第一部 第2章 爆裂エルフVS辺境伯軍
第7話 バナナ姫VSラーテル城の門番
ラーテル辺境伯領の領都の一段高くなった山際に領主の住むラーテル城はあった。
「十年ぶりの再会なんだから普通はお互いに積もる話でもするもんじゃないかい、マイエンジェル」
と裏声で愚痴るふざけた顔の覆面男ジャック・ドードリアン。
「貴様の淫行譚など時間の無駄だ! 聞かされたらこっちの耳が腐る! いいからとっとと歩け!」
怒鳴ってジャックの脚に蹴りを入れる我らがヒロイン、白く太きエルフのバナナ・パインテール姫。
「結局、
心配げに訊ねるへっぽこ侍の田宮伊右衛門。
「大丈夫だ。
「そんなことができるのでござるか?」
「だーいじょうぶ。まーかせて」
「着いたでやんす。でもなんだか変な魔力の匂いがするでやんす」
バナナ姫の白いターバンから顔を出した使い魔青虫🐛のはらぺこウイリーが気になることを言った。
「魔族の助っ人を呼んだと狼獣人の盗賊が言っていたからな」
「なるほど。そうだったのだね。おおっと、急に持病のめまいが。ボクは宿で休んでていいかな、ハニー」
「ジャック、もし逃げたら生まれてきたことを後悔させるような死に方を選ばせてあげるよ」
「冗談だよ。元気ハツラツだぜ。ベイベー」
「じゃあ、ちゃっちゃっと『打ち出の小槌』をいただこうか」
「バナナ姫さま、どこから城に入るのでござるか?」
「決まってる。堂々と正面突破だ!」
「でも、獣人衛兵が二人立ってるでござるよ。虎と豹の獣人みたいでござる」
「虎じゃない方は豹じゃなくてチーターの獣人衛兵だ。どっちにしろコイツはツイてる」
「そうなのでござるか?」
「ようし、行くぞ! わたしはエルフ王国の王女だ。VIPだぞ。外交特権だ」
「おお、さすがはお姫さま!」
「ふふふ。では伊右衛門、『我らエルフ王国の外交使節である。ラーテル辺境伯に目通りを願う』と伝えて参れ!」
「ははっ。かしこまってござる」
伊右衛門が獣人衛兵に近づいて言う。
「我らエルフ王国の外交使節でござる! ラーテル辺境伯に目通りを願うでござる!」
「嘘をつくな! そんな貧乏くさい格好の従者や、あんなふざけた覆面を被った外交官がいるものか!」
チーター獣人の衛兵が槍を伊右衛門に向けて言う。
「いや、あの背が高い覆面は従者でござる。あの小柄なお方がエルフ王国の王女殿下でござる!」
「だったら尚更信じられぬ! ラーテル辺境伯さまはキサマらのような怪しい奴らとは会わぬ。とっとと帰れ!」
虎獣人の衛兵が怒鳴って槍を伊右衛門の首に突きつけて追い払う。
「ひ〜! バナナ姫さま〜、追い払われたでござる〜」
伊右衛門が逃げ帰ってくる。
「チッ! ネコ科のくせに生意気な。
今度はバナナ姫を先頭に三人で衛兵に詰め寄る。
「お勤めご苦労! コレはわたしからお前たちへの心づけだ。受け取るがいい!」
バナナ姫は何かがぎっしり詰まった袋を獣人衛兵たちに押し付ける。
「「なんだコレは」」
そう言いつつも、好奇心に駆られて袋を開ける獣人衛兵の二人。
「みぎゃあああああああ!」
チーター獣人衛兵が飛び上がり、脱兎の如く逃げ出した。
「あっはっはっはっ。見事な逃げっぷりだな」
バナナ姫は大笑いだ。
「貴様! なんでこんなものを!」
虎獣人衛兵が袋の中身を掴んで突き出す。
「え? キュウリ🥒でござるか?」
「うん。どこからどう見てもキュウリ🥒だね」
「そうだ、ネコ科の生き物はキュウリ🥒みたいな緑色で長いものを本能的に怖がるのだ。でも、ネコが精神的トラウマを負って動物虐待になりかねないから、よい子はネコをキュウリ🥒で驚かしてはいけないぞ! しかし、お前はネコ科の虎獣人のくせに怖くないのか?」
「笑止! 緑色で長いものを恐れておっては竹林を通ることなどできぬわ!」
「それもそうだな。お前、名は何という?」
「オレさまはアントニオ・ジェット・シン
「わたしは正義の美少女エルフ、プリンセス・バナナ・パインテールだ! 用があってラーテル辺境伯に会いにきた! わかったらさっさと道をあけてそこを通せ!」
「断る! キサマのように怪しいドワーフを通す訳にはいかん!」
バナナ姫に向けて槍を突きつける虎獣人衛兵。
「あんだと、ゴラァ! このわたしを捕まえてドワーフっつったなぁ! 許さん! テメエもキュウリ🥒にビビりやがれ! キュウリ🥒召喚っ!」
「へっ、誰がそんなもんでビビるかってぬおおおおおおおおおおおおぐぐぐぐぐぐ! 痛い! 痛い!」
虎獣人衛兵のアントニオJr.は話の途中で弓のようにそっくり返った。そして、絶叫すると、仰け反ったまま自分の尻を押さえて倒れた。
「き、貴様、なんて汚いマネをしやがる・・・・・・」
「え? 今のナニが起こったでござるか?」
「アントニオJr.の尻の穴に直接キュウリ🥒を召喚してやったのさ」
「ひえええええでござる! 姫さまが召喚魔法で戦うとは聞いていたけど怖すぎ嫌すぎでござる!」
「ふふふ。どうだ、アントニオJr.、キュウリ🥒でカンチョーされた気分は?」
アントニオJr.が、尻からキュウリ🥒を抜き、投げ捨てながら立ち上がる。
「なんだこんなもん! キュウリ🥒を尻にぶち込まれたくらいでは、なんのダメージもないわ!」
「おやそうか。さっきは随分と痛がっていたようだがな。まあ良い。やせ我慢する奴は嫌いじゃないぞ。今日のわたしは慈悲深い。今のは警告だ。次に反抗したらこいつを尻の穴に召喚してやる。精霊馬ゴーレム召喚!」
バナナ姫は精霊馬ゴーレムCを召喚した!
アントニオJr.の目の前に、馬の大きさの巨大なキュウリ🥒に脚が四本生えた精霊馬ゴーレムが現れた。
「嘘・・・・・・だろ・・・・・・こんなの尻にぶち込まれたら身体が爆散しちまう」
「次におまえは『まさかコイツが爆裂エルフだったのか!』と言う」
「あっ! まさかコイツが爆裂エルフだったのか! はっ!」
「気がつくのが遅いんだよ! 精霊馬っ!」
「ヒヒヒヒヒーン!」
精霊馬が後ろ向きになり、後ろ脚で虎獣人衛兵に蹴りを入れる。
どごっ!
「はうっ!」
ばきっばきっ!
精霊馬ゴーレムに蹴られたアントニオJr.は10メートルほど吹っ飛び、正門の門扉に激突して倒壊させてしまった。
「さすがは虎獣人。外からの打撃についてはタフでいいねえ。ふんふんふーん」
バナナ姫は上機嫌に鼻歌を歌いながら、倒れた門扉の上で大の字になって横たわるアントニオJr.を見下ろして言う。
「まだ、やるかい?」
「オレの負けだッ~~許してくれェェッ~」
バナナ姫VSアントニオJr.、完全決着であった。
「よっしゃ、肉の盾、じゃなかった
「いま肉の盾と言ったでござる! やっぱり姫さま怖すぎるでござる!」
「アントニオJr.、お前は運が良い。命拾いしたぞ。この先、ラーテル辺境伯に会うまでの城内の
「へ? 断ってもいいんですか?」
「もちろんだ。だが、エルフの王女であるわたしに刃を向けた時点で不敬罪。死刑確定、即時執行、キュウリ🥒でボーン! ロックオンしてあるからもう逃げられない」
「そ、そんな死に方だけは嫌だ〜!」
「だろう? 今なら恩赦の上、バナナ姫直属親衛隊の切込隊長に任命してやると言うのだ。悪い話ではなかろう」
「オ、オレが直属の隊長に!」
「そうだ、切込隊長だ!」
「姫さま、このオレ、アントニオ・ジェット・シン
「(チョロいな)よし、アントニオ・ジェット・シン
「ははーっ! ありがたき幸せ」
虎獣人衛兵アントニオ・ジェット・シン
「そういえば、ジャック殿はどこでござるか? まさか逃げたのでござるか?」
「ウイリーも一緒だからそれはないな」
「もちろんだよ、ボクのことを誤解しないで欲しいな」
「ただいま戻りましたでやんす」
裏声で話す怪しい長身マスクマンのジャックが、糸でグルグル巻になったナニかを担いで現れた。ジャックの頭の上では使い魔青虫🐛はらぺこウイリーが飛び跳ねている。
「なんでござるか、その物体は?」
「さっき逃げたチーター獣人衛兵だよ。ウイリーと一緒に捕まえたんだけど気絶中だから、話はちょっと待ってね」
「なんと、いつの間に」
「そいつはジュニアの部下にするか。ジュニア、コイツの名前は?」
「ははっ。ニック・Q・ジャガーと申します」
「チーターのくせにとか、ミックじゃないのかとか、肉球かよとか、ツッコミどころが多々あるが、本人気絶じゃ仕方がない。以後、コイツは『肉じゃが』と呼ぶことにする。では、城内に入るぞ、覚悟は良いな!」
「「「「応!」」」」
次回、いよいよラーテル城内に侵入だ!
「ところで、バナナ姫さま。
「もちろんだ。食べ物は大事にしなくてはならない」
「戦いのためとは言え、ジュニアの尻の穴にキュウリを突っ込んだのはいかがなものかと思うのでござるが」
「大丈夫だ。戦闘で召喚した果物や野菜はちゃんと
「してから?」
「ウイリーが美味しく頂いておる。ほら」
「あーん、うん? 伊右衛門も半分食べるでやんすか?」
「・・・・・・遠慮しておくでござる」
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