第28話 リリアンの本音
「マリア様、いいことがありました?」
「わかりますか? リリアン様」
「ええ。もしかして旦那様と何かありました? とってもお幸せそうですわ」
「……ええ、そうなんですの。こんな時にとは思いますが……夫の気持ちが嬉しくて」
「ふふっ、羨ましいですわ。わたくしも、マリア様のように素敵な旦那様が欲しいわ」
「……え」
「まぁ、そんな顔をなさるなんて本当に旦那様がお好きなのね。大丈夫ですわ。マリア様の大事な旦那様を取ったりしません。わたくしは、わたくしだけを愛してくれる男性が良いの。ま、この国じゃ難しいですけどね。父みたいな殿方、どこかに落ちていないかしら」
「レイモンド公爵は素敵な方ですものね」
「ええ、父は母一筋ですの。父みたいな貴族はこの国には滅多にいませんわ。だから、他国に嫁ぎたがるフローレンス様のお気持ちも分かりますの」
「そうなのですね」
「……わたくしもできるなら……他国の方が良いわ。でも、この身体でしょう? 移動もままなりませんし、わたくしは一人娘ですし……マリア様が社交をして下さって本当にありがたいですわ。一度も社交界に出ていない女と、身体が弱くてもデビュタントした女では価値が全く違いますもの。これで、多少マシな婿養子を見つけられそうです。マリア様はこの国の男性を見ましたか?」
「……ええ、拝見しました」
「率直に言ってどうですか?」
「出会った男性が酷かっただけかもしれませんが、横柄な態度の方が多いなと思いましたわ」
「話は聞いてますわ。みんなあんなものですの。あーんなに素敵な旦那様と比べたら、他の男なんてみんな芋ですよね」
「い、芋ですか?!」
リリアン様は結構口が悪い。でも、話してると楽しいのよね。
「そう、芋。威張るだけで役に立たない男達より、栄養になる芋の方が数段役に立ちますわね」
前言撤回。結構じゃなくて、かなり口が悪いわ。
「……下位貴族の男性に初対面で呼び捨てにされたり、許可もなく腕を掴まれたりしましたけど……この国では当たり前なのでしょうか?」
「そうですね。神殿で役職を持っていれば許されますわ」
「なるほど。神殿ですか」
あの男達も、聖印を持っていたから神殿で役職を持っていたのかもしれないわね。
神殿に潜入する方法も考えないといけないかしら。
「もう! またお仕事の事を考えておられたでしょう!」
「……申し訳ありません。少しだけ考えてしまいましたわ」
「マリア様は正直で立派な方ですけど、この国じゃ生きづらいでしょうね」
「フローレンス様も似たような事をおっしゃっていましたわ」
「フローレンス様やわたくしは、生まれた国を間違えてしまったのかもしれませんわね。この国の言葉で言うなら、徳がない……という事です。ま、わたくしは徳なんてどうでも良いですけど。父と母の子として生まれたわたくしは、世界一幸運ですわ」
「確かに、レイモンド公爵のようなお父様なら良かったと思う事はありますわ。うちの父は、何もしない男でしたもの」
「まぁ、そうなんですの?」
「ええ、全て母が家を仕切っておりましたの。父は母の苦労を知ろうともせずに愛人を侍らせて遊び放題でしたわ。愛人にお金がかかるから、王家と繋がりをもって稼ごうとしたのです」
「まぁ、まるでうちの国の貴族達のようね」
「わたくしの結婚を機に弟が後を継いで、父は別荘に軟禁されました。父が寂しいだろうと毎日愛人の方が訪ねているそうですわ」
「……毎日、ですか?」
「ええ、父の愛人はたくさんおりますの。母が全員と話し合いをして、交代で父を訪ねさせているそうですわ」
「まぁ素敵。素晴らしいお母様ね。だから、マリア様もしっかりなさっているのね。まるであの本のご夫人みたい」
「本ですか?」
「ええ、そちらの本棚にある赤い背表紙の本を取って頂けますか」
「こちらですか?」
「そうそれ。この本に書いてあるの」
「この本は……」
表紙やタイトル、言語が違うから気が付かなかったけど、この本は政略結婚の指南書だわ。お母様から頂いた、今は開く事もなくなってしまった本。
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