利用されただけ

 ディアマン王国王宮にて。


《ヴァンパイアの王クリストファー及び闇の魔力を持つ危険因子オフィーリアを消し去る準備をせよ! まずはオフィーリアを連れ去り王宮に監禁してクリストファーをおびき出せ!》


 エドワードからこのような命が出されたのだ。

(大変なことになったわ……! オフィーリア殿下……!)

 フィオナはそれを知り青ざめた。

(騎士達はもう準備始めている……! 私は一介の侍女に過ぎない。今私が王宮から消えたところで……多分誰にも気付かれないはず……! ヴァンパイアの王の城の場所も……何となく分かる……!)

 フィオナは意を決して行動に移す。目立たない地味な服に着替え、密かに王宮を飛び出したのだ。

 何者かにつけられていることに気付かずに。






◇◇◇◇






(今何時かしら?)

 オフィーリアは自室でゆっくりと目を覚ます。城全体の日当たりが悪いので、部屋は薄暗く時間を予想出来ない。

(もう昼間なのね)

 時計を見てぼんやりする頭を覚醒させるオフィーリア。

 なるべくクリストファーと過ごす時間を確保する為、夜遅くまで起きているようになったオフィーリア。その分起床時間もお昼頃までずれ込むのだ。

 クリストファーとイーサンはまだ就寝時間なので、自分で着替えて準備をするオフィーリア。

(クリストファー様が起きるまで庭園の散歩をしようかしら)

 朝食を終えたオフィーリアは庭園に向かう。


「おはよう、と言ってももうお昼ね、パンジー」

 オフィーリアは庭園にいた黒猫のパンジーを優しく撫でる。柔らかな毛並みである。パンジーもオフィーリアに撫でられて気持ち良さそうだ。そしてごろんと寝転がりオフィーリアにお腹を見せるパンジー。

「あら、そこを撫でて欲しいのかしら?」

 オフィーリアはふふっと柔らかく微笑み、パンジーのお腹を撫でる。「にゃー」と鳴いた後、ゴロゴロと喉を鳴らすパンジーは、満足気に笑っているように見えた。

 その時、パンジーは何かを感じ取りパッと起き上がる。

「パンジー?」

 きょとんとするオフィーリア。

 パンジーは「うみゃー」と低い声を出し、何かを警戒し毛並みを逆立てている。

「どうしたのかしら?」

 オフィーリアは不思議そうにパンジーが警戒する方向を見る。

 すると、ある人物が急ぎ足で来ているのが見えた。肩まで伸びた桃色の髪に橙色の目の女性である。

(あれは……まさかフィオナ!?)

 オフィーリアは銀色の目を見開く。

「パンジー、あの人なら大丈夫よ」

 オフィーリアはそっとパンジーを撫で、フィオナの元へ向かう。

「フィオナ! どうしてここに?」

「オフィーリア殿下……! 大変です!」

 フィオナは息を切らしている。

「落ち着いて、フィオナ」

 オフィーリアはフィオナの背中をさする。

「一体どうしてここに来たの? 王宮はどうしたの?」

「それが……国王陛下がオフィーリア殿下とヴァンパイアの王であられるクリストファー様を消し去ろうとしています。どうか今すぐお逃げください」

 必死なフィオナである。

「フィオナ、それを伝えにわざわざここまで来てくれたのね。ありがとう。クリストファー様にもお知らせしないと」

 オフィーリアが急いでクリストファーの元へ向かおうとした瞬間、それを邪魔するかのように凄まじい風が起こる。

「きゃっ」

「殿下!」

 飛ばされそうになったオフィーリアの手をフィオナが掴む。

 そして風が止んだ時、2人は驚愕する。

 何とディアマン王国の騎士達に包囲されていたのだ。

 先程の強風は風の魔力を持つ騎士によるものだった。

「ご苦労だったな、フィオナ。お前の後をつけていたんだ」

「お前が密かにオフィーリア王女の世話をしていたのは知っている。今回の国王陛下の命を知ったら絶対にお前はここに行くと思ったからな」

 騎士達は不敵に笑う。

「そんな……オフィーリア殿下、申し訳ございません」

 フィオナはヘタリと力なく膝から崩れ落ちる。

「フィオナ、貴女のせいではないわ。貴女は私に危険を知らせに来てくれただけよ」

 オフィーリアはフィオナにふわりと微笑みかける。

 すると再び騎士が風の魔力を使い強風を繰り出す。

「きゃっ!」

「オフィーリア殿下!」

 その隙にオフィーリアは騎士に後頭部を攻撃されて気を失ってしまう。更に魔封じの腕輪をつけられ、騎士達に連行されてしまった。魔封じの腕輪をつけられたら魔力が使えなくなってしまうのだ。

「オフィーリア殿下!」

 1人残されたフィオナはどうすることも出来なかった。

「何事だ!?」

 そこへクリストファーが駆けつける。

「おい、貴様は何者だ!? 一体何があった!?」

 クリストファーはフィオナに詰め寄る。フィオナは一瞬肩を震わせるが、冷静さを取り戻す。

「ディアマン王国の王宮で侍女をしております、フィオナと申します」

「フィオナ……密かにオフィーリアの世話をしていた者だな」

 クリストファーはオフィーリアに関する調査資料でフィオナのことも把握していた。

「貴方がクリストファー様ですね。申し訳ございません、私のせいでオフィーリア様が……!」

 悲痛そうな表情のフィオナ。

「一体何があったんだ?」

 クリストファーは少し落ち着きを取り戻し、フィオナにそう問う。

 フィオナはエドワードから出された命と先程起こったことを全て話した。

「ディアマン王国の王族は本当に腐っているな。でも、何故なぜオフィーリアに闇の魔力があると分かった?」

 クリストファーはここでハッとする。ダンフォースがやって来た時のことを思い出した。


『クリストファー様を傷付けようとするのは許しません』


(やはりダンフォースか。オフィーリアがダンフォースの手を振り払った時、奴は彼女の闇の魔力を感じ取ったのだろう。まさかディアマン王国に出向くとは)

 クリストファーは忌々しげに眉間に皺を寄せる。

「クリストファー様! 一体何があったのです!?」

 そこへイーサンもやって来た。

「ああ、イーサン、オフィーリアが連れ去られた」

「そんな……オフィーリア様が……!」

 イーサンは緑色の目を見開き驚愕する。

「今からディアマン王国へオフィーリアを奪還しに行く。アメーティスト王国とサフィール帝国にも連絡を頼む。、頃合いだ」

「承知いたしました」

 イーサンは急いで言われた件に取り掛かる。

「フィオナ、ディアマンの王宮に案内しろ」

「承知しました」

 クリストファーはフィオナと共にオフィーリアを救いに向かうのであった。

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