第13話 薔薇園のティータイム
妹がなにやら姉に話しかけようとしたが、姉に止められている。薔薇に目を輝かせているから、薔薇を気に入ってくれたのは間違いないみたい。
「しっ! 珍しい品種ですね。見た事ありませんわ」
この薔薇は、聖帝国から取り寄せたもの。妹の反応からしてやっぱりこの子達は聖帝国の関係者なのね。でも、聖帝国にいい感情を持ってなさそう。
わたくしは、彼女達の本心を聞き出すのが仕事。きっと、ロバート様は彼女達の素性を知ってる。本当ならすぐに保護者に連絡したいだろう。
けど、ロバート様は連絡しない。付き合いは短くても周りの評価とわたくしへの接し方で分かる。ロバート様は誠実で真面目で、約束を守るお方だ。
彼女達がロバート様を信じてくれるように立ち回る必要があるわ。ああ、なんだか緊張してきたわ。ちゃんとロバート様のお役に立たないと。
まずは、失礼だけど彼女達を試させてもらうわ。身分を知りたい。それによって対応が変わるから。
わたくしのテーブルマナーや礼儀作法は、格上の貴族に行うもの。王族に対するマナーとしては少し足りない。国が変わっても、テーブルマナーや礼儀作法はあまり変わらない。
妹が不満そうにしていたから、彼女達は間違いなく王族かそれに準ずる身分の人達。見た事がないから、我が国の王族ではないだろう。
姉はわたくしのマナーにホッとした様子を見せた。
素性がバレていないと判断して、わたくしの言葉を信じてくれたんだ。その証拠に……。
「優しいマリアが助けてくれてとっても安心したの。まだ怖くて……お願い、しばらくはずっとそばにいて」
潤んだ目でわたくしの手を取り、離そうとしない。お手洗いにまでついて来ようとする。
それだけしゃない。
「マリアが旦那様を愛しているのは分かってるんだけど……身体の大きいミッチェル伯爵は怖くて……」
そう言って、わたくしとロバート様を会わせようとしない。
今は彼女達の思惑に乗る必要があるわね。信用してもらわないと。
さすが、高貴な方は人の扱いが上手いわ。だけどね、わたくしも社交は得意なのよ。
今は優秀な味方がたくさんいる。夜会よりも容易だわ。
彼女達は、まだロバート様を信じていないのだわ。わたくしも信じられていないけど、事情を話すならわたくしの方が良いと判断したのだろう。侍女達を排除しようとする態度からもそれが見てとれる。
けど、甘いわ。ここは我が家の屋敷。侍女達は今の状況を全てロバート様に伝えてくれる。これから話す事も伝わるようにするわ。付き合いの長いエイダなら暗号で意思疎通ができるもの。
エイダを介して、ロバート様と話す。
「承知しました。エイダ、ロバート様にわたくし達に近寄らないようにと伝えてちょうだい。心配させないように、ロバート様に愛してると伝えてね。それから、しばらくはみんな下がってちょうだい」
「かしこまりました。奥様、お茶のお代わりはいかがいたしますか?」
「お好みの茶葉はありますか?」
少女達に、好みのお茶を聞く。
「今はいいわ」
姉が答える。妹は相変わらず一言も話さない。
「かしこまりました。エイダ、お菓子を多めに持ってきてちょうだい。お茶が欲しくなったらベルで呼ぶわ」
「承知しました」
「お菓子のお代わりが来たら人払いをしますので、ゆっくりお話しましょう」
安心したように笑う少女達には申し訳ないけれど、この場の会話は全てロバート様に報告するよう指示をした。
エイダとわたくしだけが知る暗号を、3つ使ったわ。
お茶のお代わりを聞く。それが暗号の始まりよ。すぐにお客様に好みのお茶を聞く場合は重要なお客様。少し考えるそぶりをする場合、通常のお客様。お客様に一切お伺いしない場合、招かれざるお客様。
お菓子を多めと言えば、重要な話をするので会話を記録しろという指示も含まれる。
ベルで呼ぶとは、主人に報告しろという裏の意味もある。エイダの主人はわたくしではない。ロバート様だ。
エイダへの秘密の指示をまとめると、大切なお客様に決してバレないように会話を全て記録してロバート様に伝えろ、となる。
エイダに任せておけば、ロバート様と会えなくても意思疎通ができる。本当はすごく会いたいけど、今は彼女達に向き合うのが先決ね。
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