第19話 羨ましい【ミーシャ視点】
お姉様は、もう大丈夫。
ガルシア様はお姉様をとても大切にしている。どんな手を使ってもお姉様を王妃にするだろう。
だけど……わたくしは?
わたくしはお姉様みたいに守ってくれる人はいない。
うちの国は、女に生まれただけで苦労する。それは王族でも同じだ。
いやむしろ、王族だからこそ厳しい。わたくしは男性と話す機会はほとんどなく、周りにいる使用人も全て女性。
社交は女性が集まるサロンだけ。お父様とも滅多に話さない。
お姉様も、婚約発表はまだ先だからと年に数回こっそりガルシア様とお話しするしかできない。時間も限られている貴重な場に、お姉様は少しだけわたくしを連れて行って下さる。
お姉様のおかげでガルシア様はわたくしの事も可愛がってくれるようになった。きっとお姉様は分かっていたんだと思う。夜会に行くお姉様と違い、わたくしは結婚するまで男性と会えることはないのだと。だから少しでも男性に慣れておいた方が良いと考えて、ガルシア様と会わせてくれたのだ。ガルシア様の希望だと言えば、誰も文句が言えないから。
優しく話しかけてくれるガルシア様の事を少しだけ……好きになったけど、大好きなお姉様の婚約者を好きになるなんて……駄目。
それにお姉さまとガルシア様の間にわたくしが入る隙間はない。ガルシア様はお姉様を愛している。今もずっとお姉様を抱きしめて離さないもの。
幸せそうなお姉様を見て、良かったと思うのに……どうしても素直に喜べない。自分が嫌になって俯いていたら、ロバート様が優しく話しかけて下さった。初めて会った時は、怖い顔をしている身体の大きな人だと思っていたけれど……誠実で優しい人だわ。
わたくし達を邪魔者扱いせず、ちゃんと話を聞いてくれて……守ると言ってくれた。
良いな。マリアが羨ましい。お姉様が羨ましい。ふたりとも素敵に人に愛されていて……とっても綺麗で、楽しそうで、幸せそう。
お姉様はいつも無表情だけど、ガルシア様の話をする時は笑っている。マリアもロバート様の話をする時だけ、すました貴族の顔じゃなくて可愛い乙女の顔になる。
どうして、わたくしが好きになる人はいつも……わたくしを見てくれないのだろう。
攫われる前に、婚約者がいれば……いや、無理ね。第一王女は国外に出すけど、第二王女以降は国内の貴族と結婚するのが慣わしだもの。うちの貴族達が、攫われた王女を大切にするわけないわ。
国外に嫁ぐお姉様は他国の言葉を勉強できるけど、わたくしはできない。同じ王女なのに、お姉様とわたくしは何もかもが違う。
お姉様はオキ共和国との外交に使えるから殺されないだろう。でも、わたくしは国に帰ったら確実に殺される。
徳がなかったのだから諦めようと思っていた。けど、マリアは徳がなんだと切り捨てた。そんな不確かなものより、わたくし達の幸せが大切だと。
うちの国ではあり得ない考え方だ。うちの国は徳のあるなしを何より大切にする。攫われた時点で徳がないのだから終わり。諦めるしかないと思っていた。お姉様はわたくしだけは何とか守ろうと頑張ってくれたけど、ガルシア様と結ばれることは諦めていた。
諦めなくていいんだと教えてくれたのはマリアだ。マリアは優しくて、とってもいい人なのに、ロバート様と寄り添うマリアが羨ましくて……つい、マリアを睨んでしまった。
怖がらせてしまったと後悔したけど、謝ることもできなかった。謝ったら、わたくしが睨んでいたと認める事になってしまう。不安そうな顔をしたマリアがロバート様の手を握ると、ロバート様は優しく微笑んだ。ああ……また、胸が痛い。
マリアはロバート様に寄り添うと、すぐに元気になってわたくしに笑いかけてくれた。マリアは優しくて、とっても綺麗。きっと徳も高いのだろう。
わたくしは醜い。お姉様やマリアのようになれない。徳がないわたくしは幸せになれないのだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます