第11話 バナナ姫VS火の鳥&魔法が効かない将軍

「伊右衛門、目を覚ませ! ラーテル辺境伯の謁見の間に着いたぞ!」


 ヒロイン枠を先ほど奪われたバナナ姫が恨みも込めて田宮伊右衛門の頬をぐい〜んと引っ張る。


いはい痛いいはい痛いおひふへほさふ起きるでござる!」


 伊右衛門が悲鳴をあげたそのとき。


「カッシュカッシュカッシュ」


 部屋の奥からノコギリで木を切るような不気味な音。見ると、ジャックと同じくらいの背丈の巨大な鳥が立ってこちらを見つめている。先程の音は、この鳥の鳴き声らしい。


「ヤバい! アイツは火を吐くからみんな気をつけろ!」


 虎獣人のジュニアことアントニオ・ジェット・シンJr.が叫ぶ。


「カッシュカ〜ッ!」


ボオオオオオオーツ 

ボオオオオオオーツ

ボオオオオオオーツ

ボオオオオオオーツ


 不気味な声で鳴いた直後、いきなり口から連続して火炎🔥放射攻撃してくる。


「危ない!」


「ヤバいでやんす!」


「熱いでござる!」


「おっとっと!」


「うわっ!」


「こっち来んなっす!」


 逃げ惑うバナナ姫たち。


「くっ。召喚、タケノコの檻とタケノコの壁!」


 火を吹く怪鳥を無数のタケノコが生えてきて檻のように取り囲んだ。用心のため、バナナ姫たち一行の前にも密集したタケノコによる壁が築かれている。


「カッシュカッシュカッシュカッシュ」


 あざ笑うかのような不気味な声がタケノコの向こうから聞こえる。


「危なかった。ありがとう、ハニー」


「なんでござるか! 今のは!」


「あれはラーテル辺境伯さまのペットだ」


「知っているのかジュニア!」


 バナナ姫がジュニアに聞く。


「アレは魔鳥フェネクス。最大の武器は火魔法🔥による火炎放射攻撃。別名、火の鳥だ」


「火の鳥だと!」


「しかも不死身だ。死ぬときには自らの身体を燃やし尽くしてその炎🔥の中から若返った姿で復活再生するという。だからもう一つの別名が不死鳥だ」


「アンデッドみたいだね、ベイベー」


「それは厄介な相手でござる」


「あっしは鳥とは相容れないものを感じるでやんす」


「ウイリー殿とは確かに相性が悪そうっす。きっと天敵っす」


「ちょっと待て、本当にアレが火の鳥なのか!」


 タケノコの隙間から向こうを二度見するバナナ姫。


 バナナ姫の目に映ったのは体高2メートル弱、顔から首は青く頭の上が烏帽子を被ったように薄く高く丸く盛り上がっている。喉からは雄鶏のそれよりも長い、赤い肉垂がぶら下がっている。胴体は黒い毛で覆われており、太くたくましい二本の脚の先は三本指の先に鋭く長い爪が生えていた。


「絶望した! 火の鳥に絶望した! 火の鳥というから期待したのに、あれはヒクイドリじゃないか!」


「カシュー?」


「飛べない鳥はただの鳥以下だ! 喋れもしないし恐竜みたいな顔しやがって、T塚大先生に謝れ!」


「ガッシュッシュ! ガッシュッシュ! ガッシュッシュ!」


「鳥相手になにを訳のわからない喧嘩売ってるのでござる!」


ガシンガシンガシンガシンガシン


 閉じ込められた上に大声で罵られた魔鳥フェネクスが怒って強靭な脚でタケノコの檻を蹴りまくっている。


ゴオオオオオオオオオオーツ!


 加えて火炎放射🔥だ。先ほどより激しい炎🔥が吹き荒れた。


メキメキメキメキダーン


「フ〜ガシュ〜」


 火魔法🔥で黒焦げたタケノコの檻が蹴破られて、ヒクイドリ型魔鳥フェネクス、別名火の鳥が檻から出てきた。


「残念だ。貴様がならば、傲慢な奴でも話で丸め込んで願いを叶えさせたものを。だが、わたしの道を妨げる、ただの火を吐く魔鳥では是非に及ばず。貴様が望むならわたしが冥土に送ってやるぞ不死鳥よ!」


 バナナ姫は魔鳥フェネクスと対峙する。


「カッシュカッシュカ〜ッ!」


ゴオ・・・・・・


「召喚、ダイコンとクリ🌰大量!」


「シュオー!」


 バナナ姫はフェネクスが火炎放射🔥する瞬間を狙ってその口にするにダイコンを、胃の中に生のクリ🌰を大量に召喚した。ダイコンに出口を塞がれて放射するはずだった業火🔥がフェネクスの体内で荒れ狂いクリ🌰を焼く。


ババババババババババババババババーン


「カッシュカアアアーッ!」


 焼けた大量のクリ🌰が爆発してフェネクスの身体を内側から破壊する!


「秋の味覚のクリ🌰は気に入ったか?」


「カシューッ!」


ぼふっ


 フェネクスの全身が燃え上がる🔥! 内臓に致命的なダメージを受けたフェネクスは己れを燃やし🔥尽くして速やかに復活再生しようとする。


「トドメだ。完熟トマト🍅大量召喚!」


 天井の辺りから大量の完熟トマト🍅がまるで滝のように燃えているフェネクスに降り注ぐ。スペインのトマト🍅祭り「ラ・トマティーナ」のように。


「カシュ〜〜!」


ジュ〜〜〜〜ッ


 フェネクスは完熟トマト🍅に埋もれている。完熟トマト🍅は潰れてその汁がフェネクスの炎🔥を鎮火していく。フェネクスの炎🔥はドンドンと小さくなる。


「カシュッ」


 小さな炎🔥からせいぜいニワトリのヒヨコ🐥ほどになったフェネクスが復活した。


「だいぶ小さくなったな。まだ火🔥を吐く余熱があるか? 熱冷ましには長ネギを肛門に突っ込むと良いそうだ。試してみようか?」


 バナナ姫が悪い顔で微笑む。


「シューッ!」


 小さくなったフェネクスは必死になって走って逃げて行った。


「侵入者どもめ、まさかあのフェネクスも簡単に退けるとは。だが、この先はこのわし、グリーズ・リー将軍がお相手する。けしてパンツァー・ラーテル辺境伯さまには手を出させぬ!」


 続いて立ちはだかったのはでっぷりとした巨漢。黒い甲冑をまとうが、なぜか頭は兜を被らずに耳と目と口だけが剥き出しの黒い覆面マスクを被っている。覆面マスクを被っていてもその特徴的な頭部はどう見ても熊獣人だ。


「おいおい、いい加減ラーテル辺境伯と会ってさっさと用件を済ませたいのだが、あと何人倒せばいいのだ?」


「安心しろ。儂で最後だ」


「そうか。ではエルフ王国王女、バナナ・パインテール、推して参る!」


「え? お主ドワーフではなかったのか?」


「誰がドワーフじゃい! このすっとこどっこい! 貴様の目は腐っとるのか! この透き通るような白い肌にプラチナブロンド。すっと通った鼻筋に切れ長の目。そして長く伸びた美しい耳。この高貴な美貌はエルフ以外にありえんだろうが!」


「そうは言うが背丈は寸詰まりなのに、頭も首も肩も腕も手も指も腹も脚もみーんな太くて大きくてゴツいガチムチ四頭身体型。ついでに眉も唇も野生的で太い。お主を見れば百人が百人ともドワーフと答えるぞ!」


「貴様は泣いてももう許さん! パイナップル🍍とキュウリ🥒召喚!」


 バナナ姫はパイナップル🍍をグリーズ将軍の口に、キュウリ🥒を尻の穴に召喚した・・・・・・つもりであった。


ごとっ、ぱらぱらぱらぱらっ


 パイナップル🍍とキュウリ🥒がグリーズ将軍の前後に落ちて散らばった。


「なん・・・・・・だ・・・・・・と」


「儂の身体は特別でなぁ。魔法攻撃無効マジックキャンセルの魔法陣を何重にも身体に刻み込んであるのだ。儂にはどんな魔法攻撃も効かぬよ。もちろんお嬢ちゃん自慢の召喚魔法もな」


「ちっ」


「今度はこちらの番だ。曲者くせもの粉砕ベアナックルラッシュ! あたたたたたたた!」


ゴスゴスゴスゴスゴスゴス


 熊獣人のグリーズ将軍がバナナ姫に拳🤛のラッシュを畳み掛ける。だが・・・・・・


「痛いではないか! それは卑怯であろう!」


 グリーズ将軍は拳から血を流しながら抗議する。


 いつの間にかバナナ姫はトゲトゲのついたドリアンの殻をボクシンググローブ🥊のようにを両手にはめてガードしていた。グリーズ将軍はそれを思いっきり何回も殴ってしまったのだ。


「なぜ、おとなしく黙って殴られる必要がある? これぞドリアン式、撲針具ボクシングガード!」


「ならばこちらも武装させていただく」


シャキーン!


 グリーズ将軍の両拳から鋭く長い刃が3本ずつニョキっと生える。


「ベアクローだ。卑怯とは言うまいね」


「精霊馬! わたしを護れ!」


「ヒヒヒヒヒーン!」


 精霊馬をグリーズ将軍の前に立たせるバナナ姫。


「なんの、ベアクロー二刀流、乱れ斬り」


ザクザクザクザク


 バナナ姫を庇ったキュウリ🥒の精霊馬ゴーレムをグリーズ将軍がベアクローの刃で遠慮なく切り刻む。


「ひひひひひーん」


バラバラにされた精霊馬が悲しそうな声を上げて、崩れ落ちた。


「体内召喚魔法が効かないなら、外から物理で攻撃だ。タケノコ召喚!」


カンッ!


「おっと甲冑の上からじゃ股間への急所攻撃は効かんぞ」


「ならば上だ!カボチャ🎃召喚!」


「カボチャ🎃など儂のベアクローで・・・・・・なんだああああ! この大きさはああああああああ!」


ズン!


「くぅ〜〜〜!」


 グリーズ将軍は首を倒し、世界を背負うアトラスのように巨大なカボチャ🎃をその両手両肩で支え、かろうじて立っている!


パチパチパチパチパチパチ👏👏


 バナナ姫が拍手をしている。


「さすがは、熊獣人! よく潰れなかったな。そのかぼちゃは最大品種のアトランティックジャイアント🎃、しかもギネス級だから重さは1トンあるぞ。さっさと降参しろ」


「だれが降参など! こんなカボチャ投げ捨ててやる!」


「そうか。足の上に落とさないように気をつけろよ。召喚、精霊牛🍆ゴーレム!」


 巨大なナス🍆でできた精霊牛ゴーレムが現れた。


「ぶもおお」


「何をする気だ!」


「知ってるか? ボールを持っている奴だったら後ろからのタックルはありなんだよ。後ろから突っ込め精霊牛🍆!」


「ぶもおおおおおおお!」


ドドドドドドドドドド


 精霊牛🍆ゴーレムが頭を下げて闘牛のようにグリーズ将軍の後ろに回ってから地響きを立てて迫る。


「うわあ〜!」


「精霊牛、止まれ!」


「ぶもっ?」


 精霊牛🍆がグリーズ将軍に触れる直前でピタリと止まる。


「ほっ!」


「と油断させといてからの〜、ひざカックン」


「ぶもっ!」


 精霊牛🍆がグリーズ将軍の膝裏を押すとカクンと膝が曲がり、巨大なカボチャ🎃を支えていた将軍のバランスが崩れる。


「ああああああああああっ!」


ズ〜〜〜ン!


 哀れグリーズ将軍は精霊牛🍆もろとも巨大カボチャ🎃の下敷きになった。


「もう、その辺で勘弁してやってほしい。私も無条件で降伏するから」


 両手をバンザイのように高々と上げた、真っ赤なフルフェイスの兜に全身真っ赤でスレンダーな甲冑を着込んだ小柄な人物が現れた。


「あなたが辺境伯か?」


「そうだ。私がパンツァー・ラーテル辺境伯だ」






つづく

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