爆裂エルフ⭐︎バナナ・パインテール姫の冒険

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

第一部 第1章 爆裂エルフ降臨

第1話 爆裂エルフ⭐︎バナナ・パインテール 登場!

「おい、そこのドワーフ! 命が惜しかったら金目の物とあり金そっくり全部よこしな!」


 獣王国の王都とラーテル辺境伯領を繋ぐ街道の一つ。辺境伯領内の人気が少なく見通しの悪い森を通るところで、それは起こった。


 三人の狼獣人の山賊が、たった一人の身長120センチほどの少女を取り囲みサーベルを突きつけている。先程のセリフはこの中で一番大柄な狼獣人Aだ。


「誰がドワーフじゃい、ゴルァ! あんな呑助どもと一緒にするなや、ボケェ!」


 少女が顔を真っ赤にして怒る。


 顔は真っ赤だが着ているものは上から下まで真っ白だ。


 白いターバンに、白いローブに、白いシャツに、下はダボッとした白いニッカボッカで、足元のブーツまで白い。


「いんや、そのずんぐりむっくりした四頭身はドワーフ以外にありえねえ!」


 これは狼獣人B。


 たしかに少女は骨太で固太りだった。頭は大きくて太い。首が太い。肩も太い。腕も太い。腹も太い。脚も手の指も太い。おまけに眉も唇も太い。間違いなくずんぐりむっくりな四頭身だ。


「貴様らの目は節穴か! この白い肌にプラチナブロンド。すっと通った鼻筋に切れ長の目。そして長く伸びた美しい耳。この気品溢れる美貌はエルフ以外にありえんだろうが!」


 気品溢れる美貌かどうかはさておき、少女の言っていることは事実だ。だが大きな頭といい、体型といい、全体的なイメージはエルフよりも限りなくドワーフに近かった。


「そんなチンチクリンでガチムチなエルフなんているものか! エルフを騙るくらいならもっとマシな嘘をつくんだな、この白い珍獣が!」


 これは狼獣人Cだ。


「白い珍獣だとお?」


 少女の目が糸のように細くなった。


ピシッ!


 不吉な音とともに、周囲の空間にヒビが入った。


ヒュオーッ


 避けた空間から亜空間に空気が漏れ出し、旋風が起こる。


「「「ひいっ!」」」


ギシギシギシギシ


 少女の膨大な魔力に壊れかかったこの空間がきしんで家が鳴るような音を立てる。


「「「あわわわわ」」」


 ふと、何事もなかったかのように辺りがシーンと静まりかえる。


「言わせておけば、勝手なことを。もう言わさぬし、もう許さぬ! 召喚! ツインチェリー🍒&パイナップル🍍×かける3!」


「「「は? なんだそりゃ? もごっ!」」」


 ツインチェリー🍒とパイナップル🍍が突如として出現した。それもツインチェリー🍒は山賊たちの両方の鼻の奥に、パイナップル🍍は山賊たちの喉の奥だ。


「「「もごごごごご!」」」


「くっくっく、息ができまい。無礼者ども、そのまま永遠に静かになってしまえ!」


 三人の獣人は鼻や喉の奥に現れた果物を引き抜こうともがくが果たせず、窒息して白目をむいて失神した。


「姫さん、コイツらから例のお宝の匂いが微かにするでやんす。それに山賊にしちゃあいい武器使ってるでやんす。全員殺しちゃあもったいでやんすよ!」


 白いターバンの隙間から大きな青虫🐛が顔を出して話しかける。少女の使い魔、はらぺこウイリーだ。


「ウイリーの言う通りだな。一人くらい生かしておくか。おい、貴様起きろ!」


 姫さんと言われたずんぐりむっくりの少女は、狼獣人Aの喉の奥のパイナップル🍍に指四本を揃えて突き刺して強引に掻き出した。だが、狼獣人Aの呼吸は止まったままだ。


「せえの! よいしょっ! それ、1、2、1、2」


 ずんぐりむっくりの少女は両腕で反動をつけて狼獣人Aの腹の上に跳び乗り、その場で力強く足踏みだ。


「ぐべえっ! ごはあ、ばはあ、ぶはあ、べはあ」


 失神、呼吸停止していた狼獣人Aに強制的な蘇生が行われた。


 少女は獣人の腹から降りると、その太い指で獣人の頭髪を乱暴に掴み頭を引き摺りあげて、顔を寄せて言う。


「おい、貴様。苦しみ抜いて死にたくなければ、貴様らがお宝を溜め込んだアジトに案内しろ!」


 ドスの効いた声でそう言うと、少女はニヤリと笑い、狼獣人以上に太い犬歯をのぞかせた。


「あ、あんた、一体何者だ?」


 顔中涙と鼻水とゲロでぐちゃぐちゃな狼獣人Aは身震いしながら少女にたずねた。


「ふふふ。人呼んで正義の美少女エルフ、バナナ・パインテールとは、わたしのことだ! ジャックフルーツ2個召喚!」


 そう言うなり横ピースでウインクする骨太なエルフ。


ポーン、ポーン


 そのタイミングで背後に横たわった狼獣人Bと狼獣人Cの腹が異常に膨らんだかと思うと間抜けな音を立てて爆散した。


「ば、爆裂エルフのバナナ・パインテール!」


 狼獣人Aはショックと絶望で再び気を失った。

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