第31話 それぞれの幸せ

ロバート様と結婚して、1年半の年月が流れた。


その間に、いろんなことが起きた。まず、フローレンス様と王弟殿下が婚約した。


マチルダ様は、ガルシア様と結婚してオキ共和国の王太子妃になった。ミーシャ様は王太子殿下と婚約して、来年結婚式が執り行われる。


ミーシャ様は現在キャダール王国の王宮に住んでいる。


マチルダ様とミーシャ様を亡きものにしようとした聖帝国ラーアントの元王妃様は、幽閉されているそうだ。


攫われた徳のない王女達を他国に出してはならないと反対の声もあったそうだが、彼女達の父上がお告げという名の王命を出して貴族達を黙らせた。


お告げに逆らう者は、徳を全て失い貴族の地位を剥奪されると信じられている。反対した理由も徳なのだから、徳が大切な聖帝国ラーアントの人々はお告げを受け入れるしかない。


国の関係も変わった。王女様達の婚約をきっかけにキャダール王国と聖帝国ラーアント、オキ共和国は正式な同盟を結んだ。


ガルシア殿下と聖帝国ラーアントの国王陛下、王太子殿下が行った条約の締結は全て公開された。その中の一部の会話が、聖帝国ラーアントの女性達に希望をもたらした。


「攫われた王女様は徳がないと言うけどな、マチルダとミーシャは世界一徳がある王女様だぞ。なんの被害もなく、ロバートが救い出せたんだからな。おかげでマチルダと婚約できる。何も悪い事をしていない人を徳がないと追い出す行為こそ、徳がないんじゃないか?」


「確かにその通りですな。徳がある人間は、罪のない人々を貶めたりしませんからな」


「神殿の最高権力者は慈悲深い。ミーシャの賢さと優しさは義父上譲りですね。ミーシャと出会えた神の奇跡に感謝です。どうか、末長くよろしくお願いします」


今までの常識が簡単に変わる事はないだろう。だが、聖帝国ラーアントの神殿にはオキ共和国とキャダール王国の人々が出入りするようになり、凝り固まった価値観は少しずつほぐされてきている。


正式に同盟国となりフローレンス様のように他国に嫁ぎたがる女性が増えた。そのため、聖帝国ラーアントの貴族男性達は変化を求められている。


まず、女性達が強くなった。デビュタントをする令嬢を先輩女性が取り囲み、いい加減な男達を排除するようになったのだ。決まりがあるから手を出せないなんてもう古い。男性が話しかける前に取り囲んで保護すればいいと言い出したのはフローレンス様だ。


王弟殿下と婚約したフローレンス様は更に強くなり、聖帝国ラーアントの女性達の憧れとなった。


横柄な態度をとる男性は見向きもされなくなった。同盟国にもっと優しく誠実な男性がゴロゴロいるのだもの。


更に、法律も変わった。


嫁ぐ時に望みはあるかと聞かれたマチルダ様は、女性側から婚約解消を申し出る事ができるように法の改正を希望した。


マチルダ様の願いは叶えられ、女性の地位は向上した。フローレンス様のお友達は、全員婚約者と別れたそうだ。


ミーシャ様は、生まれも性別も関係なく平等に学べる場を望まれた。三ヶ国が出資した学校は少しずつ各地に広がり始めている。


リリアン様は相変わらずベッドから出られないそうだけど……ご縁があって婚約者が決まった。お相手は、わたくしの弟だ。


わたくしの手伝いでリリアン様と話した弟はリリアン様を好きになり、必死でアプローチした。


偶然なのだが、実家の領地とレイモンド公爵家の領地が近かったのだ。弟は頻繁にリリアン様を訪ねて、リリアン様のお心を射止めた。


ただ、そこからが大変だったわ。レイモンド公爵の厳しい審査が待っていた。全てクリアして、ようやくリリアン様と婚約できたのは先月の事だったわ。

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