第10話 懐ほくほくですぅ
「ゴブリンの魔石が二十個、ゴブリンライダーの魔石が八個、オークの魔石が三個、ボスオークの魔石が一個ですねぇ。全部で三万チョムですぅ」
部屋を追い出された後、換金窓口を訪れた。今日の目的はギルド長への報告と、ダンジョンから持ち帰った魔石の換金である。
本来は、メニュー内のカバンから魔具へと移すだけの簡単な作業だが、僕の場合は担当ノームに一つ一つ鑑定してもらう必要がある。魔具は送受信は出来るが、直接取り込むことは出来ないのだとか。
持ち運べる数やサイズに限りがあるのと、手間をかけさせている申し訳なさがあるため、半年の活動の中でもあまり換金数は多くない。陽葵と活動できる時は別なんだけど。
「そんなものなんですね……」
今回は初のダンジョンモンスターということで多少の期待を込めての換金依頼だった。
呼称はチョムという変わった名前だが、お金の価値としては日本円とイコールな感覚である。つまり、一日かけたダンジョン攻略の報酬が三万円ということになる。
低ランクのクエスト報酬が数千チョム、自分が現時点で受けられる報酬のMAXが五万チョム(クリア報酬のみ)なのを思うと、一日命がけだった割に……な金額である。
チュートリアルはあくまでも僕だけのものらしく、「ダンジョン攻略」というクエストはギルドに存在しない。今回の収入は魔石の換金分だけで終了である。
ちなみに、初級ダンジョン以外は全てが未攻略で、時折【このダンジョンを攻略したら高額報酬!】といった依頼が出ることもあるらしい。だいたい好奇心旺盛なお金持ちが依頼主だが、挑戦する冒険者はいないに等しいと聞く。
「初級ダンジョンのモンスターは角付ですし、皆さんがクリアされていますからねぇ。価値はあまり高くないんですぅ。それでも、太陽さんが今まで換金された魔石よりはお高いですよぉ」
下がり眉を更に下げながら、申し訳なさそうに説明してくれる。鑑定用のモノクルと語尾が特徴的なノームで、伸びがちな語尾は討伐後の毒気を抜いてくれる。
「角付とそうじゃないのはそんなに違うんですか」
「角付は魔女様の制御下にあるため、通常モンスターと比較すると格段に保有魔力が落ちるんですぅ。その分倒しやすくはあるんですが……。魔石以外の素材であれば利用方法は幅広いので、まとまった量があれば懐ほくほくですぅ」
なるほど。この国の魔石の主な使い道は、魔具強化や魔力使用時の補助。店で初心者用として安く売られているのが角付の魔石仕様なのか。
「そうなんですね。知らないことばかりで……」
「初級ダンジョンを攻略するまではFランク以下しか討伐許可されてないですしぃ、太陽さんはご事情がありますからぁ。私はいつでも暇なので、遠慮なく聞いてくださいねぇ」
通常モンスターはEランクからと言うのも初めて聞いた。陽葵もギルド長も、もうちょっと細かく教えてくれてもいいのでは、と思ってしまう。
「ありがとうございます。今度はEランクのモンスター倒して高い魔石を持ってきますね!」
「はい~お待ちしておりますぅ」
「あ、後これ、良かったら食べてください」
腰のポーチから飴を一粒取り出して、そっとカウンターに置く。ノームは甘い物好きが多いと聞いてから、お世話になる度にお礼として渡している。気を使うというよりも、渡した時の笑顔に癒されたいというのが大きい。
「わぁ、いつもありがとうございますぅ!」
嬉しい時にも下がる眉に癒されつつ、ギルドを後にした。
「何にしよう……」
ショッピングモールを彷徨うこと数十分。施設の皆へのお土産に悩んでいた。
期待していた額にはならなかったが、ダンジョン攻略で得たチョムの使い道は決めているのだ。
こちらの世界に来てから半年。右も左も分からない、素性も知れない人間を受け入れてくれた人たちにお礼がしたい。そう思い訪れたけれど、モール内にお店がありすぎて絞り込めずにいた。
日常生活を全面サポートしてくれているおかみさん。
いつでも家族同然に接してくれる子供たち。
出会った時から助け続けてくれている陽葵。
唯一無二の心強い相棒の先輩。
一人一人の喜ぶ顔を思い描きながら、気になるお店を一軒一軒回ってみる。自分で持ち帰ることができる物、というのも考慮しなければならない。
日本でいうところの家電に当たる魔具を眺めつつ、陽葵ならカバンに仕舞わなくても余裕だろうなぁと諦める。
【クエストクリア】
報酬:ショップコイン五十枚
途中のお会計終了時、クエストクリアのポップアップが表示された。今回の買い物は、唯一未達成だったチュートリアルクエストを達成するのも目的だった。
【二十万チョム分の買い物をする】という内容だ。
累計のため、買い物前の残りは三万と少しだった。
ポップアップを消すと、自動でメニューが起動し、お知らせ欄に【チュートリアル完了】と【ショップ開放】の文字が見えた。並ぶアイコンを見てみると、長らく灰色だったお店マークのアイコンに色が付いている。
「ついにコインが使えるんだ!」
陽葵たちのメニューにはないアイコンのため、解放条件も知りようがなくもやもやしていた。受け取るだけだったコインが使えることと、少しでもこの世界の情報が手に入るかもという期待で胸が躍る。
「あー、すぐ見たいけど……」
メニューの時計を確認するとあまり余裕がないことが分かる。まだ半分程度しか購入できていないため、確認は帰宅後まで我慢しよう。
既に抱えている沢山の包みを落とさないよう気を付けながら、足早に店巡りを続けた。
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