第19話 エピローグ・世界を脅かす者
バナナ姫が世界の危機を救ったそのあとの事も少しだけ触れておこう。
ラーテル城にて。
「ええ、ですから突然に巨大な怪物が現れて大暴れしたのです。アレはきっと邪神だったのではないでしょうか。どうしてそんなものが出現したかなんて分かりませんよ! あの怪物への対応だけで精一杯だったのですから」
パンダ🐼獣人であるグリーズ・リー将軍が穏やかな微笑みを浮かべ獣王国を含む各国王族の合同視察団に事件の説明をしている。
「たまたま我が主人であるパンツァー・ラーテル辺境伯と、お客さまとしていらっしゃっていたエルフ王国のバナナ・パインテール王女さま、同じくバナナ王女の婚約者のジャック・ドードリアンさま、タクナ魔王国のウラドラート・ドラクルさま、そして異世界の戦士のタミヤ・イエモンさまの五人の勇者が力を合わせてその怪物を倒したのです」
おおおおおおおおおおおおーっ!
「ではこの数多のクレーターや半壊したラーテル城はその闘いの跡なのですな」
「左様でございます。ところが怪物は倒されて消える直前にこの世界を滅ぼすべく月に向けて虹色🌈エネルギー波を発射したのです。それを五人の勇者と我が軍の精鋭三千名が知恵と力を合わせて未然に食い止めたのです」
「やはりあの
「しかしどうやってアレを止めたのでしょうか?」
「申し訳ございませんが、勇者の方々がおっしゃるには他の方が真似するにはあまりにも高いリスクのためその方法は公表不可となっております」
「やはり選ばれし勇者しか使えぬ技なのだな」
「それもそうだろうな。実に残念だ」
「人的被害は出なかったのですかな?」
「多数の負傷者が出ました。幸いにして
「その方はお話ができるのでしょうか?」
「いいえ、意識不明の重体です。回復の見込みはございません。おそらく今回の事件での唯一の犠牲者になると思われます」
「なんとそれは残念なことでありますな」
「本人は軍人ですから、任務に殉ずることを誇りに思っているはずです」
「うむ。きっとそうですな」
「肝心の世界の危機を救ったラーテル辺境伯や勇者の方々は今どこにいらっしゃるのですか!」
「辺境伯さまと勇者の皆さまは、実は新たに明らかになった世界の危機に立ち向かうために、もう既にこの地を離れて遠い異国の地に向かっていらっしゃいます」
「なんと! それでは、世界を救った恩人である勇者たちを直接讃えることができないではないか!」
「きっと勇者たちにとっては、そんな小さなことよりも新たな世界の危機に立ち向かうことの方がはるかに大切なのだろう」
「世界を救っておきながらなんの名誉も求めないとはなんと謙虚な方々だ! 我々も見習うべきであるな」
「その五人こそまさに真の勇者だ! せめて邪神から世界を救った五人の方の名前を刻んだ記念碑を各国に建てようと思うのだがどうだろうか?」
「「「「「「異議なし!」」」」」」
五人の預かり知らぬところで、彼らは邪神から世界を救った英雄として世界の歴史に名を刻む事が決定した。
少し離れたところでグリーズ将軍の話を聞いていた二人組がいた。
「おい肉じゃが」
「ジュニア先輩どうしたっすか?」
「偉い奴の言うことを鵜呑みにしちゃあいけないって本当だったんだな」
「そうっすね。よくも、まぁあんなにもっともらしい、嘘をペラペラとつけるもんすね」
「パンダ🐼顔ってなんか得だよな」
「そうっすね」
「突撃隊のンゴロンゴロ元隊長は辺境伯さまの命令だと偽って勝手に傭兵団に山賊をやらせて私服を肥やしていたそうだな」
「余罪を全て吐かせてから、グリーズ将軍が内々で処刑するんだそうっす。まぁウチの汚点っすから、表沙汰にはできないっすね。アレが政治的正しさってヤツなんすかね。ところで、先輩はバナナ姫と一緒に行かなくてよかったんすか?」
「ああ、俺のような凡人じゃあ、あのお方の仲間は生命がいくつあっても務まらねえよ。もっとこうなんか修行でもしないと無理だな」
「そうっすねえ。強烈な人たちだったっすね」
「いきなり現れて、大暴れしたかと思えば、いきなりいなくなる。まるで竜巻のような人たちだったな」
「まったくっす。でも、またお会いしたいっすね」
「ああ、そうだな。ところで新たな世界の危機ってなんだ?」
「さあ?」
獣王国に隣接するオアシス連邦共和国。
共和国に入ったバナナ姫の一行は精霊馬🥒に引かせたカボチャ🎃の馬車で首都を目指していた。
「なんで逃げるように辺境伯領から出たんだい、ベイベー」
「決まっている! 事故とは言え世界を滅ぼしかけたんだぞ! あのままいたらバレてめちゃくちゃ怒られるじゃないか! もうお尋ね者になっているかもしれないな」
「たしかに、ラーテル領にいて知らぬ存ぜぬと白を切り続けるのも無理があるでござる」
「じゃあ姫さん、どこに向かうんでやんすか? オアシス連邦共和国は色々な国への交差点でやんす」
「そりゃあ、貴君に惚れた王太子が待つドワーフ王国だろうさあ。幻の銘酒『褒め殺し』がまた飲めるねー」
「なんだって! おいバナナ!」
「行かない! ドワーフ王国には絶対に行かない! あんなやばいキノコ🍄がいっぱいの国には絶対に行きたくない!」
「ははーん。そう言う訳なのであるか」
「だいたいなんでパンツァーと裏ドラまで当たり前の顔をして馬車の中にいるんだ! 仕事はどうした、仕事は!」
「領地の管理は優秀なグリーズ将軍に丸投げだあ。バナナのやらかした事件も多分うまく揉み消してくれてるさあ。それよりも、もっと重要な仕事ができたんだよー」
「なんなんだそれは!」
「マジで世界を滅ぼしかねない危険人物が暴走しないようにして世界を守ることさあ! バナナ姫を止められるとしたら、私たちくらいのもんだ!」
「「「「うん、うん!」」」」
「おい! わたしを邪神扱いするんじゃない! ジャックもウイリーも伊右衛門も裏ドラも納得するんじゃなああああい!」
「吾輩も魔王コーガンタさまより警戒任務を拝命したのである。魔力量がアレほど異常に多いバナナ姫ほどの危険人物は他にはいないのである。いつなにが爆裂するかもわからない、ココこそが世界の危機の最前線なのである」
「「「「うん、うん」」」」
「なんてひどい言い草だ! ジャックもウイリーも伊右衛門もパンツァーも納得するなああああああ!」
結局、新たな世界の危機はバナナ姫自身の存在であった。
そしてこの五人、まだまだ一緒に大騒動をやらかすことになるのであるが、それはまた次の機会に。
ではまた会う日まで皆さま御機嫌よう!
(第一部 完)
最後の最後まで目を通してくださる
オアシス連邦共和国の宿屋にて
「バナナ姫! 大変なのである! ジャックが覆面とこんな書き置きを残していなくなったのである!」
「ほう」
「どれどれー? 私にも見せてよー。『世界の愛がボクを呼ぶ! ボクは自由なトリなのさ! ジャック』 なんだい! この頭の悪そうなフレーズは!」
「やっぱり作詞の才能はからっけつでやんすね」
「全面的に同意だ」
「四の五の言っている場合ではござらぬ! バナナ姫さま、早く追いかけるでござるよ!」
「ああ、それなら大丈夫だ。直ぐに帰ってくるさ」
「ほう。貴君はずいぶんと落ち着いているねー。それって正妻の余裕と言うやつかなあ?」
「いいや」
「バナナー! キミはなにをしてくれたんだ!」
「「「あ、本当に帰ってきた」」」
「ジャック、無断外出は禁止してあるはずだぞ。それにどうやって外したか知らないけれど、外に出る時はあのマスクを外しちゃだめじゃないか」
「それよりも、道ゆく人がみんなボクの素顔を見て指さして大笑いするんだよ! 一体何がどうなっているんだい?!」
ところが、皆がジャックの顔を見ても何も変なところはない。ただのイケメンである。
「どう言うことでござるか?」
「わからないねー」
「フムフム。なるほど、奴隷紋の応用なのである!」
「正解! 奴隷商人のメイヤー・ガラガラドンとわたしの合作だ。今の設定はわたしの許可なく十メートル以上わたしから離れたら、楽しいフレーズが次々と顔面に表示されるようになっている」
「ほっほう、たとえばー?」
「じゃあ設定を変更して常時表示に切り替えよう」
バナナ姫がパチンと指を鳴らすと、ジャックの顔面にとんでもないフレーズが代わる代わる現れた。バナナ姫がそれをジャックに読んで聞かせる。
「『エルフじゃないよ。エロフだよ』、『人間、
「「「「うわあああ!」」」」
「あまりにも
「生き恥でござる!
「ありえないよー。いくら婚活中でも顔にこんな落書きの男の人とは絶対にお付き合いしたくないねー」
「ごめんバナナ、お願いだからもう許して!」
「いいや、許さない。十年間好きにさせてきて、やっと捕まえたんだ。もう逃がさないし、今後は誰にも渡さんッ! ジャック、お前は身も心もわたしの所有物だ。わたしのために全力で尽くしてもらうぞ!」
「ひいいいいっ!」
とは言うものの、バナナ姫とジャックの浮気をめぐる攻防は、手を変え品を変えこの先もまだまだ続くことを、今の二人はまだ知らないのであった。
(第一部 今度こそ本当に完)
💥爆裂エルフ🍌バナナ・パインテール姫の冒険 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
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