第6話 爆裂エルフ誕生悲話
バナナ姫による「ジャックきゅん
美しく成長した八頭身美少女のバナナ・パインテール姫と、長身ブロンド超絶イケメンのジャック・ドードリアンはエルフ王国の誰もが憧れる、お似合いのカップルだった。
このときがバナナ姫の勝ち組人生の、幸せの絶頂期だった。
だが、スパダリ計画の申し子のジャックには致命的欠点があった。
自分で真っ当に働いて稼ぐことができないのだ!
お金を自分で稼ぐことよりバナナ姫を喜ばせることが常に求められ続けたので無理もなかった。ジャックの生活はバナナ姫をあの手この手で喜ばせて、その報酬として自分が欲しいものを手に入れることで成り立っていた。
つまり言い換えるとこうだ。
ジャックはバナナ姫のヒモだった。
バナナ姫はスーパーダーリンを育成するつもりがスパダリの皮を被ったスーパージゴロを育てて貢いでいたのだった。
バナナ姫はついにそれに気づくことになる。
十年前のとある日。
「ジャック! これを見て!」
「なんだい、ベイベー」
「異世界の女神、西王母の庭にあるすごい魔力を秘めた桃🍑、『
バナナ姫はその大きな桃🍑、『
「へえ、見たことがない桃だね。この桃を食べるとどうなるんだい、マイエンジェル?」
「不老長生。つまり今の若く美しい姿のままで歳を取らずに長生きできるんだって」
「それはすばらしい。バナナ、ボクはキミの博識には驚かされるばかりだよ。一体どこからその知識を得ているんだい?」
「秘密よ。秘密ってね、女をより美しくしてくれるものなのよ」
「そんな痺れるフレーズ、いったいどこから?」
「それも秘密よ」
「まったくキミには敵わないな、マイスイートハート」
「じゃあ一緒に食べるわよ」
「うん」
二人はそれぞれ蟠桃を手に取った。
「「せーの、ぱくっ」」
二人仲良く同時に蟠桃にかぶりつく。
「おおっ、なんだかすごく魔力がみなぎってくるよ」
「そ、そうなんだけど、その魔力がなんだかものすごい勢いでわたしの中で膨れ上がってきてる! このままじゃ爆発しそう!」
「な、なんだって!」
並のエルフの数十倍の魔力量を持っていたバナナ姫。その身体に、蟠桃がさらに大量の魔力を注ぎ込んだために副作用で魔力が暴走を始めたのだ!
「大丈夫! この魔力を身体強化に回せるだけ回して、残りの魔力をコア状に圧縮すれば安定化させられるわ! こんな魔力に負けるものですかああああああああああ!」
ちゅどーーーーーーーん
部屋が爆風で吹き飛び、辺り一面白い煙が立ち込める。
「バナナーっ! 大丈夫かっ!」
「はあ、はあ、もう大丈夫よ。身体強化と魔力の圧縮による安定化に成功したわ!」
「バナナ、その姿はいったい・・・・・・」
「え? どうしたの?」
慌てて鏡を探すバナナ姫。そしてかろうじて残っていた鏡に映る自分の姿を見た。
鏡に映ったその姿は美少女エルフのバナナ姫とはまるで別人。身長はぐっと縮んで120センチほど。頭は大きくて太い。首が太い。肩も太い。腕も太い。腹も太い。脚も手の指も太い。おまけに眉も唇も太い。まるでドワーフそっくりのずんぐりむっくりのガチムチ四頭身だった。
「いやあああああああああああっ!」
バナナ姫は走り去り自分の寝室に閉じこもった。ドアを叩くジャック!
「ドアを開けて! バナナ!」
「こんな姿じゃあ、もう恥ずかしくてジャックとは会えないわ。うわーん!」
「バナナ姫・・・・・・」
「ジャック。もう、二度と会いに来ないで!」
バナナ姫の体型が激変したことが二人の運命を変えてしまった。
「ボクがバナナを助けるんだ! ボクの占いでは、バナナを元に戻すアイテムがこのエルフ王国の外にあるはずなんだ!」
翌日、バナナ姫の体型を少しでも早く戻そうと、ジャックは初めてバナナ姫の元を離れ、エルフ王国の外への旅に出た。そう、きっかけは完全な善意だったのだ。
ところが、生まれてこのかたバナナ姫以外の女性に目を向けたことのないジャックは、ここで世界の真実を知ってしまった。
「世界はなんと色々な愛くるしい『お姉ちゃん』たちで満ち溢れているのだろう! ヒャッホーイ!」
檻から解き放たれたスーパージゴロは自由の天地で思いっきりはっちゃけた。そして、いく先々で女性を口説いて貢がせた。
バナナ姫にとって、ジャックの出奔は取り返しのつかない痛恨の出来事となった。
エルフ王室に各地でジャックがやらかしたことの苦情の手紙や各地の娼館からの請求書が届くようになって、ジャックの婚約者であるバナナ姫は引きこもったままではいられなくなった。
「何やらかしてくれとんのじゃ、あのボケナスがあ!」
バナナ姫の怒髪が天を突いた!
「こんなに情けない思いをするなら、愛などいらぬ! 退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ! 姿を元に戻すアイテムが我が国の外にあるというのなら、自分で見つけて掴み取るまで!」
バナナ姫は使い魔青虫🐛のはらぺこウイリーとともに、エルフ王国を離れてマジックアイテムを探す旅に出たのだった。
そして・・・・・・
初めて訪れた人間の国の冒険者ギルド。
受付嬢と話す彼女に絡みだす大男の冒険者たちというテンプレ展開。
「うざい。黙れ」
「「「なんだと!」」」
「ココナッツ召喚!」
ぼこっ! がすっ! どこっ!
高い天井から次々とココナッツが落下して大男たちの頭を直撃する。
「ぐはっ」「うっ」「ぶへっ」
KOされて床に伸びる大男たち。だが一番大きな男だけピンピンして立っている。大男は手にした戦斧を振りかぶって叫んだ。
「ぶっ殺してやる、この糞ドワーフが!」
その言葉に彼女がブチ切れた。
「誰がドワーフじゃい! わたしはエルフだ! 座標はあのバカの鼻の奥! ココナッツ召喚!」
「このチビがががががががががががが」
戦斧を振り下ろそうとした瞬間、大男の動きが止まり全身が痙攣しだした。そして頭が醜く膨らみ出して・・・・・・
ばーん!
爆裂してしまった。血塗れのココナッツが大男の頭のあった高さからどてっと転がり落ちた。それから首をなくした大男がどたっとギルドの床に倒れた。
そんな状況で平然と微笑む白く太きエルフ。
「さあ、邪魔者はいなくなった。有意義な話の続きをしようじゃないか。わたしはエルフのバナナ・パインテールだ」
「ひいいいいいいっ!」
爆裂エルフ⭐︎バナナ・パインテール。その恐怖の伝説はココから始まった。ココナッツだけに。
* * *
「とまあ、そんな悲しい過去があったわけでやんす」
バナナ姫の使い魔、青虫🐛のはらぺこウイリーが事情を知らない伊右衛門とメイヤーに、バナナ姫とジャックの過去を説明していた。
「あまりに色々ツッコミどころがあり過ぎて、なんと言っていいのか某にはわからぬでござる」
伊右衛門は困った顔をしている。
「いやいやいや、わたくしが借金奴隷のジャック・ドードリアン氏を厳重に地下三階に閉じこめているのも、彼と駆け落ちしようと強盗を企む女性が後を絶たないからなのですよ。その対応にかかった費用も含めて責任は育ての親の姫さまにとっていただかないと」
「
「まったくでやんす」
「バナナ姫さま! 婚約者の不始末はあなたの不始末。ジャックさまをこのまま借金奴隷にしておくのも、エルフ王国の恥でございます。ここはしっかりジャックさまの借金を耳を揃えてお返しいただき、お買い上げしていただくほかはありません」
「バナナお姉ちゃん! ボクを助けて!」
「ふん。わかった。支配人メイヤーよ、ジャックを買い取ろう。いくらだ?」
「諸経費込みでこれこれこれくらいでございます」
「このバカの値段がこんなにもするのか!」
「バナナお姉ちゃん、ごめんなさい!」
「・・・・・・くっ、仕方ない。その値で買おう。その代わりジャックの両手の甲の奴隷紋除去はしてくれ。それぐらいはサービスしてくれてもいいだろう」
「そのまま奴隷にしておかなくてよろしいので?」
「わたしが奴隷紋つけたジャックをそのまま連れ回していたら、金でイケメンを買って愛人にしたと思われるじゃないか。そんなのわたしのプライドが許さない!」
「「あ、やっぱり気にするんだ」」
「かしこまりました。ではこうしたらいかがでしょう? お耳を拝借いたします。ゴニョゴニョゴニョ」
メイヤーはバナナ姫になにやら耳打ちをする。
「いや、どうせならそこはゴニョゴニョと」
バナナ姫もメイヤーに耳打ちする。
「なるほど、それは良いお考えかと。でも、それでしたらアレをああやってゴニョゴニョと」
「それは素晴らしい! メイヤー、お主もワルよのう」
「いえいえ、お姫さまにはかないませぬ」
「「わっはっはっはっはっ」」
バナナ姫とメイヤーは悪いお顔で高笑い。
メイヤーは別室にジャックを連れて行き手の甲の奴隷紋を処理して奴隷譲渡証とともに戻ってきた。
「ではこれで契約成立ですね。お買い上げありがとうございました」
吟遊詩人のエルフ、ジャック・ドードリアンが仲間になった!
カボチャの馬車の財宝がすっからかんになった!
盾役戦闘奴隷は予算不足で買えなかった!
「バナナ、ありがとう!」
「そのかわり、貴様は今日からこの覆面をかぶるのだ!」
「ええ!」
「文句を言うな!」
「ふごー!」
こうしてジャックはその超絶イケメンを隠すため、人前では「えべっさん」や「菊タロー」によく似ただらしない顔の覆面をして過ごすこととなった。
覆面には魔法ボイスチェンジャー機能も搭載されており、バナナ姫が解除しない限り、ジャックの福△雅治ばりのイケボも封印されてコ▽メ太夫のように変換される。
言うまでもないが、この覆面はバナナ姫が魔法鍵を解除しない限り、だれも脱がすことも破ることもできない特別仕様だ。
「自由になったと思ったら、顔見せ不可だったよ。コンチクショーッ!」
イケメン・イケボを封印されたバカエロフが叫んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます