第10話

 結局、山下の身体と高橋の頭部が残った。

 美咲は、医務室に横たわる身体と頭部を前に、恐ろしいとも気持ち悪いとも感じなかった。

 それ以前が、衝撃的過ぎた。


「あれは何?メガネウラ?なぜ石炭紀の化け物がここにいるの」

 

 あまりの衝撃に長い間、停止していたみんなの時間が動き出したとき、美咲の口から出た言葉だ。


「昔の昆虫の事は、分からないが、あれ程の大きさは、無かったはず。もちろん分かっている範囲だが」


「あんな虫がいる事を知っていたの?」


 もちろん、宮ノ森が、知るはずがない。

 知っていれば、ここには、来ないだろう。


「どうしてここに、あんな化け物が…」


 無駄な質問だと分かっていても口から出てしまう。

 気づけば、今頃になって、涙が溢れていた。



 


 下川は、医療担当でもあるので、生き残ったわたしたちをひとりずつ、診療して、全員に鎮静剤を使った。


「博士。あれは虫の様に見えたが、何故あんなに巨大なんだ?この実験の観察と関係あるのか」


 野中が、博士に質問した。


 とりあえず紅茶を胃の中に流し込む。

 薬も効いてきたのだろう。

 みんなが、落ち着き始めた。

 

「この施設の目的は、二つ。ナノマシンからの直接送電の実験。これは成功した。それからもうひとつある。こちらが主要なものだったのだが……。温室効果ガスの削減時における環境変化の観察。おそらくそれに関係している」

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