冷遇王女オフィーリア
大陸屈指の国土を持つディアマン王国。軍事力が高く、周囲の国を圧倒している国だ。
王宮は賓客にディアマン王国の繁栄を見せつけるかの如く
しかし、王宮の敷地は広大なので全てが豪華絢爛なわけではない。
王宮からかなり離れた場所には住むにはそこそこの大きさだが粗末な屋敷があるがある。一応離宮の中の1つだ。
そこには1人の少女が暮らしていた。少女の輝きを失った銀色の目は、ぼんやりと王宮の方を見つめていた。
その時、離宮に侍女が向かって来るのが見えた。少女はゆっくりと立ち上がり、外へ向かう。
「王女殿下、お食事をお持ちいたしました。何も食べていないでしょう? 国王陛下も王妃殿下も、他の王女殿下達や他の侍女達もパーティーに夢中でございましたので、料理を失敬しても気付かれませんでした」
侍女は悪戯っぽく笑う。
「ありがとう、フィオナ。だけど、無理はしないで。それに、無理に私のことを王女殿下と呼ばなくてもいいわ」
少女は侍女フィオナに対し儚げに微笑む。
「そんな、私は好きでやっているのでございます。それに、貴女様はディアマン王国の第3王女、オフィーリア・ディアマン王女殿下でございますから。さあ、お食事の後は湯汲みの準備をいたしますね」
ふふっと優しく橙色の目を細めるフィオナ。彼女の肩くらいまで伸びた桃色の髪が揺れる。
オフィーリアの銀色の目には、少しだけ輝きが戻る。
「いつも私の為にありがとう、フィオナ」
オフィーリア・ディアマンはディアマン王国の第3王女だが、王宮で暮らすことを許されず冷遇されていた。手入れの行き届いていない紫色の燻んだ長い髪や、痩せ細り過ぎている体。とてもではないが今のオフィーリアは王女には見えない。
彼女の母レリアは、隣国アメーティスト王国の王女である。レリアとディアマン国王エドワードは政略結婚であった。結婚当初から、エドワードはレリアのことを気に入らなかった。実はエドワードには恋人がいたのだ。ディアマン王国のシャルボン公爵家の令嬢で、水の魔力を持つドロシーである。
この国では、結婚後3年間子供が出来なければ国王は側妃を迎えて良いというルールがある。エドワードは3年間わざとレリアと
オフィーリアはレリアの娘という理由だけでエドワードから見向きもされなかった。しかし、母であるレリアから愛されて、そして淑女としての教育もしっかり施された。しかしオフィーリアが8歳の時、レリアは病気で亡くなった。それにより、側妃だったドロシーが正妃となる。ドロシーはレリアを心底気に入らなかったのでオフィーリアを粗末な離宮に追いやったのだ。更にオフィーリアはその時からドロシー、ブリジット、キャロラインからことあるごとに嫌がらせを受けていた。例えば、ブリジットからの心ない言葉や、ドロシーとキャロラインの水魔法でずぶ濡れにされるなどある。
この世界には6種類の魔法がある。光、闇、炎、水、風、土、人間はいずれかの魔力を持っていることが当たり前だった。特に光や闇の魔力を持つ人間は稀である。
特にディアマン王国の貴族や王族は魔力を持つことが重要視されている。しかし、オフィーリアには魔力が全くなかった。レリアの娘、異母妹だからだけでなく、魔力が全くないという理由も加わり、オフィーリアは毎日ドロシー達から嫌がらせを受けているのであった。
魔力のないオフィーリアの味方をする者はほとんどいなかった。唯一侍女のフィオナだけはエドワードやドロシー達の目を盗んで、こうして食事や世話をしに来てくれていた。
◇◇◇◇
翌日。
オフィーリアの世話をする者はいないので、自ら洗濯物を干していた時のこと。
(これを干したら完了ね)
オフィーリアはふうっと額を拭う。
その時、干そうとしていたハンカチが飛んでいく。
オフィーリアは急いで追いかける。
「あ……」
ハンカチが飛んでいった方を見てオフィーリアは少し青ざめる。
ドロシー、ブリジット、キャロラインの3人がこちらへ向かって来ているのだ。
オフィーリアの銀の目は曇る。
「あら、そちらに向かおうと思っていたのに、まさか貴女の方からお出迎えだなんて。あの女の娘にしては中々ね」
蔑んだ笑みを浮かべるドロシー。艶やかな水色の髪に、宝石のような藍色の目。その美貌は誰もが振り返る程だが、オフィーリアへ向ける笑みからは性格の悪さが滲み出ている。
「そんな見窄らしい姿で一体何をしていたのよ?」
クスクスとオフィーリアを嘲笑うのはブリジット。手入れが行き届いたプラチナブロンドの髪に、ドロシー譲りの藍色の目の少女だ。
ブリジットの隣で同じようにオフィーリアに侮蔑的な笑みを向けているのはキャロライン。ドロシー譲りの艶やかな水色の髪に、金色の目である。
対してオフィーリアは手入れの行き届いていない紫の髪に覇気のない銀の目である。
「洗濯物を……干していたところです。そしたらハンカチが飛んでいってしまって……」
俯きながら答えるオフィーリア。
「あら、ハンカチってこれのこと?」
ブリジットは足元に落ちていたオフィーリアのハンカチを踏みつける。
「あ……!」
オフィーリアは泣きそうな表情になる。
(お母様の形見が……!)
白い布地に紫の菫が刺繍されたハンカチは無惨にもブリジットに汚される。
「あら、お姉様、面白いことをなさいますわね。だったら
キャロラインはオフィーリアが干していた洗濯物の方を向き、水魔法で洗濯物をびしょ濡れにした。
「ならば
そう言ったドロシーは水魔法をオフィーリアに向ける。
(ああ……いつものことね)
諦めたように銀の目からは光が消える。
強力な水魔法がオフィーリアを襲い、ずぶ濡れになってしまった。
ドロシー達の周りの侍女は誰もオフィーリアを庇わない。魔力を持たず冷遇された姫を庇えばドロシー達の不興を買い、自らの首が飛ぶ。オフィーリアにはそこまでのリスクを冒してまで庇う価値がなかったのだ。
オフィーリアは嵐が過ぎるのを待つように、ただひたすら耐えるのであった。
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