第11話 あっという間

「な、なんだおまえら!」


ジョージを先頭に部屋に踏み込む。部屋には3名の男がいて、部屋の隅に姉妹が寄り添うように座り込んでいた。妹と思われる少女は泣いている。姉妹の足には鎖が付けられていた。


監禁していたのは間違いないみたいね。


「この男は、お嬢様達のお父上ですか?」


「違うわ! こいつらは誘拐犯よ」


「排除してよろしいですね?」


「ええ、排除してちょうだい」


姉の落ち着き払った顔、息をするように命じる態度、整った顔立ちに綺麗な肌。高貴な身分である事は間違いないわ。


「かしこまりました」


ジョージは優雅に礼をすると、男達に武器を向けた。


こちらには何人も精鋭がいたのに、ジョージひとりであっという間に殲滅してしまった。


「……凄い」


「マリア、私はもっと……危ない!」


悔し紛れに男が投げたナイフを跳ね飛ばし、ナイフを投げた男にゆっくりと近づくロバート様。


「貴様……私の大切な妻に何をしようとした?」


「ひ、ひぃ! 頼む、やめてくれ……!」


「答えろ。マリアに何を投げつけたんだ」


「すまない……すまなかった……!」


「旦那様。威嚇するのは後にして下さい」


「ジョージがきちんと対処しないからこんな事になったんだ」


「奥様の守りは旦那様の担当です。奥様、お怪我はありませんか?」


「ないわ。ロバート様が守って下さったから大丈夫よ」


「それは良かった。さすが旦那様です。惚れ直したでしょう?」


「ふふ、確かにそうね。ロバート様は元々素敵だったけど、今日ますます好きになったわ。だから気にしないで。ロバート様、守って頂きありがとうございます」


「あ、ああ……私はマリアの夫だからな!」


「良かったなぁ。奥様がお優しくて」


「ひ、ひぃ……!」


ロバート様に威圧され、ジョージに脅された男は気絶した。どうやら気絶した男がリーダーだったみたいで、他の男達もあっさり投降したわ。


男達は、周囲にバレないように1人ずつ連行される。街の人達とうまくやっていたみたいだから、犯罪者と分からないように連れて行くそうだ。今後の事もあるとロバート様がおっしゃっていたから、なにか考えがあるのだろう。


ロバート様が少女達に挨拶をするが、警戒した少女達は一切動こうとしない。


「領主のロバート・ウィリアム・ミッチェルです。どうか私と来て頂けますか?」


「嫌よ!」


「あの、この人こんな見た目ですけど優しい人なんです。我々は、敵ではありません。安全な場所をご提供します。すぐ、お迎えも来ます」


「……信用できないわ」


ロバート様とジョージが必死に説得しても、少女達は頑なだ。


ここは、わたくしの出番ね。


「お初にお目にかかります。マリア・ウィリアム・ミッチェルと申します。どうかお気軽にマリアとお呼び下さい。こちらにいる辺境伯、ロバート・ウィリアム・ミッチェルの妻でございます。夫と部下の失礼な態度、心よりお詫び申し上げます。ここはキャダール王国の西の端、聖帝国ラーアントと、オキ共和国に接している辺境の地でございます。夫のロバートは、伯爵としてこの地を治めております。わたくしは、たまたま夫と視察に来ていてこの場に出くわしました。貴女方のお名前も、事情も存じません。ですが、お二人ともとても賢いご様子。ここで我々の手を跳ね除ければどうなるか、理解しておられるでしょう?」


多少脅すような言い方をしてしまうが、仕方ない。彼女達はプライドが高そうだけど、状況を客観的に見る力はあるだろう。


自分達の立場を理解して、ロバート様に保護される事が最良だと分かって欲しい。


「……脅す気?」


「いいえ、事実を述べているだけでございます。我々は、貴女方を丁重に保護して帰るべき場所へお帰しします。ですが、決して貴女方の意思を無視したりしません」


「本当に?」


「事情をお話頂ければですけれど。なにもお話頂けないなら、夫の知る保護者に連絡を取るでしょうね。この場には、貴女方を監禁していた男達を一瞬で倒したジョージと、ジョージの3倍強いわたくしの夫がいます。頑なになるよりも、対話をした方がお互いの為ではありませんか? わたくしは貴女方を丁重に扱うつもりです」


「マリアがそうでも……他の男達は信用できない」


「まぁ! ではわたくしは信用して頂けるのですか?」


「……まぁ、そうね」


「光栄ですわっ! では、是非わたくしの屋敷に来て下さいまし。暖かいお茶とお菓子をお出ししますわ」


懐から、先ほどロバート様に買って頂いたお菓子を出すと妹の目が輝いた。


「お菓子はお好き?」


キラキラとした目でお菓子を見る妹に諦めたのか、姉が同行する事を了承してくれた。


「では、お茶を飲みながらゆっくりお話しましょう」

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