招かれざる客
オフィーリアに闇の魔力があることが発覚してから数日後の夜中。
城の敷地内の庭園にて。
「魔力のコントロールがかなり上達したな」
クリストファーはフッと微笑み、オフィーリアの頭を撫でる。
「クリストファー様が教えてくださったお陰です。ありがとうございます」
オフィーリアはふふっと微笑み、膝の上で幸せそうに眠る黒猫を撫でる。
この黒猫はクリストファーの城の庭園に住み着いているのだ。
オフィーリアはクリストファーから魔力のコントロール方法を教わり、膝の上で眠る黒猫に穏やかな夢を見せている。
「さあ、そろそろ猫を起こしてやれ」
「はい」
オフィーリアは闇の魔力を使って起こそうとしたが、ふとあることに気付いて手を止める。
「オフィーリア、どうした?」
不思議そうに首を傾げるクリストファー。オフィーリアの表情があまりにも真剣だったので、何か重大なことではないかと身構える。
「この子、先程から猫としか呼ばれていませんが、名前はないのですか?」
オフィーリアは銀色の目を丸くし、クリストファーを見つめる。
クリストファーは思わず吹き出してしまう。
「クリストファー様?」
「いや、あまりにも真剣な表情だったから、何か重大なことでも起こったのかと思ってな。それが猫の名前のこととは」
ククッと面白そうに笑うクリストファー。
「すみません……」
オフィーリアはしゅんと肩を落とす。
「いや、謝ることはない。そうだな、そいつはお前が名付けてやれ」
「いいのですか?」
オフィーリアの銀色の目が輝く。それを見たクリストファーは再び面白そうにククッと笑う。
「ああ。猫の名付け親になれることでそんなに喜ぶ奴はお前が初めてだ」
「
頬を膨らまし拗ねた様子のオフィーリア。
「すまないな」
クリストファーはフッと微笑み、そっとオフィーリアの頭を撫でる。
「この子の名前は……」
オフィーリアは膝の上で眠ふ黒猫をそっと撫で、庭の花壇に目を向ける。パンジーが咲いていた。
「パンジー。この子はパンジーです」
ふふっと微笑むオフィーリア。
「そうか、パンジーか。いい名前だ」
クリストファーもフッと微笑んだ。唇からは鋭い牙が零れる。
「さあ、パンジー、お目覚めの時間よ」
オフィーリアはパンジーの頭にそっと手を乗せる。オフィーリアの手からは神秘的な紫の光が発せられ、パンジーはゆっくりと目を覚ます。
「おはよう、パンジー。いい夢は見られたかしら?」
オフィーリアがそう聞くと、パンジーは自分の体をオフィーリアの手にすり寄せ、「にゃー」と鳴き、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「見られたみたいだな」
クリストファーは優しくフッと笑った。そしてクリストファーもパンジーに触ろうとした。しかし、パンジーは毛を逆立ててクリストファーに威嚇をする。
「あらあら」
オフィーリアは困ったように微笑む。
「こいつはここに住み着いた時から俺に懐かない」
クリストファーは苦笑した。
「クリストファー様、お取り込み中失礼いたします」
そこへイーサンがやって来た。
「クリストファー様宛にお手紙が届きました。送り主のところをご覧ください」
イーサンは少し難しそうな表情であった。手紙を受け取ったクリストファーは眉間に皺を寄せる。
「奴からか……。一体何の用だ?」
クリストファーはイーサンからペーパーナイフを受け取り、訝しげに封筒を開ける。手紙を読んだクリストファーの眉間の皺は更に深くなった。
「クリストファー様、どうかなさったのですか?」
オフィーリアは心配そうに首を傾げた。するとクリストファーは真剣そうな目付きでオフィーリアを見る。
「オフィーリア、3日後来客がある。お前にとっては危険で厄介な相手だ。だから、3日後の夜中は部屋から1歩も出るな」
(危険で厄介な相手……)
オフィーリアは不安げにビクッと肩を震わせる。
「……分かりました」
オフィーリアは静かに頷いた。クリストファーはオフィーリアを安心させるかの様に優しく頭を撫でた。
◇◇◇◇
そして3日後の真夜中。
クリストファーの城に客人がやって来た。
「久し振りだね、クリストファー」
蜂蜜色の髪に水色の目の、渋めだが見目麗しい男である。その男はイーサン程ではないが、クリストファーより10歳以上年上に見える。穏やかだが掴みどころのない雰囲気を
「ダンフォースわざわざ俺の元に出向くとは……何の用だ?」
クリストファーは冷たい表情である。
ダンフォース・アンフェール。アンフェール家はブラッドクロワ王家に次ぐ名家で、ダンフォースはアンフェール家の現当主なのだ。
「手紙に書いた通りさ」
そう笑うダンフォース。
「これからは俺と友好的な関係を築きたいって話か。馬鹿馬鹿しい。あれだけ俺を敵視しておいて今更か」
眉間に皺を寄せ、あからさまに嫌そうな表情をするクリストファー。だがダンフォースが気にした様子はない。
「クリストファー、君はディアマン王国から迎えた今回の贄姫を随分と大切にしているみたいだね」
面白そうに水色の目を細めるダンフォース。
「それが何だ」
クリストファーの声は鋭くなる。
「いや、変わったなと思ってね。以前みたいにすぐ贄姫が逃げ出すこともないから、クリストファーが変わったと噂になっているよ。……僕も変わらなければと思ってね。君がクィンシーの息子という理由だけであまりいい感情を持てずに敵視していたけれど、それももう終わらせたいんだよ」
ダンフォースはそう言うが、胡散臭い笑みである。
「馬鹿馬鹿しい」
クリストファーは呆れてそう吐き捨てる。
「まあいいさ。それじゃあ今日はこれで失礼するよ」
ダンフォースは立ち上がる。
「イーサン、こいつを玄関まで連れて行け」
不機嫌そうなクリストファー。
「承知いたしました。……ダンフォース様、玄関までお連れいたします」
部屋でずっと待機していたイーサンは、ダンフォースを案内する。
「いやあ、イーサン、悪いね」
ヘラヘラと笑うダンフォース。
「いえ……」
イーサンもダンフォースには警戒しているようだ。
(それにしても、てっきり贄姫も出て来ると思ったが……クリストファーの奴、どこかに隠しているのか。……余計気になるな。奴が気にかける贄姫が)
ダンフォースは1歩前を歩くイーサンを見てニヤリと笑う。そして壁のスコンスの付け根を狙い、魔力を放つ。ダンフォースの目は赤くなっていた。ダンフォースは水の魔力の持ち主だが、派生させて氷を作ることも出来るのだ。ダンフォースの手から放たれた氷のビームはスコンスの付け根に見事にヒットする。それにより落ちて来たスコンスは、勢いよくイーサンの頭に当たった。そしてイーサンは気を失ってしまう。
(さて、贄姫はどこにいるのかな?)
怪しげな笑みを浮かべ、ダンフォースはオフィーリアを探しに行くのであった。
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