第2話

 岡山の小さな港を出発したこの高速船は、軽快に波間を弾んだ。

 目的の島まで、通常の半分の時間しかかからないそれは、ほとんど揺れを感じない。

 この船のエンジンと構造にも宮ノ森の発明が関係している。


 瀬戸内の海は透明度が高い。

 船は速く、身体に受け止める風を社の制服姿の美咲が受け止める。

 もちろん、パンツスタイルだ。


「これから島に行くのに、何故制服なんだ?」


 宮ノ森は、不思議そうに訊いてきた。

 白いTシャツとデニムのズボン姿。

 いつものぼさぼさの髪が、風に吹かれて悲惨な状態になっている君に、言われたくないと美咲は思った。


 あの時、重工の研究室に呼ばれた時。

 あの部屋には、宮ノ森とふたりの男がいた。


「わが社からも実験を見届ける者を出す事にした。君は、博士と顔見知りらしいね。よろしく頼む。あの島は良い所だよ」


 その部屋には、写真でしか見たことのない重工の社長がいた。

 私は、重工の社員ではないと口に出かけたが、光友電気の社長もその場にいた。

 

「本田美咲くん。君は凄いな。わが社の顔であり、博士とも知り合いだったとは」


 電気の社長が、言った。


「博士。彼女はわが社の顔です。博士と仲が良かったとは……。彼女の初めての出張になります。よろしくお願いしますよ」


 社長の命令だ。

 この夏は、宮ノ森と一緒が決定した。


「大丈夫ですよ。美咲さんは、僕よりもタフです」


 宮ノ森浩人。

 世界的発明家。

 大気中の二酸化炭素を固定。

 電気エネルギーに変えるナノマシンの考案者。

 現在、実用化実験の進行中。


 そして……。


 現在の美咲のコンプレックスの源。


 学生時代の片想いの……。

 



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