第19話

 高速船が、海に出た。

 星が、美咲たちを迎えてくれた。

 夜明けまで、まだ少しあるが、海上自衛隊の船は既に来ていた。


 波が、うねりだしている。


 台風が、列島を直撃するそうだ。

 この島も嵐になる。


 酸素濃度も通常に戻るだろう。

 あの虫たちは、きっと生きていられない。


 宮ノ森なら分かっているのだろう。

 自身の失敗で、多くの生命を奪ってしまった事を。


「それでも、温暖化が、これ以上進むのは、良くないと思う」


 美咲は、宮ノ森の手を握る。


「もう少し上手く出来れば、良かった」


 珍しく弱気な言葉が、宮ノ森から出た。


 水平線に、再び光が溢れ出す。


 明日には、嵐になる。

 今日が、この島の大型昆虫たちの最後の夏だ。


「この島には、もう一度来よう。昆虫たちが、どうなったかの確認をしなければ」


「そうね。私も来るわ」


 美咲は、あのカブトムシだけでも生きていてほしいと願った。


 その頃…。


 操舵室では、生き残ったはずの野中と下川が、倒れていた。

 既に、こと切れた二人の下腹部を食い破り、ヌラヌラと長いものが現れる。


 突然変異した寄生虫だ。

 宿主を操り繁殖に利用するだけだったそれは、大きく成長するため、宿主を内側から食い散らす存在に突然変異していた。


 ヌラヌラとする粘液に包まれたそれは、焦っていた。

 粘液がその身体を護ってくれるのは、短時間だ。

 夏の強い紫外線は、その命をすぐに焼き尽くす。

 素早く、動物の身体に潜り込み隠れないといけない。


 そして、またも、宿主を食い尽くす事を繰り返す。


 自滅型の進化を遂げた寄生生物。


 次の獲物を探すそれは、前方の二体の人間に気がついた。

 刹那の生を求める彼らは、人間たちに静かに近づいていった。


        終わり

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大気発電 @ramia294

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