第30話 愛しさを知る【王太子視点】
「じゃあ……お父様は……」
マチルダと、ミーシャが泣いている。ガルシアに睨まれたが知らん。俺は悪くない。
「ああ、攫われたマチルダとミーシャをなんとか守ろうとしたそうだ。だが、指示がうまく伝わらず監禁してしまったらしい」
「そういうことか。それで、2人は国に帰れるのか?」
「いや、帰らない方が良かろう。近いうちにここに国王陛下兼神殿長様を呼んで話をする。2人が見つかった事はまだ内密だから、公爵令嬢の見合いと称して呼ぶ。安心してくれ。絶対に2人を国に帰さない。危険すぎるからな。それは先方も了承済みだ。ガルシアはもう二度とマチルダと離れたくはないだろう?」
「まぁ、そうだな」
「娘可愛さに神殿のタブーを破ろうとした父親を呼ぶから、ゆっくり話すと良い。2人のお父上はまだ若い。今の王妃はもうダメだが、再婚すれば次の子が望めるかもしれん。もし後継が産まれなくても、孫を待つくらいできそうではないか。お告げを利用するおつもりらしいぞ」
王妃がマチルダとミーシャの命を狙っていたんだ。このまま王妃でい続けられるわけはない。マチルダとミーシャの安全が確保されれば、お告げと呼ばれる王命が出されるのは間違いなかろう。
我が国の王命と違い、聖帝国ラーアントの王命は神殿が出す神のお告げとして扱われる。その為、滅多に発布されないし、1年間の事前準備が必要らしい。最後にお告げと称した王命が発布されたのは三百年も前だ。
父親はタブー視されているお告げの力を利用して、娘達を救おうとした。お告げを出して、迎えに行くつもりだったそうだ。だが、あの国に帰ってもマチルダとミーシャは幸せになれない。
それは、父親が一番よく分かっている。
ミーシャと婚約したいと打診したら、大喜びだったしな。お告げの内容を多少変えて貰うくらいはなんとかなるそうだ。
徳ばかり気にする聖帝国ラーアントの人達にとって、お告げはなにより大切だ。
お告げを否定すると、一気に徳が無くなるらしい。
徳なんて気にせず、自分の道を歩くガルシアは能天気に笑う。
「ふむ。それなら三国は手を取り合って仲良くなれるな!」
相変わらずおめでたい男め。だが、ガルシアはこれで良い。この男の裏表のない明るさに、民も貴族も惹かれるのだから。
俺だって、この男の明るさに救われた。一番救われたのはマチルダだろうな。マチルダは今も、ガルシアの腕を掴んで離さない。
「じゃあ、王妃様はどうなるのですか?」
ミーシャが恐る恐る尋ねた。この子を救うのはガルシアじゃない。俺だ。
「まだ分からない。貴女方の言葉で言うなら、あの王妃は徳がなかったんだよ」
まぁロクな事にはならんだろう。王女様2人を亡きものにしようとしたんだからな。
ミーシャが顔をしかめる。ふむ、少しは感情を表に出すようになったな。良い傾向だ。
マリアは人の感情を読み取る能力がずば抜けているから気が付いたが、マリアの側近のエイダは王女2人が無表情に見えたらしいからな。ロバートも気が付いていなかったし、僅かな感情の変化を読み取れたのはマリアだけだったのだろう。
俺は訓練しているから多少は分かるが、マリアの方が鋭い。母親の指導と、天性の才能だろうな。本当に、マリアとロバートを結婚させて良かった。
マリアの能力は社交界で使うだけでは勿体ない。外交に使えると思った。マリアならロバートの魅力に気が付くと思っていたしな。まさかお互い一目惚れするとは思わなかったが、それはそれでありがたい。
あの2人には、末長く仲良くなってもらわないと。外交を担う夫婦が不仲では困るのだ。
ロバートにはああ言ったが、最初は辺境伯夫婦の仲を邪魔するミーシャを諦めさせたかっただけだった。ロバートは真面目だから言い寄る女性をあしらえない。
すぐに本気にさせてしまうのに、鈍いから気が付かない。見合いも本気になった相手がロバートの嫉妬を煽ろうとしてジョージに言い寄り、勝手に玉砕し、ロバートの悪評を流していた。恋に恋する令嬢や自身を正当化して他人を貶める令嬢に大切な辺境は任せられんと思い、ロバートの縁談を世話する事にした。
マリアは第一候補だった。マリアの父が言い出さなければ俺から婚約を打診していただろう。
国のために貴族を結びつける。俺がよくやっている事だ。
正直、最初は同じようにミーシャの性格を見極めて合いそうな男を探そうと思っていた。
だが、ミーシャに魅了されたのは俺自身だった。
卑屈なくせに、貪欲で諦めない。
知識を得るたびに輝いていく瞳が美しいと思ったのはいつだっただろう。
恋なんて馬鹿馬鹿しいと思っていたが、今はマチルダを溺愛するガルシアの気持ちが分かる。
「そんな顔しなくても大丈夫だ。マチルダにはガルシアがいる。ミーシャには、俺がいる」
ミーシャが笑うだけで幸せな気持ちになる。恋とは恐ろしいものだな。だが、悪い気はしない。私はいずれ王になる。ミーシャがいれば、頑張れる気がする。
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