第18話 バナナ姫と愉快な仲間たち

「姫さん、助けが来ないでやんすねえ」


「そうだな。助けが来ないな」


 バナナ姫たちは巨大化カボチャ🎃のカケラに乗ったまま、まだ墜落し続けている。


「そろそろ頃合いだな。ウイリー、世話になった」


「へ? 何を言うんでやんすか、姫さん!」


「餞別にターバンをやろう。お前なら軽いし、こいつの空気抵抗なら一反木綿に乗った目玉の人みたいに風に上手く乗って飛べるだろう。ケガもするまい」


 そう言うと、バナナ姫は片手で使い魔青虫🐛のはらぺこウイリーを捕まえて、もう片方の手でするすると頭のターバンをほどき始めた。


「お前との旅は本当に楽しかったぞ!」


「姫さん、待つでやんす! 解いちゃだめでやんす!」


「いいや、待たないね! 恩にも仇にも相応に報いるのがわたしの主義だ。今、相棒を助けられるチャンスがあるのに見逃せるかい! しっかり掴まれよ!」


 バナナ姫はウイリーを解いたターバンの上に乗せて宙に放った。風を捕まえた長いターバンがはためきながらに宙を舞う。それを見上げてサムズアップ👍しながらバナナ姫は満足気に言う。


「じゃあな、達者で暮らせよ! Hasta la vista.(またお会おう)運がよければな!」


「姫さんはオタンコナスでやんすーーーーー!」


 ウイリーの叫びが段々と遠ざかっていった。


「さあ、もう、やれることはないな。どうやって墜落の残りの時間を潰そうか」


 と墜落しながら考えるバナナ姫であった。













「全然思いつかないな」













「心残りと言えば、ジャックだけど」














 バナナ姫はそこでふうとため息をついた。













「あいつのスケベを直すヒマが全然なかったな」














「また誰かのヒモになるんだろうな」














「ジャックにはちゃんと一人前の男として、自活できるようになって欲しかったのだけどな」


「吾輩は見てないのであるが、得意なダンスの道に進ませてみるのも一案なのである」


「え?」


 バナナ姫の落下スピードにガクンとブレーキがかかる。


「捕まえたのである!」


 バナナ姫は巨大なオオコウモリに服の背中を掴まれぶら下がっていた。


「その声は裏ドラ! どうやって?」


「風に流されたウイリーが転移門の中に飛び込んできたのである。事情を聞いたので、すぐバナナ姫の落ちる先に転移門を開いて待ち構えていたのである」


 オオコウモリの姿のウラドラート・ドラクルが淡々と答えた。


「そうか、ウイリーは無事か。よかった。ウラドラート、ありがとう。助かったよ」


「まだなのである。吾輩のオオコウモリ変化では重いものを抱えては飛べないのである。墜落の速度を多少減速させただけなのである。このままだとやはり墜落なのである」


「ではこの後、どうするのだ!」


「時間を稼いだところで選手交代なのである」


「ええ?」


「パンツァー・ラーテル辺境伯、只今参上ーーー!」


 見覚えのある赤い甲冑が、ただし背中には大きな翼と火を吹くロケットを乗せて空を飛び、バナナ姫に向かって猛スピードで突っ込んでくる。


「▽▷▷ガーZか!」


「古いよ! それを言うなら▽◁▽▷マンだよ!」


「では、パスなのである」


 ウラドラートのオオコウモリがバナナ姫をポイっと宙に放り投げて、その場を離脱する!


「うわっ! ちょっと待て!」


「待ってあげないよー。フライング・パンツァー・タックル!」


「ぐへっ! ゴホッ、ゴホッ」


 正面からのタックルの要領でラーテル辺境伯がバナナ姫の腹部にモロに激突!💥 そのままバナナ姫を肩に当てがったまま飛び回る。


「パンツァー、お前も空を飛べたのだな」


「そうさあ。背中に魔道ロケットのモジュールをつけたら飛べるのさあ」


「やれやれ、コレで助かったよ」


「バナナ姫、実はコレには欠点があってねー。ホバリング、つまり空中での停止ができないので飛び回っていなきゃならないんだよ」


「へえ、そうなのか」


「そしてもう一つ問題があってねぇー。墜落はできるけど、着陸はできないんだよー」


「ええ! なんだって!」


「甲冑の防御力が良過ぎてねえ。私は墜落でも全然平気だけど、一緒に墜落したら貴君の方は生命も安全も保証できないんだよー」


「おいおいおい!」


「だーいじょうぶ。じゃあ遅めの上昇飛行に切り替えるから下を御覧よー。そろそろ最後の切り札が発射されるよー」


 バナナ姫が下方に目を凝らすと超・お岩スーパーロックとなった伊右衛門がなにか白いモノをハンマー投げのようにブンブンと振り回しながら自分も回転していた。


「へいやあああああああああ、へやっ!」


 物凄い気合いでぶん投げられた白い物体がぐんぐん上昇してくる。


「バーナーナー!」


 バナナ姫の婚約者、ジャック・ドードリアンが人間ロケットとなって飛んでくる。ドップラー効果でマスクをしている時みたいに声が高めだ。


「ジャーック!」


「そろそろ魔道ロケットも魔力切れで墜落するから、ここまでだねー」


 そう言うとラーテル辺境伯もバナナ姫をぽいっと空中に投げ捨てた。


「うっわああ!」


 再び空に投げ出されてジタバタするバナナ姫。


「貴君たちの幸運を祈るよー。お先ー」


 見ているとラーテル辺境伯は頭を下にして魔道ロケットの炎を吹き散らしながらあっという間に地上に向けて落ちていく。うんと小さくなったところで、炎が消えて、白い煙が吹き出し、その次には地面から派手に土埃が舞う。しばらくしてドンと言う音が聞こえた。


 そんなところで後ろから身体を手繰り寄せられ、逆を向かされた。


「よそ見はいけないな、ハニー」


「ジャック! おまえは何しにきたんだ! フェネクスはどうした!」


「フェネクスは無事確保して着陸させたよ。だから、バナナを助けに来たんだ」


「豆の木はどうした? 豆の木は!」


「この位置じゃ豆の木のスピードじゃあ追いつけないから、飛んできたのさ」


「ぶん投げられただけのクセに、無茶しやがって! このあとどうするつもりだ!」


「ボクにしかできないやり方でバナナを助けるんだよ」


「どうやって!」


「こうやって」


 ジャックはバナナ姫の顔を両手で包むといきなり唇同士を深く重ねた。


「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 ジャックのキスから逃れようと暴れるバナナ姫。だが、ジャックは一向に離そうとはしない。


「ぷはあーっ! なにするんだこの変態バカエロフ!」


 バナナ姫はグーパンをジャックの顔面に打ち込もうとして、動きを止めた。


「おい、ジャック! なんだその顔色の悪さは! お前いったいなにをしたんだ!」


「ははは、ベタで悪いけど口移しでボクに残っていた魔力をバナナに渡したのさ。今日はボクもけっこう魔力を使ったから、足りるかわからないんで生命力もつけておいたよ」


「なんてことを!」


「安心したら眠くなったよ。悪いけどあとはまかせた、バナナ・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・ごめん」


 ジャックは意識を失ってバナナ姫にもたれかかる。


「まったく、いくつになっても世話の焼ける! 結局丸投げじゃないか! バカジャック!」


 バナナ姫はにっと微笑んだ。バナナ姫の全身が光を放つ。


「よし、いけるぞ! 召喚! 巨大精霊馬🥒ペガサスモード!」


「ヒヒヒヒヒヒヒーン」


 ゾウよりも大きく、立派な翼が生えた精霊馬🥒が現れた。二人を背中に受けとめ空を駆ける。


 巨大な精霊馬の背中の上。バナナ姫の膝枕でジャックはスヤスヤと寝息をたてている。


「まあ、今日一日本当に色々あったからな。おつかれさま。命知らずのバカジャック」


 眠れるイケメン婚約者を見ながら微笑むバナナ姫だった。


「うまくいったようなのである」


「うわあ! びっくりするじゃないか裏ドラ!」


「みんな心配しているのである。イチャイチャするのは後回しにしてさっさと降りてくるのである」


「わかったから、さっさとあっちへ行け!」


「地上が近いのである。脇見運転は危ないのである」


「わかったって! わあああ!」


ガガガガコガコガコッ   ガシャッ


 巨大精霊馬🥒はラーテル城の最上階を破壊して、裏山の崖に激突した!💥


「ああああああああああ」


 バナナ姫とジャックが精霊馬🥒から放り出され、崖下へ落ちていく。


バサっ!


 崖の上から大きな網が投げられて、バナナとジャックをまとめて受け止めた。網がジリジリと引き上げられる。グリーズ将軍がジュニアや肉じゃがと一緒に網を引いていた。


「危なっかしい姫さまだのう」


「気をつけなきゃダメだぜ姫さま」


「そうっすよ、安全第一っす」


「みんなありがとう!」


「お帰りなさい、姫さん」


 ウイリーが飛び跳ねながら出迎えた。


「ウイリー! ああ、ただいま」


「ジャックはまだ伸びているでやんすね」


「仕方ない。恩にも仇にも相応に報いるのがわたしの主義だ。お返ししてやろう」


 バナナ姫はジャックの頭を起こすと唇を深く重ねた。


おおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 三千人余りのどよめきが二人を包んだ。ジャックの顔に血の気が戻る。


「ぷはっ! バナナ! 何をしてるんだ! しかも、こんな大勢の前で!」


 息を吹き返したジャックが身を起こしてうろたえる。


「うん、全部もう終わったぞ。だから、魔力も生命力も借りたものは半分だけ返したぞ」


「ふーん。全部は返してくれないのかい?」


「慌てるな。イヤだと言っても明日から毎日、三倍にして返してやる。今はコレだけでガマンしろ!」


チュッ


 バナナ姫は今度は音を立てて、軽く触れるだけの口づけをジャックにする。


「やれやれだねー。お熱いお熱い」


「まったくでござる」


「まあ、終わりよければ全てよしであるな」


 ラーテル辺境伯、伊右衛門、ウラドラートも駆け寄ってきた。


「みんなああああ、ありがとおおおおお!」


 バナナ姫が周りを見回しながら手を振った。


おおおおおおおおおおおおおおおおおお!


バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ! バ・ナ・ナ!


 三千人余りの大歓声が彼らを包んだ。その大歓声は長く、長く続いた。








次回 エピローグ・世界を脅かす者につづく

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