第10話 危険もある
「ロバート様! このお花、綺麗です!」
「よし、買おう。すまんが後で屋敷に届けてくれ」
「まいどあり。領主様良かったねぇ、仕事柄王都で貴族のお嬢様と話す事もあるけど、こんなに気さくで領主様を褒めちぎってくれる女性は見た事ねぇや。良い人と結婚なさいましたね」
「うむ」
何度目か分からなくなった賛辞に少しだけ慣れてきた頃、市場の奥にある住宅街から女性の泣き声が聞こえた。
その瞬間、ロバート様の表情が厳しいものに変わる。
「聞き覚えのない声だな」
「最近越して来た一家でさぁ。年頃の娘2人と親父の3人暮らしなんだけど、たまに泣き声がするんですよ。とはいえ、騒いでる様子もないし娘達はたまに出てきてるし、親父は人当たりも良いし……ま、親子喧嘩くらいしますよね」
「……ふむ。親子なんだな?」
「みたいっすよ。母親はいなくて父親ひとりで姉妹を育ててるみたいでさぁ。色々ありますよね。肌が弱いとかで、フードを被ってるからあんまり顔が見えないんですけど、ありゃ結構美人だと思いますぜ。あ、もちろん奥方様の方が美しいですけど」
「マリアは可愛いし、美しいからな」
「ごちそうさまです。年頃の娘が心配なのか、父親は姉妹にベッタリですよ。なんかよくわかんねえけど、腕のいい職人らしくてね。父親の作るものを買いにしょっちゅう商人が出入りしてます。商人も、あの親父を追っかけて来たみたいでここらでは見かけねぇんですよ。けど、安く品を譲ってくれたりするいい奴らですよ」
「……姉妹の年齢は?」
「正確には分かりませんけど、2人とも成人しているように見えました。姉は挨拶くらいしてくれますけど、妹は一言も話しませんね」
「そうか。腕のいい職人なら一度あってみよう。うちも頼み事をしたいからな」
「おお、ぜひ声をかけてやって下さい。気さくないいやつですよ」
店主と別れて人目がつかない所に行くと、ロバート様が口笛を吹いた。すぐに目の前にジョージが現れる。
「話は聞いていたな。すぐに調べろ」
「かしこまりました」
「マリア、すまないが」
「お仕事ですね。わたくしはどうすればよろしいですか? 屋敷に帰る方が良いでしょうか?」
「……そうだな。だが、道中の護衛が……」
「どの程度の危険が想定されますか?」
「まだ分からないが、万が一争いになっても精鋭が揃っている。あまり危険はないだろう」
「保護対象は2名ですよね。そこにわたくしが加わっても問題ありませんか?」
「付いてくるつもりか?!」
「ええ。それが一番効率的かと。わたくしは身を守る術がありません。だから、ロバート様のお側が一番安全なのです。お邪魔はしませんし、危険には近寄りません。もちろん、ロバート様の指示に従います。保護対象はわたくしと歳の近い女性です。色々フォローができるかと」
「……分かった。頼りにしている」
「はい! お任せ下さいませ!」
やった! やったわ!
頼りにしてるって、ロバート様が笑ってくれた。っと、いけない。浮かれるのは後よ。
視察の理由が分かった。きっと、さっき話に出た姉妹を探していたんだわ。
しばらくすると、ジョージが現れた。ジョージの顔は真剣そのものだ。
きっと、探していた子たちが見つかったんだわ。今は余裕もないし、あまり詳しく聞くわけにいかないけど、ロバート様は姉妹を探していた。
わたくしの役目は、姉妹の信頼を得て無事保護する事。危険は、ロバート様達が排除してくれる。
「旦那様、調査が終わりました。間違いありません」
「……よし、踏み込むぞ。騒ぎにならぬよう配慮してくれ。表向きは、職人を屋敷に連れて行って話を聞くように見せかける。私はマリアに付く。問題ないな?」
「はい」
「良いのですか?」
「俺は強いので問題ありませんよ。まぁ、旦那様は俺の3倍強いですけど」
「そうなのね。ロバート様、素敵ですわ」
「なっ……! なっ……!」
「ええ、旦那様は素敵な方なのです。旦那様、奥様に危険が及ばないように早急に終わらせます」
ジョージが静かに去り、ロバート様は真っ赤な顔でオロオロしていたけれど、すぐに気持ちを切り替えてわたくしの腕を取って下さった。
「行きましょう。姉妹がもし嫌がった時は、説得を頼みます」
「はい。お任せ下さい」
わたくしに戦う力はない。だけど、他のやり方でロバート様の役に立ってみせるわ。
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