動き出した企み
ディアマン王国王宮にて。
エドワードは忌々しげに目の前にいる者に目を向ける。
「して、ヴァンパイアである汝が一体何の用だ? ダンフォース・アンフェール」
何と王宮に来ていたのはダンフォースであった。
「少しディアマン王国の国王陛下のお耳に入れたい件がございます。貴方の娘、オフィーリア様についてですが……」
「まあ、
ドロシーは心底嫌そうな顔をする。
「まあまあお母様、きっとオフィーリアは死んでいますわよ。だって相手は
キャロラインが蔑んだ目でダンフォースに目を向けながら笑う。
「
ブリジットはセンスで口元を隠し微笑む。その目は心底ヴァンパイアを蔑んでいるように見えた。
「まあそうだな。ダンフォース・アンフェール、話くらいは聞いてやろう」
上から目線のエドワード。
(人間の癖に随分と上から目線だな。我々ヴァンパイアよりも魔力が格段に低いというのに)
ダンフォースは内心エドワード達を見下しつつ、品のいい笑みを浮かべる。
「感謝いたします、国王陛下。まず、オフィーリア様のことですが、彼女は闇の魔力を持っていることが発覚しました」
「何だと?」
エドワードは目を見開く。
「闇の魔力……あの忌々しい女と同じ魔力ではありませんか」
心底嫌そうな表情のドロシー。オフィーリアの生みの母レリアを相当気に入らないようだ。
「あら、魔力なしだと思っていたのに」
「意外だわ。でもオフィーリアが魔力を持ったところで何も出来ないでしょう」
ブリジットとキャロラインは鼻で笑う。
「それで、闇の魔力を持つ人間の血を吸うことでヴァンパイアの魔力が最大限まで上がることはご存知ですよね。我らがヴァンパイアの王クリストファーが、闇の魔力を持つオフィーリア様と共にいるとなれば、人間を滅ぼすことも容易でしょう」
淡々と説明するダンフォース。
「何だと!?」
エドワードはワナワナと怒りで震え出す。周囲も騒つき始める。
「我々としても、クリストファーによる独裁が始まるのを良しとしません。そして我々は
ここでダンフォースの水色の目は赤くなり、手から大量の水が出現する。そしてダンフォースはそれを瞬時に凍らせ叩き割る。
エドワードを始め、周囲はその強大な魔力に驚愕している。
「どうか我々と協力してクリストファーの息の根を止めて欲しいのです。我々にとってもクリストファーは邪魔な存在ですし、奴は人間への脅威にもなるので」
ダンフォースはニヤリと笑う。
「そんな……!」
「……お父様、どうします?」
「何て恐ろしいことなの……!」
ドロシー、ブリジット、キャロラインの3人は真っ青だが忌々しげな表情だ。
「うむ……」
エドワードは少し冷静さを取り戻して考え込む。先程怒りに支配されたが、一時の感情には流されない。流石は為政者である。
(もうひと推しだ)
ダンフォースは心の中でほくそ笑む。
「国王陛下、我々に協力していただけるのならば、貴方の望みであるアメーティスト王国やサフィール帝国など近隣諸国を征服するお手伝いをいたします。国王陛下は大陸を支配する偉大なる存在になれますし、王妃殿下や王女殿下達もこの上ない思いが出来るでしょう」
口角を上げるダンフォース。
「良かろう」
エドワードは従者に書面を用意させた。
エドワードとダンフォース、互いの署名と血判で盟約が結ばれた。
--表面上は。
ダンフォースがディアマン王宮を去った後のこと。
「エドワード様、本当にあのような者と盟約を結んで良かったのですか? 相手はヴァンパイアですよ」
不安と蔑みが混じったような表情のドロシー。
「気にすることはない」
意味ありげに笑うエドワード。
「お父様、盟約を破るおつもりですね?」
クスッと笑うブリジット。
「破るわけではない。ただ、
「承知いたしました、お父様」
ブリジットは自信ありげに微笑んだ。
「利用し尽くしてから殲滅……流石はお父様ですわ。
楽しそうに笑うキャロラインであった。
◇◇◇◇
一方、ダンフォースはというと……。
(まあ、これでいい。ひとまず盟約まで漕ぎ着けた。だが、奴らは我々を利用し尽くして裏切るのだろうな。魂胆は見え透いている)
フッと笑うダンフォース。エドワード達の企みには気付いているようだ。
(だがそれは我々も同じ。奴らを利用し尽くし、クリストファーを殺した末に人間を征服し、我々ヴァンパイアが支配する世界を作り上げるのが目的だ。互いに手を組むのは表面上のみ。腹の底では互いに寝首を掻こうとしている)
呆れたように軽くため息をつくダンフォース。
「まあ、せいぜい我々を殲滅する夢でも見ておくといいさ」
ダンフォースは余裕そうに微笑んだ。そして次の瞬間、憎しみに満ちた表情に変わる。
「ジュリアナの
嘘つき同士の盟約により、それぞれの企みは動き始めた。
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