第15話

 船のある洞窟までは、快適な散歩道とは言えなかった。

 すり鉢状であるので登りばかりだ。

 この島に、二本だけある川と違って、洞窟は、波が浸食した跡だ。

 

 ぼんやり光るナノマシンの小さ過ぎる光は、足元の安全を確保してくれず、高過ぎる濃度の酸素を避けるためのマスクが、体力を奪う。


 先頭を行く野中の足どりは、慎重だ。

 全ての昆虫が、大型化しているわけではないだろうが、肉食の彼らからすれば、私たちは絶好の獲物だ。


 遠くで爆発音が、聞こえる。


 銃身の強度が耐えられなかったか、手榴弾まで使ったのかわからない。


 あの音に、虫が惹きつけられる事を期待して、ジリジリと洞窟に進む。


 前方にガサガサと無神経な音がする。

 イノシシ程もあるその姿は、カブトムシだった。

 一本の樹を恨めしそうに見ている。

 突然、登り始めた。

 ひと足事に、しなった樹が悲鳴を上げる


 多分、彼のエサ場だったのだろう。

 しかし、今の彼のサイズでは、無謀過ぎた。


 限界を超えた樹は、大きな音と共に折れ、ひっくり返った昆虫の王は、その足をジタバタさせるだけだった。


 宮ノ森が、地面とカブトムシの間に木を入れて、ひっくり返そうとしている。


「こいつなら、危険は無さそうだ。このままでは、可哀想だ」




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