第16話 バナナ姫と『打ち出の小槌』
「姫さま、いよいよでやんすね!」
ターバンの中から顔を出した使い魔青虫🐛はらぺこウイリーが言う。
「ああ、ついにわたしがあるべき姿を取り戻すときが来た!」
バナナ姫は『打ち出の小槌』を天に向かって突き上げて、膨大な魔力を流し込む。
「『打ち出の小槌』よ! わたしを元の八頭身の高貴で美しい姿に戻しておくれ!」
『打ち出の小槌』が虹色🌈に輝き、その光がバナナ姫をやさしく包む。そのまぶしさに思わず目を閉じる。
「チ▷コが生えればいいのに」
ラーテル辺境伯がボソッとつぶやいた。
バナナ姫のエルフ耳がピクリと動く。虹色🌈の光があっという間に弱くなり消えた。
バナナ姫はつかつかとラーテル辺境伯に詰め寄る。
「パンツァー! わたしが精神集中してイメージしているときに余計なことを言うんじゃない! 本当に生えてきたらどうするんだ!」
「生えたら使えばいいじゃないかあ」
「そんなにチ▷コを生やして使いたいなら、パンツァー、お前のおでこに生やしてやろうか!」
「やあ、さすがにそれは婚活に差し支えるからナシで頼むよー」
「だったら余計なことを言うんじゃないぞ。これはフリじゃない。
「だーいじょうぶ。わかったよー」
バナナ姫はあらためて『打ち出の小槌』を天に向かって突き上げて、膨大な魔力を流し込む。
「『打ち出の小槌』よ! わたしを元の八頭身の高貴で美しい姿に戻しておくれ!」
『打ち出の小槌』が再び虹色🌈に輝き、その光がバナナ姫をやさしく包んだ。そのまぶしさに再度目を閉じる。
バナナ姫は浮遊感と立ちくらみのようなめまいを感じてよろめいた。
「危ない、離れるんだ!」
遠くで誰かが叫んでいる声がする。
目を閉じたままでも感じていたまぶしい光がおさまった。バナナ姫は、そっとその目を開けると、まず自分の股間を確認した。
「よかった。生えてない!」
次にバナナ姫は、目の前に自分の手をかざし、握ったり開いたりしてみた。つい先ほどまでの拳ダコに覆われた空手家のような太く丸っこい拳でも、掴んだ相手の皮や肉を引き千切れそうな逞しい指でもない。ごく普通の女性らしい薄く柔らかそうな手に、柳の葉のようなと言いたくなる細く伸びた優しい指だ。
肌の色も今まで通りの透明感のある白い肌だ。腕をまくって見ても、幸い肌の色は青とか緑だとか縞模様というオチにはなっていない。
「どうやら成功したようだな」
顔を上げて前を見れば、さっきまで宴会をしていたラーテル城の裏山がなぜか今までよりも近くに見える。
「背が伸びて戻っただけでこんなにも見える景色の印象が変わるのだなんて、わたしもずいぶんとおめでたい性格だな」
バナナ姫は独り言のあとでくすりと笑った。
「ウイリー! 確認したい! こっちからわたしを見てくれ! どうだ、手や指だけでなく全体的に元の八頭身のプロポーションに戻れているか? 変なところはないか?」
バナナ姫はターバンから顔を出している🐛はらぺこウイリーに手を差し伸べて、掌に移らせた。
🐛ウイリーはバナナ姫の姿を頭のてっぺんから爪先までじっと眺めて言った。
「姫さん、今のお姿は間違いなく十年前のあの頃と変わらない八頭身美女のプロポーションでやんす。完璧でやんす」
「そうか、わたしは本当に成功したんだな」
思わず涙ぐむバナナ姫。
「姫さん、お言葉でやんすが大失敗でやんす」
はらぺこウイリーが下を向いて言った。
「どういうことだ? 意味がわからんぞ、ウイリー!」
「姫さん、足下を見るでやんす」
「うん? な、なんだこれはーッ!」
バナナ姫は自分がさっきまでラーテル辺境伯やジャックや伊右衛門とじゃれあっていたクレーターを遥かな高みから見下ろしていた!
「姫さんはたしかに完璧に10年前の姿形に復元できたでやんすが、身長は60mほどになっているでやんす!」
「嘘だろう? 嘘だと言ってくれ!」
「嘘ではないでやんす」
「そ、それじゃあ、わたしはいったいどうすればいいのだ!」
バナナ姫は涙ぐみつつあたりを見回した。ラーテル城の上には微笑むスマイリーの口のような三日月が早くも昇っていた。
「くそっ! もう一度『打ち出の小槌』を使うか? でも、うまくやらないと同じことの繰り返しになる!」
そのとき、足下からジャックの声が聞こえた。
「おーい! バナナー! 今、そっちに行くから動くんじゃないぞー! 伸びろー! 豆の木ー!」
巨大化八頭身美女・バナナ姫の足下から、彼女にとっては細いが、普通の人間にとっては巨大な豆の木がグングンと育って伸びてくる。ジャックの固有スキル『豆の木』だ。
豆の木の先端の葉っぱの上にはジャックと伊右衛門とラーテル辺境伯に、裏ドラことウラドラート・ドラクルが乗って豆の木の芽にしがみついていた。
「止まれ! 豆の木!」
ジャックがそう言うと豆の木は巨大化八頭身バナナ姫の顔の前で止まった。
「バナナ、大丈夫か! どこか痛いところはないか! 気持ち悪いとかはないか!」
巨大化エルフのバナナ姫の顔の前でジャックがたずねた。
「もう大丈夫。さっき巨大化したときふらっとしただけだ」
「そうか、ならばよかった」
「いや、ちっとも良くないでござるよ」
「そうだねー。さすがにこのままって訳にはいかないよねえ。これはもう一回ハンマーを使わなければだめだと思うよー」
「そうだと思う。でも使い方が非常に難しいな」
「いやいやいや、吾輩驚いたのである。バナナ姫の魔力は本当に規格外で測定不能なのである。吾輩の経験はおろか、記録や伝説も含めて、『ミョルニル』でここまで巨大化した例は知らないのである」
「ちょっと待て、今『ミョルニル』と言ったか、裏ドラ?」
「言ったのである」
「このハンマーは『打ち出の小槌』じゃないのか!」
「どちらでも同じである。国によって『打ち出の小槌』と言ったり『ミョルニル』と言ったり『トールハンマー』と呼ぶのである。ともかく魔力で事象を改変するマジックアイテムである」
「じゃあ、なんでわたしは巨大化したんだ!」
「『ミョルニル』は魔力でガラクタを金銀財宝に変えたりもできるのであるが、込める魔力の量によっては物や人を巨大化もできるのである。はっきり言ってバナナ姫は魔力を込めすぎたのである」
「よし、わかった! 今度は魔力を少しずつ込めればいいんだな!」
「待つのである! まずは巨大化したバナナ姫の身体に溜まっている余剰の変成魔力を放出しなければならないのである!」
「放出?」
「口から余剰の変成魔力をエネルギー波にして発射すればいいのである」
「ゴジ▽みたいだな。こうか?」
巨大化八頭身バナナ姫が、はあーっと息を吐く。
「全然ダメなのである。空気しか出てないのである。もっと身体の奥から魔力を絞り出すのである」
「うーむ。難しいな」
「ねえ、ノドの奥に指を突っ込んだらいいんじゃないかなあ」
「ゲロを吐くのとは違うのでござる!」
「いや、意外と良い考えかもしれないでやんす」
そう言うとはらぺこウイリーはぴょんとジャンプしてバナナ姫の頭のターバンに潜り込んだ。
「うむ。使えそうな方法はなんでも試すべきだな」
そう言うと巨大化したエルフの八頭身美女であるバナナ姫はその細く長い指をノドの奥に差し入れた。
「ボエーッ、ゲヘッ、ゲヘッ」
巨大なエルフの美女が白目を剥いてえづいた。
「自分がすすめておいてなんだけど随分と酷い絵面だねー」
「必要なことなのである。もっと絞り出すべきなのである」
「バナナー! がんばれー!」
「がんばるでござる!」
「あっ! なにかが奥から出てきそうな気がする」
そう言うと巨大化八頭身バナナ姫は再びノドの奥に指を突っ込んだ!
「ンゴゴゴゴォーオーオー」
えづく巨大化バナナ姫の身体が白く輝き出した。大きく開けた口の奥も虹色🌈に輝いている。
「良いのである! 非常に良い感じなのである!」
「よし、やっちまえー」
「バナナ姫さま! もう一息でござる!」
「吐け! 吐くんだバナナ!」
ズドーン! ドシーン!
巨大化エルフ美女が両手両膝を地について四つん這いになる。その姿勢から白目を剥いて大口を開けたまま頭をもたげた。
チュミミミミミミミミミーーーン
バナナ姫の口の中の輝きがどんどん強くなる。
「あっ! ちょっと待ってよー! あっちは私の城じゃないかあ!」
「残念ながら、もう遅いのである」
「そんなあ」
ヴィン
ズキューーーーーーーーーーーーーーン
「あああっ!」
巨大化八頭身バナナ姫の口から虹色🌈のエネルギー波が発射された。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリ
エネルギー波は轟音を立てて大気を切り裂き、ラーテル城の屋根を消滅させてなおも止まらず、そのまま空の彼方に向かって弧を描き上昇しながらグイーンと飛んでいく。
「なんだか怖いほどの威力だよ」
「あっはっはっはっは! いやあ屋根がすっかり吹っ飛んでしまったねえ」
「他人事のように言うでござるなあ」
「これはもう笑うしかないからねえ。人死にが出なくてよかったよー」
きゅうー ー ー ー ーん
バナナ姫の口からの虹色🌈のエネルギー波が段々とかすれていって消えた。
ドーーーーーーーン
虹色🌈のエネルギー波を吐き切った巨大化バナナ姫は輝きを失い、力尽きたようにゴロンと倒れてしまった。
「バナナーッ! 豆の木よ、バナナの元へ伸びろーッ!」
ジャックたちを乗せた豆の木が、倒れた巨大化八頭身美女エルフのバナナ姫の元へ、いやどんどんしぼんで小さくなっていくバナナ姫の元へ伸びる。
「バナナ! 大丈夫か?」
みんなはバナナ姫の前を這う豆の木の葉から飛び降りて、すっかり今までと同じ姿と大きさになったバナナ姫の元に駆け寄った。
「安心するでやんす! 姫さんは疲れて気を失っているだけでやんす!」
「よかった!」
「やれやれでござる」
「とりあえず、元の大きさに戻ってよかったよー。本人は八頭身じゃなくて残念だろうけどねー」
「・・・・・・まだ、終わっていないのである」
ウラドラートが空を指差す。
「ええ? 空になにがあるって・・・・・・ああっ!」
「そんな、まさか!」
「逆さ虹🌈がまだ月に向かっているでござる!」
「吾輩の見立てではアレがあのまま月を撃ち抜けば、月が爆裂する可能性が大なのである」
「月が爆裂すると、どうなるのでござるか?」
「吾輩もわからないのである」
「では、あっしが説明するでやんす」
はらぺこウイリーが一同に向かって話し始めた。
「月のカケラ、と言っても山よりもうんと大きいんでやんすが、この世界に燃えながら落ちてくるでやんす。そしたら」
「大地も海も焼き尽くして、生きているもの全て死に絶えるでやんす。世界の終わりでやんす」
「「「ええー!」」」
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます