ姫も短い脚でものすごい勢いで走る、走る、走る。
「やっぱり無茶でござったか」
「そうだよ。バナナもあんな嘘をつくなんて」
「え? 一騎当千は嘘だったんですか?」
「うん」
「はっ、当然だ!」
「そもそもたった三千人くらいでバナナを止めようだなんて無謀もいいところだよ」
「「「え?」」」
「バナナは一騎当千じゃなくって
「でもあんな大勢相手では召喚魔法の狙いを定めようがないでござるよ!」
「だから誘導しているんだよ。おお、おお、ボクらを巻き込まないように随分遠くまで引き離してくれたね。じゃあ、そろそろかな? おーいバナナ〜ッ!」
ジャックが叫ぶとはるか遠くでバナナ姫も両手でメガホンを作って叫び返した。
「警告だ! ココナッツ・メテオが来るぞー!」
「了解! みんな、耳を塞いで反対向いて伏せるんだ! 衝撃波が来るぞ!」
「「「「ええ?!」」」」
「いいから伏せろ!」
ンゴロンゴロ以外は慌てて伏せる。
その直後だ。
キーーーーーーーーーーーーーーーーン
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!
ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!
ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!
ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!
「「「「ぐわあああああ!」」」」
轟音とともに、バナナ姫を追いかけてきた獣人兵士たちの目の前の地面が次々と爆ぜた! 爆ぜるごとにその衝撃波で獣人兵士たちの身体が宙を舞う。地面がめくれ上がって、あたり一面土埃が立ち込める。
その衝撃波がジャック達の方にも達した。
「ぐはあっ」
一人棒立ちして見ていたンゴロンゴロが吹き飛ばされる。
轟音が途絶えた。
やがて土埃もおさまった。
その頃合いで訓練場を見れば、その半分がクレーターだらけになり、その周辺に突撃隊の獣人兵士たちが死屍累々と転がってうめいている。
クレーター群の向こうにただ一人平然と立つバナナ姫。
「いったいなにが起きたんだ・・・・・・」
よろよろ立ち上がり、呆然としているンゴロンゴロ。
「バナナ姫が超上空に約四十トン、一万個のココナッツの山を召喚して爆撃したのさ。それがバナナ姫のココナッツ・メテオ」
「ま、まさか、アイツが『爆裂エルフ』だったのか!」
「ボクはよくわからないけど多分そうだよ」
バナナ姫が倒れた獣人兵士の隙間を縫うようにやってきた。
「アリを殺さないように踏むのは難しいと言った奴がいたけど、この技も手加減が難しいな。多分誰も死んでないと思うが」
バナナ姫は眉間にしわを寄せて言う。
「なんとか生き残ってるみたいだよ、マイエンジェル!」
「それはよかった。おい、ンゴロンゴロ! 私の勝ちだよな。それとも、もう一回ココナッツ・メテオやるかい?」
バナナ姫がンゴロンゴロを見つめて微笑む。
「ひいっ!」
思わず四つん這いになって逃げ出すンゴロンゴロ。
「隊長のクセに怪我した部下を置き去りに逃げ出すとは醜いでござる!」
「では罰ゲーム! ドリアン召喚! お仕置きだべえ」
十メートルくらいの高さからトゲトゲの殻付きドリアンが落下してンゴロンゴロの尻の肉に激突する。
「みぎゃああああ! いってええええ!」
穴だらけの尻を押さえてのたうち回るンゴロンゴロ。もはや戦闘不能だ。
ラーテル辺境伯軍突撃隊は全滅した!
バナナ姫はラーテル辺境伯軍突撃隊をやっつけた!
「ジャック、かわいそうだから突撃隊に
「OK!
「あんな失礼なヤツは放置プレイだ。さぁ次いくぞ!」
「「「「応!」」」」
バナナ姫たち一行は無事に次の転移門をくぐったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます