第12話 したたかな少女達
「分かったわ。でも、マリアと離れるのは怖いから嫌よ。それから、迎えの連絡はわたくしが指示するまでしない事。それが条件よ」
彼女達は恐る恐るではあるが、屋敷に行く事を了承してくれた。
「承知しました。ロバート・ウィリアム・ミッチェルの名にかけて、貴女方の意に反する事はしないと誓います。勝手に迎えの連絡をしたりしません。しばらくは我が家でお寛ぎ下さい。ジョージ、馬車は用意できたか?」
「既に準備しております」
「では行きましょう。マリア、頼む」
「お任せ下さい。馬車はわたくしが付き添います。護衛としてわたくしの夫もお連れ下さいませ」
「え……」
「不埒者がまた現れても困るでしょう? 大丈夫ですわ。見た目は怖いかもしれませんけど夫はとっても優しいんですの。おふたりとも、薔薇はお好きですか?」
「ええ、好きよ」
姉が微笑み、妹は小さく頷いた。
「では、庭園でお茶にしましょう。ジョージ、連絡して準備するように伝えて。我が家の庭園の薔薇は、わたくしの為に夫が揃えてくれたんですの」
「な……なっ……マリア……なぜ知っているんだ……!」
「ロバート様がお留守の間に、屋敷の皆が教えてくれましたの。王城にもない珍しい薔薇があるのですわ。ロバート様がわざわざ聖帝国から取り寄せて下さっと聞いております」
聖帝国と言った瞬間、少女達の身体が強張った。ロバート様の目を見ると、小さく瞬きをしたわ。
どっち、どっちかしら?
あの子達は聖帝国の敵? それとも、聖帝国の関係者?
分からない事は、ロバート様に投げるわっ!
「まぁ、わたくし自身は聖帝国に行った事はないのですけどね。知り合いもおりませんし。ロバート様はどなたかお知り合いがおられるのですか?」
「私も聖帝国に友人はいない。薔薇は商人から仕入れたんだ」
「優秀な商人ですわね。聖帝国は余所者に厳しい国ですし、なかなか外部の人を受け入れないと聞いておりますのに」
「人伝に仕入れてくれたよ。コネがないと国に入る事すらできんからな」
姉の表情が少しだけ緩んだ。妹は無反応ね。もしかして、言葉が通じないのかしら?
とにかく、この子達は聖帝国にいい感情を持っていないのね。
貴重な情報ね。
それを踏まえて会話をしましょう。
「では、参りましょうか。我が家で身体を休めて頂き、落ち着いたら薔薇を鑑賞しながらティータイムにしましょう」
少女達を連れて、屋敷に戻る頃には全ての準備が整っていた。侍女達が少女達をお風呂に入れてくれて、体格の合うドレスを着付けてくれる。
その間、わたくしは少女達から離れる事はなかった。ふたりともひとりになるのを嫌がり、わたくしがいないと嫌だと姉が主張した。妹は一言も話さなかったが、姉にくっついて離れようとしない。仕方ないので、わたくしも一緒にお風呂に入り一緒にドレスを着た。
懐かれたのね。などと脳天気な事は思わない。
彼女達は、わたくしを人質に取ったのだ。ロバート様がわたくしを大切にしてくれているのは見れば分かる。
彼女達はロバート様を信用していない。わたくしも信用されていない。わたくしから離れない事で、我々を牽制しているのだわ。
この振る舞い……このしたたかさ……きっと彼女達は貴族ではない。もっと上の身分だ。
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