大気発電

@ramia294

第1話

 ブン!

 

 空気を引き裂く音が、聞こえた気がした。


 画面越しにも、空気が震えた。


 夜明けには、まだ遠く。

 空気自体が光る様な、ぼんやりとした光が、漆黒の闇をかろうじて、退けている。


 背丈の高い草の生い茂るその場所は、人の目には暗くとも、彼らの視覚にはそれでもじゅうぶんらしい。


 その巨大なカマキリの鎌は、正確に振られた。


 ゴトンと頭が転がる。


 頭を落とした者には、縁もゆかりも無い。

 どこの国のどのような組織か、不明だ。    

 ただ、その中のひとりの首が一瞬で切断された事には、間違いなかった。


 違う画面では、蜘蛛の巣に捉えられ動けなくなったひとりに、その男と変わらない大きさの蜘蛛が迫っていた。

 見るに絶えない結果が、待っているだろう。


 隣のモニターには、イノシシ程もある甲虫クワガタ

 その大きな顎に捕らえられた男が映っている。


 次の瞬間!


 その男は、胴を両断され、血を吹き出し、臓物を地面にばら撒いた。


 宮ノ森は観察し、美咲は目を背けた。



 時は、遡る…。



 光共みつともグループは、この国が誇る巨大企業だ。

 グループ最大の光友重工は、まだ若い宮ノ森博士を全面的にバックアップしている。

 当然だ。

 落ち込んだ経営が、彼の数々の発明で、かつての様な世界的巨大企業に、再び伸し上がる事が出来たのだ。


 美咲は、グループ内ではあるが、光友電気の社員で、受付けだ。

 入社に対しても、特に能力を評価されたわけでは無い。

 見た目だけだろう。

 人より、少しだけ高い身長は、たしかに目立つ。

 学生時代に、華やかな時間を与えてくれた容姿は、社会人になると、お前にはそれ以外の取柄は無いと耳もとで囁き始める。


「光友電気の本田美咲です。重工の研究部門に呼ばれました」


 重工の受付け嬢は、品の良い美人だった。

 羨ましい。

 貼り付けた笑顔が、いつ崩れるのかをビクビクしながら、毎日を過ごしている美咲とは、大違いだ。


 案内された部屋には、宮ノ森浩人がいた。


 あの宮ノ森博士は、大気発電の発明者だ。


 そして、美咲の学生時代の唯一の……。





 

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