第6話 パニックになる辺境伯【ロバート視点】

「どういうつもりだ」


視察に出かけようとするとジョージがとんでもない事を言い出した。


ジョージは涼しい顔で同じ言葉を繰り返す。


「本日の視察は奥様もご同行なさいます。旦那様から誘った事になっておりますので、話を合わせて下さい。奥様は街に溶け込めるようにワンピースを購入しておられます。今更駄目とは言えませんよ。旦那様の為に準備して下さったのですから」


「2回聞いても理解が追いつかん。マリアが街に行くだと?! 危険すぎる!」


「護衛は付けます。私も遠くから警戒します。ですが心配無用でしょう。旦那様のお側なら、世界で一番安全です。大切な奥様を守る力がないなんて、仰いませんよね? 旦那様は辺境伯なのですから」


挑発するジョージにイラッとしたが、言ってる事は正論だ。マリアは問題なく守れる。毎日鍛錬を欠かしていないのだから、街歩きの護衛くらい問題ない。


だが、嫌だ。


「……マリアはもう準備しているのか?」


「エイダさんによると、毎日楽しそうに服を選んだり地味なメイクを考えたりなさっていたそうですよ。既に準備は終わっていて、もうすぐこちらにいらっしゃいます。奥様の楽しみを奪うおつもりですか?」


「分かった。マリアと視察に行く」


マリアの美しさを知られたくない。男が寄ってきて危険だなんて言えないな。問題ない。私が守れば良いだけだ。


準備を終わらせマリアを待つ。駄目だ。落ち着かない。部屋をウロウロしていたら、鈴の鳴るような美しい声がした。


「お待たせしました」


「ま、マリア?」


「はい! ロバート様の妻のマリアです!」


地味なワンピースを着ているのに、マリアは輝いていた。しかも、今日のマリアは積極的だ……!


「お誘い頂きありがとうございます。とっても嬉しいですわ」


「……あ、ああ。い、行こうか……」


「「「いってらっしゃいませ!!!」」」


笑顔の使用人達に見送られ、屋敷を出る。マリアはずっと俺の腕に寄り添っている。耳まで真っ赤だ。照れているのだろうか。


「ロバート様、大好きですわ」


幻聴が聞こえた。マリアが満面の笑みで私に大好きだと……これは、夢か?


「あ、あの? ロバート様?」


「はっ……! すまない。幻聴が聞こえた」


「幻聴……ですか?」


「ああ……ま、マリアが私の事を好きだと……」


「幻聴ではありませんわ。わたくし、ロバート様を愛しておりますわ」


更に、幻聴が聞こえた。好きだけでも気絶しそうなのに、愛してるだと?


これは都合のいい夢だ。間違いない。い、いやでも、マリアの匂いも、腕の感触も本物のような……。


「ゆ、夢だ……こんな都合の良い夢……」


「確かに夢のようですわ。今日はお誘い頂いて、本当にありがとうございます。ところで、今日はどこに行かれるご予定ですか?」


「……あ、今日、今日は……!」


まずい。予定は頭に叩き込んでいたのに、全て吹っ飛んだ!

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