第18話 王女様の婚約者

「うそ……どうしてガルシア様が……!」


「マチルダ! ミーシャ! 会えて良かった! 怪我は? どこも痛いところはないか? あの男どもは、後でしっかり罰を与えるから安心してくれ。オレの大切な人達に手を出したんだ。死ぬまで後悔する人生を送らせてやる」


「彼らは取り調べ中です。情報を得るまで、しばらくお待ちください」


「分かってるよロバート。だが、取り調べが済んだら引き渡して欲しい」


「もちろん、そのつもりです」


「この間マチルダを訪ねた時、病気と聞いて……ミーシャも倒れていると言うから心配していたんだ。まさか……攫われていたなんて……。ロバート、マチルダとミーシャを助けてくれて本当にありがとう」


あの後、マチルダ様とミーシャ様を説得してロバート様を呼んだ。ロバート様は丁寧に話をして、マチルダ様とミーシャ様の信頼を勝ち得た。聖帝国の言葉をスラスラと操るロバート様はとってもかっこよかったわ。


ガルシア様と連絡を取ると約束しておられたけど、まさかこんなに早いとは。


王女様達と話した後、すぐにロバート様は出陣した。すぐ帰るとおっしゃっていたけれど、次の日にガルシア様を連れて帰って来られるなんて。


仕事が早い旦那様、最高だわ。


ロバート様が出陣してすぐ、ジョージも動いた。捕まえた男達を街に戻して、誘拐事件は続いていると見せかけている。精鋭の女性2人も付けて、王女様のフリをさせる。さらに、男達の1人がジョージと入れ替わった。あっという間に自分達を倒したジョージと常に一緒に過ごさないといけない男達は、牢獄の方がいいと叫んでいたわ。


ロバート様が直々に取り調べた結果、彼らはお金で雇われただけだった。1年間少女達を監禁すれば破格の報酬を出すと唆されていたらしい。前金はとんでもない金額だったそうよ。逃げられないようにして、絶対に手は出すなと指示されていたからおふたりに怪我はなかった。


定期的に確認に来ているらしくて、次に来るのはおそらく半月後なのですって。マチルダ様とミーシャ様を探そうとした密偵もいたらしいし、色々ときな臭い。我々には、情報が足りない。


だから、ジョージが潜入調査することになった。今のところガルシア様には秘密にしてある。表向きは取り調べが長引いている事になっているわ。まぁ、潜入捜査も取り調べの一環と言えるし、万が一バレてもなんとかなるだろう。


ロバート様は裏の事情を全て隠して涼しい顔でガルシア様と握手をする。腹黒くてすまないとおっしゃっていたけど、領地や国を守るには正攻法だけではうまくいかない。わたくしだって、エイダに裏で指示を出していたのだから。


腹黒いロバート様も素敵ですとお伝えしたら、真っ赤な顔でプルプル震えておられたわ。


本当に腹黒く外交をするロバート様も素敵なのよっ! ロバート様はニコニコ笑いながらガルシア様と握手をしている。もぉ、もぉ、内心を隠して笑顔で対応! 素敵、かっこいいわっ!


「私は領内に怪しい男達がいたから取り調べただけです。マチルダ様とミーシャ様がガルシア様に会いたいと泣いておられましたので、急ぎ連絡をしました」


ガルシア様が愛しそうにマチルダ様を抱きしめた。


ロバート様、やるわね。こんな事言われたらガルシア様は絶対にマチルダ様と結婚する。オキ共和国なら万が一攫われた事が表沙汰になってもたいしたスキャンダルにはならない。ガルシア様は民の人気も高いし、きっと大丈夫。マチルダ様はこれで安心ね。


あとはミーシャ様をどうするか……よね。幸せそうなマチルダ様と違い、ミーシャ様は今にも泣きそうなお顔をなさっている。そうよね。不安よね。守ってくれた姉も離れてしまいそう、国に帰れば破滅が待っている。きっと不安で押しつぶされそうなのではないかしら。


どう声をかければいいか悩んでいると、ロバート様がしゃがんでミーシャ様に声をかけた。


「我が国もすぐに動きます。ご安心ください。オキ共和国と我が国が組めば、マチルダ様はオキ共和国の王妃になれますし、ミーシャ様は安全に過ごす場所をご用意できます。ミーシャ様が安心して過ごせる場所を、必ず探します」


ミーシャ様の目を見て、聖帝国の言葉で優しく語りかけるロバート様。怯えていたミーシャ様は、小さな声で呟いた。


「本当……ですか?」


「ええ、本当です」


「ミーシャ様、夫はガルシア様を約束通りお連れしました。どうか夫を信じて下さい」


「……分かった。信じるわ。ありがとう、ロバート様……」


ロバート様の手を取るミーシャ様は、美しく微笑んだ。その瞬間、背中にゾクリと寒気が走る。

先日経験した王族の威厳とは違うなにかを感じる。


わたくしは怖くなり、ミーシャ様から離れたロバート様に寄り添い彼の手を握った。ロバート様は嬉しそうに笑ったけど、ミーシャ様は冷たい目をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る