オフィーリアの血の力
オフィーリアとクリストファーは水から上がり、ドロシー達3人と対峙していた。
「貴様ら……よくもオフィーリアをこんな目に遭わせたな……!」
拳をきつく握るクリストファー。低く冷たい声は怒りで震えている。
「け、穢らわしい獣! ブリジット、やってしまいなさい!」
「ええ、お母様」
ブリジットは隠し持っていた小型の銃をクリストファーに向け、発砲する。
「クリストファー様!」
オフィーリアはクリストファーの前に出て庇おうとするが、彼に止められる。そしてクリストファーは涼しい顔で弾を掴んでいた。
「なるほど、銀弾か。光の魔力を込めたのはお前だな。だが……こんな弱い光の魔力では俺を殺すのは不可能だ」
フッと嘲笑うクリストファー。
「この化け物!」
ドロシーがクリストファーに詰め寄ろうとしたが、その瞬間彼女は気を失ってしまう。
「クリストファー様に手を出さないで」
何とオフィーリアが闇の魔力でドロシーを眠らせたのだ。そして同じようにブリジットとキャロラインも眠らせる。
「オフィーリア……」
クリストファーは驚いている。
「魔力で人を傷付けたくはなかったのですが……この方々の言動は目に余りますので」
オフィーリアは苦笑した。
「それに、こんな取るに足りない方々の為に怒るのも時間の無駄ですよ」
軽くため息をつくオフィーリア。
「オフィーリア、中々言うようになったな。というか、色々吹っ切れたんだな」
クリストファーはフッと面白そうに笑った。
「そうかもしれません」
オフィーリアは柔らかく微笑む。
「先程の魔力の使い方は人を傷付けたことにはならないから安心しろ」
クリストファーは優しくオフィーリアの頭を撫でた。
「……ありがとうございます」
オフィーリアは少しだけホッとしたように微笑んだ。
その時、外からドーンと大きな音がする。
2人は顔を見合わせ頷き、外へ出ることにした。
もう夕暮れを迎えていた。空は血のように真っ赤に染まっている。そして真っ赤に染まっているのは空だけではない。ディアマン王宮全体が血に染まっていた。
「これは……どういう……ことですか?」
オフィーリアは目の前の惨劇に声が震える。
「……ディアマン王国側と過激派ヴァンパイア側がもう制御出来なくなったんだな」
クリストファーは眉を顰める。
ディアマン王国による理不尽な軍事圧力からの解放の為、アメーティスト王国とサフィール帝国の軍。彼らはディアマン王国の王族や軍、過激派ヴァンパイアには容赦なく攻撃をしている。しかし、無関係な民には全く危害を加えていないから問題はない。
むしろ、過激派ヴァンパイアが敵味方関係なく人間を襲い始めたり、ディアマン王国軍がヴァンパイアを無差別に攻撃しているのが問題であった。カオスな状況である。
「止めないと……」
「ああ、だがこんな大規模になると……俺とオフィーリアの魔力だけでは難しい……」
クリストファーは眉間に皺を寄せ、渋い顔をしている。
その時、ハッとオフィーリアはあることを思い出す。
「でしたらクリストファー様、私の血を吸ってください! 闇の魔力を持つ私の血ならば、クリストファー様の魔力を最大限に引き上げることが出来ます!」
「オフィーリア……だが、お前は魔力で誰かを傷付けて欲しくないと言っていたのではないか?」
少し心配そうなクリストファー。
「はい……。ですが、今の状況だとなりふり構っていられません。多くの血が流れています。魔力を使う以外でこの惨劇を止める方法は……私には思いつかなくて……」
力なく笑うオフィーリア。
「そうか。……確かに、この状態では魔力で無理矢理収束させるしか方法はないな。オフィーリア……いいか?」
クリストファーの金色の目は真っ直ぐオフィーリアを見つめている。
「……はい、クリストファー様」
オフィーリアは少し緊張気味に頷く。するとクリストファーはオフィーリアを抱き締めた。
ゆっくりとクリストファーの顔がオフィーリアの首筋に近付く。ハアッと首筋にかかるクリストファーの吐息にオフィーリアはピクリと肩を震わせる。そして首筋にクリストファーの舌が這ったと思った瞬間、ブツリと牙が立てられる。
(首筋が……熱い……)
思わず目を瞑るオフィーリア。そしてクリストファーの頭をそっと撫でる。
王宮は戦場と化し轟くような音が響いていたが、2人の周りだけ音がなくなったようである。まるで世界から切り離された感覚だ。
クリストファーの顔が、ゆっくりとオフィーリアの首筋から離れる。一旦どれだけ時間が経ったのだろう? 一瞬のようにも、永遠のようにも感じられた。
クリストファーはオフィーリアの血に染まった口元を腕で拭う。それと同時に、赤く染まっていた目が、スッと金色に戻る。
「甘美だな。オフィーリアの血は」
低く甘い声のクリストファー。
「そう……ですか」
クリストファー言葉に、オフィーリアの頬が赤く染まる。
クリストファーは着ていた白いシャツの袖を破り、オフィーリアの首が締まらない程度に巻き付けた。
「すまない、思ったより深く噛んでしまった。応急処置だが止血をしておく。傷はアメーティスト王国かサフィール帝国の聖女に治癒してもらえ」
「ありがとうございます。……行きましょう」
2人は惨劇が繰り広げられている場所へ向かった。
この惨劇を収束させようとしているアメーティスト王国軍とサフィール帝国軍及び、穏健派のヴァンパイア達。彼らの力でも、中々抑えることが出来ず皆消耗するばかりであった。
「アメーティスト王国及びサフィール帝国の者達、そして穏健派諸君、ここまでよくやってくれた! 後は俺達に任せてくれ!」
クリストファーは彼らにそう指示し、一旦引かせた。誰もが聴き入るクリストファーの言葉。まさにヴァンパイアの王としてのカリスマ性が
「オフィーリア、出来るか?」
「ええ。魔力のコントロール方法はクリストファー様から教わりましたから」
オフィーリアは力強く微笑み、ディアマン王国軍と過激派ヴァンパイア達の方は手を向ける。神秘的な紫色の光がオフィーリアの手から発せられ、徐々に大きくなっていく。光を浴びた者達は次第に倒れて眠りについた。
眠りについたディアマン王国軍、そして過激派ヴァンパイア達が半分くらいになった頃、オフィーリアの体がぐらりと揺れる。倒れるオフィーリアをクリストファーが支えた。
「申し訳……ございません……。クリストファー……様」
「いや、気にするな。オフィーリア、よくやった。一気に魔力を使ったせいで体力を消耗してしまったんだ。後は俺に任せておけ」
クリストファーは金色の目を優しく細めた。
「ありがとう……ございます……」
クリストファーに抱き締められながら、オフィーリアは意識を手放した。
「さて、残りは俺が相手だ」
クリストファーの目が赤く光り、手からはいつもよりも桁違いな程の炎が発せられる。闇の魔力を持つオフィーリアの血を飲んだことで、クリストファーの魔力は最大限まで上がっていた。
全てを焼き尽くすような炎が惨劇の戦場を包み込む。
「おのれ……クリストファー!」
炎の中、ダンフォースはクリストファーに襲いかかる。しかしクリストファーは涼しい顔でそれを避けた。
「喜べ、ダンフォース。ジュリアナと同じ方法で貴様をこの世から消し去ってやる」
底冷えする声のクリストファー。自身の魔力でダンフォースを炎で包む。ダンフォースは水の魔力で抵抗したが、魔力が最大限に上がっているクリストファーには敵わなかった。クリストファーはダンフォースを生きたまま燃やし尽くす。そして隠し持っていた銀弾をダンフォースの頭に撃ち込むのであった。こうして、ダンフォースは呆気なく灰になり、この世から消え去るのであった。
そしてクリストファーは銀弾で他の過激派ヴァンパイアも一掃するのであった。
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