第17話 バナナ姫と世界の終わり

 虹色🌈のエネルギー波はギラギラと輝きながら月に向かっている。


「世界がヤバいねー。ジャック君、貴君はバナナ姫の回復を早く頼むよー」


「もちろんさ。今、やっているところだよ。おーい、バナナ〜! おかしいな。もう目が覚めてもいいはずなのに」


「ジャック君、姫が目覚めるにはやっぱり王子さまのキスが必要なのではないかなあ」


「え?」


「そうであるな。ここは一発熱いキスをぶちゅーとかますのである。ほれ、伊右衛門も応援するのである!」


「キスというと、せ、接吻ではござらんか! 公衆の面前でなんと破廉恥な真似をさせるのでござるか! でも、世界を救うためにはやむを得ないでござる! さあ、今すぐやるのでござる! ささ、早う早う!」


「世界の危機だというのに、なんでキミ達はそんなに楽しそうなんだい!」


「いいじゃないか、そうれキース、キース!」


「「キース、キース!」」


「わかったよ! するよ! するから! 本当はちゃんとバナナに許してもらってからにしようと思っていたんだけど。じゃあ、バナナ、マイハニー、目覚めの口づけを」


 眠れるバナナ姫の顔にイケメンのジャックの顔が近づいていって・・・・・・


「あっ、こんなところにキノコがあるでやんす!」


 ウイリーがキノコ🍄を見つけてうまそうにパクッと食べた。そのときだ。


「ひィーーーーーッ! キ、キノコーー!」


ゴスッ


 悲鳴をあげて飛び起きたバナナ姫の頑丈な額での頭突きが、ジャックのこめかみテンプルを撃ち抜いた。


 そのままゴロゴロと転がって行き、倒れたまま動かなくなるジャック。


「キノコ、キノコはどこだ!」


 パニックになっているバナナ姫。


「姫さん、安心するでやんす。キノコなら、あっしが食べたでやんす」


「ああ、よかった!」


「バナナ姫、貴君はもしかしてキノコが苦手なのかい?」


「あ、ああ。アレルギーとトラウマがほんのちょっともの凄く酷いんだ」


「なんだいそりゃあ?」


「前に色々とあったんでやんすよ」


「おや? ジャック! なんでこんなことで寝ているんだ! 風邪を引くぞ!」


「うーん。頭が割れるように痛いんだよ、ベイべー」


「飲みすぎか?」


「違うよ、マイエンジェル」


「ジャック殿が不憫ででござる」


「今はそれどころではないのである。アレを見るのである」


 ウラドラートは虹色🌈のエネルギー波を指差す。


「げっ、ヤバいぞ、アレ!」


「そうなんだよー。だから貴君に私を巨大化したり足場を作ったりしてもらおうかと実は思っていたのさあ」


「いや、巨大化はともかく、わたしにも巨大な足場を空中に作るのはムリだ!」


「貴君でもダメかあ、残念だー」


「でも、このままでは月が爆裂して世界が滅びるのである!」


「姫さま、何か手立てはござりませぬか!」


「うーん」


 バナナ姫は腕組みをして考えた。空を見上げたり、地面を見下ろしたり。そして、少し前にラーテル辺境伯のマッハ・ハリセンでジャックが激突💥して破壊した元はカボチャ🎃の馬車だった繭が目にとまった。


「コレならいけるかもしれない。というかこの方法しか思いつかない」


「貴君! 何か思いついたのかい!」


「ああ! かなり無茶だけど時間もない! ウイリー! ジャック! 伊右衛門! パンツァー! 裏ドラ! お前たちみんなの力を合わせて乗り切るぞ! 作戦はこうだ!」


 バナナ姫は一同に手短に説明した。


「合点承知の介でやんす!」


「うん。わかったよ、スイートハート!」


「承ったでござる!」


「よし、それでいこう! 世界の運命は貴君に委ねたよー」


「納得したのである。協力させていただくのである!」


「では各自持ち場に待機。五分後に作戦開始だ!」


「「「「「応!」」」」」













 五分後、バナナ姫は空中に浮かぶ巨大な転移門の前に、自分自身も【空歩】で空中に立っていた。いつものように頭のターバンから使い魔青虫🐛はらぺこウイリーが顔を出したスタイルだ。


 右手には『打ち出の小槌』こと『ミョルニル』が、左手には長い長いロープ。ロープは転移門についた滑車を通ってその奥の遥か彼方から延びている。


 転移門のすぐ向こうには魔法が効かないパンダ🐼獣人のグリーズ将軍と再び赤い甲冑殺・リーズナブルを装着したパンツァー・ラーテル辺境伯が最前列でロープを握る。


 魔法による補助要員のジャックとウラドラートは最前列のグリーズ将軍とラーテル辺境伯を挟むように、その脇に立っている。


 その後ろにはジュニアに肉じゃが、そしてバナナ姫にココナッツ・メテオでコテンパンにされた三千人の兵士たちがズラリと並びそれぞれロープを握りしめている。


 最後尾は再びお岩さんと合体して『超・お岩スーパーロック』になった伊右衛門がロープを身体に巻き付けて立っていた。綱引きでいうアンカーの位置だ。


 ロープのこちら側の先端はバナナ姫の手を巻いてぶら下がり、その先は網になっている。網の中ではスイカ大のハロウィンで使うカボチャ🎃のランタン、ジャック・オー・ランタン🎃が大きな口で笑っている。


「カッシュ、カッシュ、カッシュ」


 ランタン🎃の大きな口の中にはヒヨコくらいの大きさのヒクイドリ型火の鳥、不死鳥フェネクスが入っていた。


「フェネクス、たっぷりと濃いエネルギーを喰わせてやるからな!」


「姫さん、そろそろ来るでやんす」


 足下の前下方を見張っていたウイリーが遥か彼方の虹色🌈にギラギラ輝くエネルギー波に気づく。


「よーし、始めるぞ! みんな気合い入れて抑えろよ! ド短時間の一本勝負だ! 絶対にロープを手放すなよ!」


 バナナ姫が転移門を振り返って叫ぶ。


応!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 三千人余りが応えて叫ぶ。その声があたりに轟く!


「まるで落雷だな。その意気や良し!『ミョルニル』! 網やロープを最大限強化しながらジャック・オー・ランタン🎃を巨大化かつ強化しろ!」


 バナナ姫が『ミョルニル』に魔力を込めてカボチャ🎃のランタンに向けて発射すれば、みるみる巨大化していく。


「よし、こちら側のみんなの筋力と持久力を最大強化だ!」


 ジャックも同時にロープを持つ全員に強化魔法をかける。


「吾輩も転移門が壊れないように魔力で強化するのである!」


 同じくウラドラートも転移門に強化魔法をかけた。

 

 既に目の良い者ならば地上から見えるほどに巨大化したカボチャ🎃のランタンが、三千人余りの人力によってロープで上空高くに吊るされている。もちろん、そのためとてつもない重みが転移門やロープにかかっている。


「お前たちー! 踏ん張れー!」


応!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 三千人が応えて叫ぶ。


「よし、大きさは充分だ。あとはランタン🎃の強化だ! 『ミョルニル』、ランタン🎃がエネルギー波を受け止めきるように徹底強化だ!」


 バナナ姫も、極太になったロープにしがみつきながら、カボチャ🎃ランタンの上に乗って魔力を注ぎ続ける。


「フェネクス、焦点に移動してスタンバイだ!」


「カッシュ、カッシュ、カッシュ」


「来たでやんす! エネルギー波被弾でやんすー!」


「お前たちー! もう一つ踏ん張れー!」


応!!!!!!!!!!!!!!!!!!


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ


 轟音を立てながら虹色🌈のエネルギー波が巨大化カボチャ🎃のランタンの大口に命中して揺さぶる。虹色🌈エネルギー波は強化されたカボチャ🎃の口の中で反射して、焦点に集約されてフェネクスの身体を焼く。


「カッシュ、カッシュ、カッシュ、カッシュ」


 エネルギー波でその身を焼きながら、そのエネルギーを我が物としてより大きな身体に再生して復活し続ける火の鳥、不死鳥フェネクスが嬉しそうに鳴いている。巨大なカボチャ🎃のランタンの中で、その身体もどんどん大きくなっていく。


「よーし、いい子だ。エネルギーを喰らい尽くせ!」


ピシッ


 足下でカボチャ🎃のランタンにヒビが入った。


「まずいな。エネルギー波はあと1分くらいは続くぞ」


ピシッ ミシッ


 ヒビがさらに広がる。


「ウイリー! 可能な範囲で構わないから、魔糸でカボチャ🎃ランタンを補強してくれ!」


「了解でやんす!」


 口から魔糸を吐いて縫い合わせるように器用に接着していくウイリー。


ミチッ ミチッ ブチブチブチ


 今度は巨大なカボチャ🎃ランタンを吊り下げているロープの繊維が過負荷に耐えかねて少しずつ切れてきた。


「こっちの方もそろそろ限界か!」


「門はもう大丈夫であるから、ロープを魔力で補強するのである!」


 ヴァンパイアのウラドラートがロープを引っ張りながら魔力を込めている。


「頼む!」


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ


「バナナ姫ー、まだかなー」


「もう30秒もない、あとちょっとの辛抱だ!」


ガツン!


 バナナ姫が乗っているカボチャ🎃ランタンが20センチほど下がった。


「ロープを引っ張る方もそろそろ限界だよ、マイエンジェル」


「カッシュ、カッシュ」


 カボチャ🎃ランタンいっぱいに大きくなった虹色🌈に輝くフェネクスが、ランタンの口から頭を出して心配気にこちらを見上げた。


「大丈夫だ! あとちょっとだ」


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ


 下から浴びているエネルギー波の末端が迫って来た。


「せめてあと十秒だけ耐えてくれ!」


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ


 十、九、八、七、六、五、


バリバリバリ    バリ      バリ


「やった! お、終わったぞ!」


 四、三、二、一


ぶちっ


「え?」


うわああああああっっ!!!!!!!


 ロープが切れた反動で転移門の向こうで三千人がひっくり返る。


 巨大化カボチャ🎃ランタンが、バナナ姫たちを乗せたまま、重力に引かれて地上に向かって落下していく。


「バナナーーーーッ!」


 転移門でジャックが叫ぶ。


「ガッシューツ、ガッシューッ」


ガスッ ガスッ ガスッ


 巨大化不死鳥フェネクスが巨大カボチャ🎃ランタンの中で暴れる。蹴りで内側から破壊を試みている。


「不死身なくせに暴れやがって。あっコイツ飛べないからさては高所恐怖症だったか」


ミシミシミシミシ バキャッ


 ついにカボチャ🎃ランタンが空中分解する。


「ガッシュー」


 墜落していく巨大フェネクスをカボチャのカケラの上から見下ろすバナナ姫たち。


「このアホウ鳥が! ウイリー! 巨大カボチャ🎃のかけらが地上に落ちないように急いで吸収してくれ!」


「OKでやんす!」


ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ


「バナナーッ!」


 ジャックが転移門から豆の木の蔓に乗ってバナナの方に飛ぶように向かってくる。


「ジャック! わたしは大丈夫だからあのデカいフェネクスが地上に落ちて被害が出ないように、豆の木で受け止めてやってくれ!」


「バナナは本当に大丈夫だな!」


「くどい! 行け!」


「わかった! のびろ豆の木! フェネクスを救え!」


 ジャックは墜落して行くフェネクスの方に大急ぎで向かった。


「で、姫さんはどうするでやんすか?」


「ミスったよ。転移門に命綱結んでおけばよかったな。コレじゃあヒモなしバンジーだ。【空歩】で止まるにも加速がつき過ぎている」


 話しながらも落ちていく一人と一匹。


「ならばさっさと精霊馬ペガサスモードを召喚するでやんす」


「そうだな。精霊馬ペガサスモード召喚!」


しーーーーーーーん


「どうしたんでやんすか?」


「すごく言いにくいんだが、わたしは十年ちょっとぶりに魔力を使い切ったみたいだ。今は『ミョルニル』も召喚も使えない」


「え? じゃあどうするんでやんすか!」


「決まっているだろう」


「わかったでやんす」












「「たああすううけええてええー!」」



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る