第16話 正体は誰なのか
キシは朝起きた後も気になっていた。
豹変していたレイが言っていたこと、『わたしのやりたいことをする』、『私を知ったらどうなるか』、そして『あと2年』という奇妙なキーワードらしき言葉だ。
キシは、恐らくレイではない何者かがレイの体を乗っ取り、これらの発言をしたのではないかと考えた。
口調はいつものレイと似ており、その何者かも偶然レイと同じ口調だった可能性もある。
「レイには、何かががあるのかもな……」
「ね、ねぇキシ? その……この状況はなに……?」
「――――! レ、レイ!? 何でここに!?」
布団を被りながらずっと考え込んでいたため、レイが自分と同じベットで寝ていたことに全く気づかなかった。
昨日彼女のベットに寝かせてあげたはずなのに、気づけばレイはキシの部屋に入り込み、そしてキシのベットに潜り込んでそのまま寝てしまっていたのだ。
「あ、ごめん!すぐ退けるからな」
「あ、いや……。もうちょっといて欲しい、かも……」
「そ、そうか……」
レイにそう言われ、キシはもう少しだけこのままベットの上で寝転がることにした。
体勢を変えて仰向けになり、頭の下に両手を乗せた。
そして、キシは初めてレイが自分の背中側で寝ていたことを知った。
「わたし、何でキシのベットに入っちゃったんだろう……」
「さあ? レイの部屋と俺の部屋を間違えたのかもな」
「そう、なのかな……」
少しだけ恥ずかしそうにしながらキシに話しかけるレイ。
しかし、彼女の顔が少しだけ曇り始めた。
「――――もしかして、わたしに何かあったの?」
「――――いや」
レイにそう言われキシは躊躇し、否定した。
しかしちらっと見ると、レイはキシの横顔を見つめたままだった。
「――――話して欲しいか?」
レイは小さく頷いた。
しかしあまり良い顔をしておらず、不安だらけの表情をしている。
キシはまた体勢を変え、今度はレイの正面を向いた。
「この前、レイは自分の過去を知りたいけど怖いって言ってたよな?」
「――――うん」
「夜にあったことを話すのは良いんだけど……正直これから話すのは俺も怖い出来事だった。それでも聞きたいか? 嫌なら話すのはやめる」
「ううん、わたしも気になるから教えてほしい」
「そうか、じゃあ話す。もしこれ以上はダメだってなったら教えてくれ。すぐに話すの止めるから」
「うん、分かった」
レイは真剣な顔になった。
ただ、まだ怖いのか体が微かに震えている。
「実はな、夜にレイがまたおかしくなってしまっていたんだ」
「――――!?」
レイの表情が一気に曇った。
「まぁそんな反応をすると思ったよ。レイは何者かに取り憑かれていたんだ。俺が真夜中にトイレに行った後部屋に戻ろうとした時に、突然レイは俺の目の前に現れた。それまでは全く気配とか分からなかった。んで、相変わらず不気味な笑いをしてた。まあ、そんな感じで突然なのは前回と同じだ。だけど、違うところは言葉を話していたところだな」
「喋ってたの?」
「ああ、俺が試しに話しかけたんだ。そしたら応えてくれた。話してる感じはいつものレイと同じ喋り方だったけど言葉一つ一つに圧迫感がある感じだな。話しかけられるたびに体が重くなるって言う感じ」
「そ、そうなんだ……。ごめんね、全然記憶にない……」
「大丈夫だ、だからこうやって詳しく教えてる。そして、俺がすごい気になるキーワードを言い残して、レイは気を失ったんだ」
「キーワード?」
「そう」
キシは分かりやすくするために、4の指を出した。
そして1つずつ指を折り曲げて説明する。
その度に、レイの視線が一瞬だけキシの手の方を向いた。
「そのキーワードは4つある。ただ、この中で4つ目が一番謎だ。1つ目が『わたしのやりたいことをしたい』、2つ目が『わたしを知ったらどうなるかな?』、そして3つ目が『あと2年……楽しみ』だ」
「えっ……。どういうこと……?」
自分で言っているはずなのに全く分からない、意味深な言葉に恐怖に怯えるレイ。
残ったキシの4つ目の指、小指が何故か恐ろしく見えた。
「俺だってよく分からん。記憶を失っているところを思い出した時が一番やばいことになるんじゃないかっていうのが俺の予想だ。そしてそれが起こるのが2年後何じゃないか?」
「――――」
レイは黙り込んでしまった。
レイは過去を知って、本当の自分は何者なのかを探りたい。
しかし、あまりにも恐ろしすぎる。
もし自分のせいで他の周りの人を巻き込んでしまったら……?
ビジョンが見えただけで怯え、体を大きく震わせた。
小さな体に、とてつもなく大きくて重いものが彼女に襲いかかる。
「だけど安心してくれ、レイ。俺はレイにどんなことがあっても絶対に解決してあげるからな!」
「そ、そんなこと言われたって……」
「大丈夫だって! 自分で言うのもあれだけど、俺って結構強いからさ。その強さはレイが一番知ってるだろ?」
「――――!」
レイの恐怖心は、キシが放った言葉で一瞬にして吹き飛んだ。
今までは何でも自分で解決しなければいけないと思っていた。
確かにアースィマが近くにいたが、年がだいぶ離れているため相談しづらいことも多い。
しかし、今回は違う。
自分とそれほど年が離れていない少年がいる。
そして、その少年は青鬼という強い武器を持ち、レイのことを優先的に解決してくれる。
「――――うぅ……ふぇええええん!」
「え、レイ!? どうしちゃったんだ急に泣いて……」
キシの言葉に安心した途端、何故か自然と涙が溢れてきてしまった。
レイはキシに抱きつき、そして大声で泣いた。
キシは最初は驚いていたが、そっと彼女の頭を撫で、そして背中を優しくポンポンと叩いた。
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