第2話 バナナ姫の人助け?
狼獣人Aを下僕にした!
カボチャ🎃の馬車(馬なし)を召喚した!
カボチャ🎃の馬車いっぱいの財宝を手に入れた!
「ほら、とっとと引け。スピードが落ちているぞ」
「Yes、マム!」
狼獣人がバナナ姫が召喚したカボチャの馬車をリヤカーを引くように必死で引いている。カボチャの馬車には狼獣人が旅人から巻き上げた金貨やら財宝に囲まれて白ずくめの少女が座っている。
その少女は骨太で固太りだった。頭は大きくて太い。首が太い。肩も太い。腕も太い。腹も太い。脚も手の指も太い。おまけに眉も唇も太い。ずんぐりむっくりでガチムチな四頭身だ。
この少女こそ我らがヒロイン、爆裂エルフのバナナ・パインテール姫。彼女は今、ラーテル辺境伯領の領都に向かっている。
「そこの狼」
「Yes、マム!」
狼獣人はバナナ姫に絶対服従している。なにしろバナナ姫は爆裂エルフだ。
彼女の召喚魔法は任意の座標に果物や野菜を召喚できるというもの。一見大したことのないショボい召喚魔法に思える。実はそうではない。この魔法の恐ろしいところは相手の体内の空間にも押し込むように果物や野菜を召喚できるということだ。
体内のターゲット空間に果物や野菜を召喚できれば窒息であろうと爆散であろうと自由自在。彼女に目をつけられた瞬間から、誰もが彼女に生殺与奪の権を握られるという、最悪の能力だ。
しかも一度認識してロックオンした相手なら見ていなくても、いつでも召喚を発動できる。先ほども振り向きもせずに仲間の狼獣人の腹の中に巨大な果物であるジャックフルーツを召喚して惨たらしく爆散させた。
もし仮に狼獣人Aが逃げ出したところで、遠隔操作でポーンと爆裂させられるのがオチだ。こうして今、生きている、いや気まぐれで生かされているだけでも非常に幸運なのだ。きっと何か小さな善行をしたおかげだろう。
「財宝を溜め込んでどうするつもりだったのだ?」
「Yes、マム! 辺境伯さまへの上納金です」
「呆れたな。辺境伯が盗賊の上前はねるだなんて」
「姫さん、やっぱり例のお宝はその辺境伯が持ってるでやんすよ。この財宝よりも狼獣人が辺境伯からもらった武器の方から例のお宝の匂いがするでやんす」
バナナ姫のターバンから大きな青虫🐛のはらぺこウイリーが顔を出して口を挟んだ。
「ふうむ。そうか」
「あのう、喋ってもよろしいでしょうか?」
「よし」
「Yes、マム! そもそも、あっしらは辺境伯さまに雇われた傭兵でして」
「ふむふむ」
「クーデター起こして獣王と一戦迎えるために旅人を襲って軍資金を集めていたわけです」
「追いはぎした資金でクーデターだなんてセコい、セコすぎる! そんなみみっちいクーデターは絶対に失敗するぞ。まあ獣王国が内戦でどうなろうがエルフのわたしには知ったことではないが。ところでラーテル辺境伯はなんの獣人なのだ?」
「Yes、マム! ラーテル獣人です」
「なんの捻りもなくそのまんまやないかい! まあ、獣人としてはかなり強そうではあるな」
「Yes、マム! それはもう。攻撃力も防御力もメチャ強いです。いくら棍棒で殴ろうが刃物で切り掛かろうが傷つくこともなければ、魔法もまったく効きません。まさに無敵です」
「ふうむ。物理耐性も相当ありそうだけど、ひょっとしたら
「Yes、マム! そうかもしれません」
「わたしの召喚魔法で爆裂〜!が通じないかもしれないな」
「Yes、マム!」
「はっはっはっ! こいつは面白くなってきた。聞いたかい、ウイリー! とっても楽しい戦いができそうだよ」
「まったく姫さんはバトルジャンキーでやんす」
「違いない」
「あのう、まさか、バナナ姫さまは辺境伯と戦うおつもりですか?」
「うん? 普通にそのつもりだが?」
「おやめになった方がよろしいですよ! 辺境伯の城には罠もあれば屈強な獣人戦士も揃っております。連中もかなりの魔法耐性力を持ってます。それに、ラーテル辺境伯は最近魔族の国から助っ人も呼んでますからいくらバナナ姫さまでも無事にはすみませんぞ」
「狼、お前って思ったよりもいい奴だな。わたしが辺境伯に倒された方が自由になれていいだろうに」
「どうせ今回の任務も失敗したことですし、このまま辺境伯領には、いや王都の旅人を何人も手にかけてますから獣王国にはもういられません。できればよその国にでも行ってやり直せるものならと思っています」
「ふうむ。わかった。それならお前を解放してやろう。必要な情報も聞けたことだしな」
「へ?」
「召喚! 精霊馬ゴーレム!」
バナナ姫は精霊馬ゴーレムAを召喚した。
目の前に馬並みに巨大な、キュウリに脚が四本生えた精霊馬の形をしたゴーレムが現れた。
「そら、この風呂敷の中に道中の食料になるバナナ🍌とスイカ🍉が入っておる。こっちの巾着袋にはリンゴ🍎とブドウ🍇の種だ。わたしからの餞別だ。隣のドワーフ王国にまでこのゴーレムで送ってやるから向こうで果樹園でもやるがいいさ」
「Yes、マム! なんとお優しい」
狼獣人が涙ぐむ。
「よせやい」
「ドワーフ王国まで送っていただけるとは、バナナ姫さまはやっぱりドワーフ・・・・・・」
「あ゛あ゛ん゛なに言ってんだテメエ、雑魚狼風情が!」
「あががが!」
ギシッギシッ
骨太でずんぐりむっくりなバナナ姫が狼獣人の頭をアイアンクローで掴むと頭蓋骨が軋む音が辺りに響く。
「姫さ〜ん。そいつ泡吹いてもう気ィ失ってやんす。そのまま続けると姫さんの握力だけでもこいつの頭が爆裂するでやんすよ」
「チッ。まったく最近の獣人ときたら軟弱すぎていかんな」
バナナ姫は片手で狼獣人を振り回して精霊馬ゴーレムの上に放り投げた。そして唐草模様の風呂敷包みと巾着袋を精霊馬ゴーレムの首?にかけ、「ドワーフ王国王都行き」と書いた紙を貼ると精霊馬ゴーレムに言った。
「ようし、こいつを落っことさないようにドワーフ王国の都に届けてくれ。この唐草模様を見ればわたしからだとわかるから悪いようにはならんだろう。ついでに大金貨一枚渡すからそれで買える一番強い酒を一樽買ってきてくれ」
「ヒヒヒヒーン」
「精霊馬ゴーレムもヒヒヒヒーンと鳴くんでやんすね」
「だな。でもコケコッコーと鳴く訳にもいかんだろ。よし、行ってこい!」
下僕の狼獣人Aと別れた!
精霊馬ゴーレムAと別れた!
新たに精霊馬ゴーレムBを召喚した!
バナナ姫は狼獣人を乗せた精霊馬ゴーレムを送り出すと、新たな精霊馬ゴーレムを召喚してカボチャの馬車を引かせた。
「最初からこうすればよかったでやんすね」
「よいではないか。人助けをした後は気持ちがいいな」
「姫さん。どうやらもう一人、人助けしなきゃならないようでやんすよ」
「なんだありゃ? こっちは剣と魔法のファンタジー世界だけど、あんなのがいるだなんて今まで聞いたことがないぞ」
街道の前方には黒い貧乏くさい着流しに刀を二本差しで丁髷を結った男がうつ伏せに倒れていた。
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