第22話 潜入捜査

「リリアンお嬢様、参りましょう」


「ええ、ありがとうフィリップ」


執事服を着たロバート様にエスコートされて、馬車を降りる。もうダメ、ロバート様がカッコ良すぎるわ。今すぐ抱きつきたい!


わたくしとロバート様は、潜入捜査をしている。わたくしは聖帝国の公爵令嬢リリアンに、ロバート様はわたくしの専属執事フィリップに扮している。


ガルシア殿下のコネで、聖帝国ラーアントで2番目に権力のある家に潜り込めた。わたくしは病弱で家を一度も出なかった令嬢リリアンとして貴族社会を渡り歩き、王族と話をして、マチルダ様とミーシャ様の敵と味方を探す。


捜査が終われば、我々は味方を連れて国を出る。そして、病弱な令嬢リリアンは再び倒れるという流れだ。本物のリリアン様にお会いしたが、ベットから出られず身体がおつらいのに知りうる限りの情報を教えて下さった。マチルダ様から得た情報も照らし合わせれば、なんとかこの国の貴族を演じ切れる。


ミーシャ様は、わたくしが聖帝国に行くと聞いて怒って部屋にこもってしまわれた。おそらく、わたくしがロバート様と共に行くのがお嫌なのだろう。


……身分が上の方に対して失礼だけど、ロバート様は渡さないわ。聖帝国の王女様がロバート様と結婚したら、わたくしは追い出されてしまうじゃない。そんなの嫌。それに、自惚れかもしれないけどロバート様はわたくしを好いてくれてると思うの! 最近は素敵なお手紙をたくさん下さるのよ。早く全て終わらせて、ゆっくりロバート様と話がしたいわ。


王太子殿下がミーシャ様を気に入ったみたいだから、仲良くなって頂きたい。ミーシャ様は自分に自信がないみたい。いつもお姉様と自分を比べておられる。でも、ミーシャ様は頭の回転が速い。知識はマチルダ様の方があるけど、ミーシャ様には知識を求める貪欲さと、他の人にはない鋭い視点がある。良い教師をつければ、伸びるのではないかしら。


ミーシャ様も、ロバート様を狙わなければいい人よ。慕って頂けるのは嬉しいわ。


聖帝国では第二王女以降はあまり教育を受けさせて貰えないらしい。王太子殿下がミーシャ様に様々な事を教えるそうだから、帰ってきてお会いするのが楽しみだわ。さっさとロバート様を忘れて王太子殿下と婚約して欲しいの思うのは、わたくしのわがままかもしれないわね。


でも、そう思っても仕方ないと思うの。うちの旦那様、素敵なんだもの。取られたくないわ。


ロバート様の変装姿に胸がときめく。みんな、この人わたくしの夫なのよ! 素敵でしょう?!

そう叫びたい心をなんとか抑えて、気持ちを切り替える。


「私はここまでです。時間になったらお迎えに来ます。どうか、どうかお気をつけて」


「ええ、ありがとうフィリップ」


見かけない令嬢に周りがざわめいたけど、ニコリと笑えば静かになった。笑顔は大事よね。


「さ、いくぞリリアン。遅いデビュタントだからな。しっかりやれよ」


「はい。頑張りますわ。お父様」


依頼を受けて下さったレイモンド公爵は、とても立派な方だ。ガルシア殿下の話を聞いて、すぐに協力すると仰ってくれた。彼は、我々が探している人物を両方知っている。だけど、教えてはくれない。証拠もなく訴える事ができないと言っていたわ。つまり、レイモンド公爵家より身分が上の人達が犯人という事になる。


変装して娘のマチルダ様と顔立ちを似せると、泣いてしまわれた。本当なら、娘もこうしたかっただろうに……そう呟やいておられたわ。


聖帝国ラーアントは女性の地位が低い。それでも、子を思う親は存在する。


あまりレイモンド公爵にご迷惑をおかけするわけにはいかない。我々は用が済んだら帰るけど、レイモンド公爵家はこれからも聖帝国ラーアントで生き続けるのだから。


王女様の敵と味方を探すのは、ロバート様とわたくしの仕事だ。ロバート様は使用人を装い裏から情報を集める。わたくしは、貴族社会に侵入して情報を集める。


この仕事が成功すれば、マチルダ様とミーシャ様は幸せになれる。

さぁ、久しぶりの社交に行きましょう。国が違っても、やることは同じ。多くの味方を作り、情報を集めましょう。

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