第7話
その夜の夕食は、豪華だった。
新鮮な海の幸が、これでもかというほど、テーブルに並んだ。
この施設のライフライン全般を管理担当している山下が、釣ってきたものが、ほとんどだ。
管理担当の責任者の高橋は、仕事をサボってまで釣りに行く山下を最初あきれて見ていた。
しかし、山下の釣果を見た調理担当の中山に、頼み込まれて、許している。
「明日は島を案内しよう。と言っても自然を出来るだけ壊さない様にしているので、あまり見るところは無いがな」
「わかったわ。でも、明日も暑いのでしょう。無理しなくていいわよ」
二人で砂浜でも歩けば、あの頃に戻れるのだろうか?
翌朝、美咲の唯一の初恋は、しかし、巻き戻らなかった。
宮ノ森、野中、中山、高橋と美咲は、早朝涼しい間に建屋の外に出た。
島の案内と言っても、人が歩ける道は、あまりない。
船の碇泊してある、洞窟までの道、島に唯一ある砂浜までの道、そして釣りに熱心な山下の作った釣り場までの道の三本だ。
それ以外は川を使った水路。
舟を使える程大きくないので、水の中を歩く事になるが…。
この島の砂浜は、百メートルほどしかない。狭いが美しく白い砂だった。
緑の島と白い砂と夏の陽ざし。
忘れていた風景に、美咲の心の時間だけが、少し巻き戻った。
眼の前にいる、手に入らなかった初恋が、心にチクリと細い針を刺す。
中山の作って来たサンドイッチと、ヨーグルトドリンクで朝食を済ますと、山下の釣果をからかいに行こうと、高橋が言い出した。
いつもならとっくに大物をぶら下げて、帰って来る時間帯らしい。
サーフにいることは、事前に知らせてあるので、今朝は苦戦しているのだろう。
「ボウズか、大物過ぎて取り込めないかだね」
釣果ゼロをボウズというらしい。
宮ノ森と並んで歩く。
あの時みたいだと美咲は、思った。
浩人は、無言だった。
『やはり、心の時間が巻き戻ったのは、私だけ?』
美咲の夏は、出ることの難しい迷路らしい。
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