第3話

「浩人は、私なんかに興味ないのよね。何故、私があなたの発明を見届けなければいけないの?」


 船上の風が、潮の香りと共に身体に絡みつく。


「僕が、頼んだからさ」


 あの時……、


 雨だったあの日。

 忘れない出会いの時。


 美咲の記憶が、蘇る。


 桜の季節が駆け足で遠ざかり、美咲にとっては難関だった大学に通い始めた四月の終わり。

 突然の雨に、宮ノ森が差し出した傘。


 雨が二人を結び付けた。


 大学で会うと、お喋りをするようになり、いつの間にか周囲が公認するカップルになった。

 美咲は、そう思っていた。


 宮ノ森浩人は、いわゆるイケメンだった。

 女の子の友だちは、羨ましがった。

 

 しかし、宮ノ森は、変わっていた。

 ひと目を避け、

 お喋りも避けていた。

 いつもひとりで、肘をつき目を閉じていた。

 話すのは、いつも決まっているほんの数名。

 と、美咲。

 ちょっと変人だった。

 なおさら、傍にいないと、美咲は勘違いをしていた。

 


 変人の宮ノ森は、しかし、天才だった。

 そして、彼の才能に、光友重工が興味を示したのだ。

 それからは、彼は時間を失った。

 美咲と一緒にいる時間を。


 次々発表される成果に、彼の名前は世界を駆け巡った。


 美咲の思いは、空回りし続け、そのまま大学はつこいを卒業した。


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