第9話

 血みどろの山下の死体は、頭が失われていた。

 しかし、服装やしっかり握られていた釣り竿から、山下であることは、間違いなかった。


 腹部が、食われた様に損壊している。

 たくさんのアリに、さらに解体され始めているその死体を見て高橋は、絶叫しながら、アリを追い払った。


 それにしてもおかしい。

 

 アリのサイズが、大き過ぎる。

 一匹のサイズが 15センチ程もある。

 全ての者が、疑問を持ったが興奮した高橋の行動が、疑問を置き去りにした。


 高橋は、アリを蹴り飛ばし追い払う。


「とりあえず、研究棟に運ぼう」


 宮ノ森の普段と変わらない冷静な判断。


 野中が、上半身。

 宮ノ森が、下半身を持つと運びだした。 


「美咲!戻るぞ」


 美咲は、すくんで、ただ立っているだけだった。

 宮ノ森が、声をかけなければ、生きてはいなかった。


 高橋は、周囲を見回し、山下の頭部を探し出した。


 美咲たちは、必死になって、研究棟にたどり着く。


 ドアが開き、山下の亡骸と二人が倒れ込むように入った。

 次に私が入り、高橋を迎え入れようとしたとき、彼の身体が空中に浮いた。


 見上げた彼の身体には、トンボの様な羽が生えたように見えた。

 それが、彼の羽ではないとわかったのは、大量の血が、噴き出したからだ。

 突然の血の雨は、彼の身体を捕まえた巨大トンボの爪が身体に食い込んだ結果だ。

 

 そして、食いちぎられた高橋の頭がゴトリと落ちた。

 そのトンボは、山下の頭を抱えた高橋を連れ去った。

 宮ノ森は、素早く高橋の頭を拾い、研究棟のドアは、閉じられた。

 あの時、宮ノ森が声をかけなければ、順番は変わっていた。

 巨大トンボにさらわれたのは、美咲だった。

 

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