第27話 愛してる【ロバート視点】

口付けをすると、マリアの顔が真っ赤に染まった。ああ……可愛いな。マリアが部屋を訪ねてきた時、様子がおかしくて焦った。


まさか、嫉妬してくれていたなんて。


我々は夫婦としての触れ合いがなかった。屋敷にいた頃はミーシャ様がいたし、ここでは使用人とお嬢様だ。ごく少数の使用人しか事情を知らないので、マリアと仕事の打ち合わせしかできていなかった。


私はマリアと過ごす時間が増えて幸せだったが、マリアは不安を抱えていたのだな。どうやら聖帝国ラーアントはたくましい男性がモテるらしい。こちらに来てから侍女やメイドにアプローチされる事が増えた。その都度断っているが、マリアの耳にも入っていたのかもしれない。


マリアもミーシャ様の気持ちに気が付いていた。更にフローレンス様まで私を狙っていたと分かれば不安で仕方なかっただろう。私だって、マリアが男達に囲まれた時は冷静ではいられなかったのだから。


マリアに声をかけた男達を全員調べ上げ、レイモンド公爵に報告してしまったくらいだからな。レイモンド公爵は笑顔で報告書を受け取ってくれたが、怒っていた。あいつらの家には警告がいくだろう。


名乗らなかったから大丈夫だなんて思わないで欲しい。潜入捜査をするのなら、貴族の顔と名前くらい覚えるに決まってるだろう。


レイモンド公爵はこの国では珍しく、家族を大切にする方だ。徳を気にしない方でもある。表向きは隠しておられるが、徳など馬鹿らしいと私に漏らしていた。マリアも同じ事を言っていたな。


私も同じ意見だ。信心深いのは結構だが、この国の人達は徳を免罪符にしている人が多い。やる前から徳がないと諦める。成功した人は徳があっただけだと妬む。こんな考えが、私はどうにも受け入れられない。


神様だって言い訳ばかりで何もしない人間より努力する人間に微笑むだろうに。チャンスを手にする機会は多くの人の目の前に現れる。チャンスに気がつき、自ら動いて掴む者だけが成功できると私は思っている。


確かに人の力が及ばない事はたくさんある。今回の王女様達のように、悪くないのに被害に遭う事もある。だが、良い事も悪い事も全て徳の一言で済まそうとするこの国の人達には、苛立ちしかない。


……いかん。こんな考えでは良くないな。マリアのように、優しくあらねば。


手紙をやりとりするようになって分かった。マリアは本当に気遣いの人だ。ミーシャ様のお気持ちに気が付いていたのなら、夫を狙う王女様に腹が立っただろう。だが、マリアはずっとミーシャ様を気遣っていた。鈍い私は気が付かなかったが、今思うとミーシャ様はあからさまに我々の仲を邪魔していた。マリアと2人になると、すぐに現れてマリアを連れて行ってしまう。


身分差があっても、少しくらい嫌な顔をしたり文句言ったりしてもいいのに。マリアを大事にしている使用人達は、マリアが少しでも不満げなら必ず私に進言してくる。


誰も、何も言わなかった。あのジョージすら、マリアがミーシャ様と親しくしていると喜んでいた。


つまり、誰もマリアの不安に気が付かなかったんだ。


情けないな。私はマリアの夫なのだから、私だけは気が付かないといけなかったのに。マリアに好かれていると、分かっていたはずなのに。自信が持てず、妻が嫉妬するなんて考えもしなかった。


事情があるとはいえ、結婚してもうすぐ1年だ。それなのに……夫婦の時間は全く取れていない。


私は任務に夢中で全くマリアの事を考えていなかったんだ。


「マリア、愛してるよ」


結局、口付けするくらいしか愛情を表現する方法が見つからない。


もっとマリアの為に、いろんなことをしたいのに。


「……やっぱり、ロバート様は素敵な方です。わたくしも、ロバート様を愛していますわ」


不器用なキスだったのに、愛しい妻は嬉しそうに笑ってキスを返してくれた。

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