第17話 妻の信頼【ロバート視点】

「ガルシア殿下の婚約者か。そこはあっていたのだな。やはり遠慮なんてせず問い合わせれば良かった」


「しなくて正解ですよ。あの人の事だから、正面から聖帝国に怒鳴り込みに行きますよ。うちが疑われる可能性だってあります。奥様は、旦那様の協力があればガルシア殿下に会えると話しておられました」


確かにそうだ。だが、普通なら辺境伯が他国の王族と個人的に繋がりがあるとは考えない。


「マリアは、私の仕事を知っているのか?」


「旦那様がご不在の間、大旦那様と大奥様の指導を受けて仕事を代行していたそうです。その際、オキ共和国と我が国の関係を知ったのでしょう」


オキ共和国とは数年前に同盟を結んだ。今でも時折起こる小競り合いは、全て他国に対するパフォーマンスだ。特に聖帝国ラーアントに知られると両国のバランスが崩れるから内密になっている。私は、外交官としてオキ共和国と交流を深めている。ガルシア殿下は気さくなお方で、私の事をロバートと呼び個人的に贈り物を贈って下さる。


私の仕事を手伝えばオキ共和国と親しい事はすぐに分かる。


父さんと母さんは、マリアを気に入ったのだな。結婚して半年で大切な仕事を任せるとは。


「マリアは聖帝国の言葉も話せたのか」


「そのようです。王太子殿下が奥様との結婚を強く推薦して下さったのもその為でしょう」


辺境伯の妻は、貴族なら誰でもいいわけではない。外交官としての役割もあるのだ。最低条件は、同盟国であるオキ共和国の言葉が話せて、書けること。


だが、マリアは聖帝国ラーアントの言葉も話せたらしい。うちの妻、優秀だな! さすがマリアだ!


妻の期待に応えないわけにはいくまい。


「オキ共和国と、国王陛下に連絡を取れ。国王陛下の返事は待たずに、ガルシア殿下に連絡を取る。きっと彼ならすぐ来るだろう。しかし今は聖帝国の目が厳しいから……いつものように小競り合いを演出するか。お互い引いたと見せかけて、ガルシア殿下をうちの陣営に招き入れる。それから、いつまでも放っておくとラーアントの密偵が勘付く。あの男達は私が直々に取り調べる。王女様達の誘拐事件は解決していない事にする。あの男達を利用して、聖帝国ラーアントを騙す」


「そんな事を仰るなんて……旦那様らしくありませんね」


ジョージは楽しそうに笑っている。らしくない、か。確かにそうだ。だが不思議と今の方が辺境伯として、人として正しいと思える。


「我々が保護しているのは聖帝国ラーアントの王女様達だ。しかも、オキ共和国の王太子殿下の婚約者も含まれる。うまくやれば国に大きな利益をもたらす。私は辺境伯として仕事をしているに過ぎない」


「そうですね。ですが、以前の旦那様よりも融通がきくようになり、お優しくなられました。以前の旦那様なら、オキ共和国に連絡せず国王陛下の指示を待たれていたでしょう」


「……確かに、そうだな。少し欲張りになってしまったようだ。私は領地を守り、彼女達も守る。今回の件は、婚約者のピンチに気がついたガルシア殿下がいち早く動かれたという事にする」


「そこまで捏造しますか。本当に、旦那様らしくない。奥様の期待に応えたいからですか?」


「それもある。マリアはマチルダ様とミーシャ様のお役に立とうとしているからな。情報を流すようにエイダに命令しているのも、私を信頼してくれてうまくやれると期待しているからだ。安心しろ。捏造がバレる事はない。国王陛下への報告と、オキ共和国への連絡、早いのはオキ共和国だ。国王陛下が使者を送ってきた時には、ガルシア様が我が家に滞在しているだろうな。もちろんガルシア様がいらした時点で陛下に報告するぞ。私は王家に忠実な辺境伯だからな」


「清廉潔白なだけでは、辺境を治められませんからね。旦那様は変わりました。奥様のおかげですね」


ジョージが笑って部屋を出て行った。すぐにガルシア殿下へ手紙を書いて手配したところで、ジョージがニヤニヤしながら部屋に帰って来た。


「奥様の勝ちです。旦那様、マチルダ様とミーシャ様が旦那様をお呼びです」


うちの妻は、王族の信頼を勝ち得たらしい。本当に、私には勿体ないくらい優秀な妻だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る