第26話 不安

わたくし達の正体を知っているのはごく一部の人達だけなので、屋敷に戻るとリリアン様の侍女のお仕着せを着て使用人のふりをして過ごしている。


多少屋敷を歩き回っても問題ないけど、できるだけリリアン様の部屋から動かないようにしている。リリアン様のお部屋は複数あり、そのうちの一部屋を貸して頂いている。ロバート様は、上級使用人の部屋を一室お借りしているわ。


普段はロバート様の部屋に行くことはない。使用人の姿をしていても不審に思われたら困るもの。けど、今日は動かないと。リリアン様の部屋に戻り、事情を知る侍女の方達にドレスを脱がして貰いお仕着せに着替えると、すぐにロバート様の部屋を訪ねた。


今日の出来事を話してフローレンス様のお相手を探して頂くように頼む。


「フローレンス様は国を出たがっているのか?」


「そうなんです。だから、フローレンス様に相応しい方を探して頂きたいのです。そうすればフローレンス様のお見合いと称して堂々と国を出られます。わたくしは侍女にでも変装すればいいでしょう。王太子殿下に連絡を取れますか?」


「そういうことか。さすがマリアだ。任せておけ。すぐ連絡を取る」


「あの! フローレンス様のご希望は、優しい紳士です! フローレンス様の性格や見た目も分かる限りここに書きましたので、お似合いの方を探して欲しいとお伝え下さい。フローレンス様が夫に夢中になって貰わないと困るんです!!!」


「……マリア、どうした?」


ついロバート様に詰め寄ってしまう。こんなに取り乱しても優しい、本当にロバート様は素敵な人だわ。王女様にも、公爵令嬢にも渡すもんですか!


「フローレンス様は、ロバート様を狙っておりましたの」


「私を?」


「はい。薔薇の輸出元がフローレンス様のお家でした。だから、ロバート様とお会いしてご自分を売り込むおつもりだったそうですわ。ミーシャ様といいフローレンス様といい、ロバート様は人気者ですわね……」


「マリア、一体何を怒っているんだ?」


「怒っておりませんわ」


コレは嫉妬だ。

ロバート様に八つ当たりしてどうするのよ。こんなんじゃ嫌われちゃうわ。


頭では分かってるのに、気持ちが止められない。


もう、なによこれ!

自分がどんどん嫌な人になっていくわ。


「マリア……隠し事はやめてくれ。ここは辺境の屋敷じゃない。私達が完璧に意思疎通をしないと、任務をこなせない」


「お仕事は関係ありません」


「でも、マリアは悲しそうだ。すまない……マリアを傷つけたくはないのに……つらい仕事を頼んでしまって……」


ああ……この人はなんて優しい人なんだろう。非常時なのに、わたくしを気にしてくれる。


こんなに良い人が夫なのに、なんで不安なの。どうして怖いの……!


「泣くくらい仕事が辛かったのだな。あの男達のせいだな。すまない。やり方を変えよう」


「違うのです。あの男性達はどうでも良いですわ。もう顔も忘れてしまいました」


「では……なにが……頼む、教えてくれ!」


「単なる嫉妬です。ロバート様はミーシャ様のお気持ちに気が付いていましたか?」


「王太子殿下が教えてくださったよ。だが、いまだに信じられない」


「ロバート様は王女様や公爵令嬢に望まれるくらい素敵な方なのです。だから、わたくし怖くて……。ロバート様を取られたくなかったんです。わたくしは妻なのに、まだ……ロバート様と本当の夫婦になれていないのは……わたくしが不甲斐ないからではないかと……ごめんなさい……なんだかぐちゃぐちゃになってしまって……こんな事、考えてる暇なんてないのに。今は一刻も早く王太子殿下のご命令を遂行しないといけないのに……!」


ロバート様が顔を歪める。

嫌われてしまったわよね。思わず下を向く。ロバート様の顔が見れない。


「マリア、顔を上げてくれ」


恐る恐る顔を上げると、ロバート様に突然キスされた。

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