贄姫とヴァンパイアの王

プロローグ 人間とヴァンパイア

 --ヴァンパイア。

 人間の姿をしているが、人間の生き血を啜る怪物。人間よりも遥かにゆっくり歳を取り、総じて見目麗しい。そして人間よりも遥かに高い魔力を持つ。人間の生き血を啜るだけでなく、圧倒的な力で最も簡単に人間を支配することが出来てしまうので、人間はヴァンパイアを恐れていた。


 ある時人間はヴァンパイアへの恐怖から、彼らを殺す手段を確立してしまった。それは光の魔力を持つ聖女が魔力を込めた銀の弾丸--銀弾である。これをヴァンパイアの心臓に撃ち込むと、ヴァンパイアは途端に灰になって消滅してしまった。また、聖女の光の魔力を込めた水--聖水をヴァンパイアにかけると、銀弾と同じようにヴァンパイアは灰になり消滅した。

 光の魔力は人間の外傷を癒す効果があると同時に、ヴァンパイアを鈍らせる力もあるのだ。


 ヴァンパイアを殺す武器を手に入れた人間は、ヴァンパイアを殺し始めた。

 これに怒ったヴァンパイアは人間に反撃をする。こうして人間とヴァンパイアの間で戦争が始まってしまった。

 ヴァンパイアは人間の血を吸い尽くして失血死させるだけでなく、高い魔力で人間を圧倒した。


 光の魔力を持つ聖女は、自分が恐ろしいものを生み出してしまったことに気付き、深く後悔した。そして自らヴァンパイアの王の元へ行き、直談判をする。

『私があの恐ろしい武器を生み出してしまいました。それにより、何も悪さをしていない貴方の同胞のお命を奪ってしまったことをお詫びいたします。我々にはもう貴方達ヴァンパイアに攻撃する意思はありません。この身をもって償います。私のことは、血を吸い尽くして殺すなりどうぞ貴方様のお好きにしていただいて結構です。ですから、これ以上人間を攻撃するのをやめていただきたいのです』

 ヴァンパイアの王はこれを承諾した。

 これにより、人間とヴァンパイアは互いに攻撃しない、和平の為に各代のヴァンパイアの王に人間の女性を贈るという約束の元、両者間の激しい戦いの幕を閉じた。

 そしてヴァンパイアの王に贈られる人間の女性のことを『贄姫にえひめ』と言うようになった。


 しかし、殺し合いとまではいかなくても人間とヴァンパイアのいがみ合いは現在まで続いている。

 人間からヴァンパイアへの差別は依然として残っている。また、ヴァンパイアは己の力を知っているので下手に人間に手を出せずやきもきしていた。

 仮初の平和であった。

 そして 『贄姫』がヴァンパイアの王からどう扱われているのかは定かではない。

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