第7話 少女の魔法
「ちょっと待ってくれ! その魔法を覚えるのはどう見ても難しそうだし、それ以前の問題で魔力を結構消費しそうだし、それ以前に俺は魔力がほぼ無いし、絶対に出来ないし、そんなことより普通の人なら俺の魔力感知しないはずなのにこの子は感知してるし――――」
「キ、キシが変になっちゃった……」
衝撃的なことを言われ、あたふたするキシ。
キシが動揺するのも無理のないことである。
レイの除霊の魔法を見たキシは、まず出来るはずがないと思った。
あんな魔法陣を見せつけられたら、口も開いたままになる。
さらに普通なら絶対にキシの魔力は感知されない。
キシの魔力があまりにも少ないため、「お前、魔力全く無いじゃないか」と笑われるのが一般的な反応のはずである。
しかし、レイの場合は当たり前のようにキシの魔力を感知した。
それが異常でしかなかった。
「キシ! 戻ってきて!」
「はっ! す、すまん今戻ってきた!」
「とにかく、キシにはこの仕事を手伝ってもらいたいの。さっき見てもらった通り、この仕事は魔力をかなり消耗するから、1人だけではかなり疲れるの」
「つまり俺もこの作業に参加して、レイの負担を減らす、ということだな?」
「そういうこと」
「了解。でも、魔力がほとんどない俺にこんなこと出来るのか?」
「キシは鬼の力を持ってるよね?」
「おう、もちろん」
「私が感知したものだと体内の魔力の膨張と暴走化、そして大気中のマナを食らいつくように吸収してるよね? えっと……もしかして、間違ってる?」
「――――その通りでございます」
「なら、それを使えばいいの」
「なるほど……。鬼化していれば、魔力の少ない俺でもそれで補えるってことか」
「たぶん、わたしの予想が間違っていなければ」
本当に頭の良い少女である。
いや、それもそうだが、とにかく知識がすごい。
魔法の応用もこんなにサラッと提案できることにキシは感心していた。
「今日はこれであがって、明日試してみよう」
「そうだな。じゃあ、帰ろうか」
「あの〜、実はわたし……今歩けないの……」
「――――へ?」
「魔力、使い果たしちゃった」
「……おぶろうか?」
「うん、お願いします……」
「上半身だけ起こすこと……も無理か。ちょっと待っててな」
キシはレイの体を起こし、レイの腕を自分の肩に乗せた。
そして、上手くレイの太ももの裏に腕を回すと、レイをおんぶする。
「よいしょっと! 変な感じはないか?」
「うん、じゃあお願いします」
「ああ、それは良いんだけど……レイってどこに住んでる?」
「えっとね、アパートなんだよね」
「そっかそっか! すいませんが道が分からないので道案内お願いできますか?」
「あ、分かりました!」
キシはレイを背中に乗せながら、彼女の道案内にそって歩いていった。
そしてキシにおぶられているレイは……何故か安心感があった。
◇◇◇
1時間後……レイが暮らしているアパートへ着いた。
アパートと言っても、現代のような頑丈で何階もあるような巨大なものではない。
石造りで小さく2階建てで、10人弱しか住めないようなところだ。
しかし、この世界では2階建てというものが珍しく、十分に大きい。
レイが今住んでいるアパートは、まあまあ年季の入っていて素朴で趣のあるアパートだった。
「レイ、着いたぞ……あれ?」
レイの返事がない。
キシが後ろを振り向くと、レイはすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。
「そっか、あれだけ魔力を消費しちゃったから、おぶってる間にそのまま寝ちゃった感じか」
あれだけ頭が良くて才能があっても、やはりそこは幼い少女だった。
愛らしい顔で寝ているのを見て、キシは仕方がないなぁと思いながら、アパートの中へ入った。
中には誰もいない。
しかし、小さなカウンターのようなものがあった。
「大家さんでもいるのかな。ごめんくださーい!」
「はーい!」
試しに呼んでみると、奥から女性の声がした。
そして出てきたのは、緑色の髪をしたスタイルの良い女性だった。
「突然すいません、この子、レイを運びに来ました」
「あらレイちゃんじゃないの!どうかしたんですか!?」
女性はキシの後ろでおぶられて寝ているレイを見つけると、すぐに顔を真っ青にして慌て始める。
「レ、レイちゃんに何かあったんですか!?」
「実は……」
キシはこれまでの経緯を話した。
今日あの平原でレイと出会い、彼女の趣味に付き合ってあげたこと。
そして、レイが魔力を完全に消耗して動けなくなり、自分が彼女をおぶっている間にいつの間にか寝てしまっていたこと……。
「なるほど、あなたがレイちゃんを助けてくれたのですね。深く感謝いたします、ありがとうございます!」
「いやいや、俺の意志でやったことなので……あっ、頭をあげてください!」
経緯を聞いて納得した女性は深々と頭を下げる。
キシは慌てて手を横に振った。
絶対に怪しまれると思っていたが、まさか逆に感謝されるとは思ってもいなかった。
「さすがに何もしないというのは……そうだ! 夜ご飯は済ませていますか?」
「いいえ、まだ何も食べてないです」
「なら、うちで食べていきます?」
「えっ、良いんですか!?」
「えぇ、遠慮なくどうぞ! あ、その前にレイちゃんをベットに。わたしが今案内しますので」
断っても逆効果だと思ったキシは、夕食を済ませることにした。
その前に、キシは女性の後について行って2階に上がり、レイの部屋の中に入った。
そして、まだ寝ているレイをそっとベットに寝かせた。
「そういえば、まだ私の名前をお伝えしていませんでしたね。わたしの名前はディアス・アースィマと申します。よろしくお願いします」
「俺はカゲヤマ・キシと言います。こちらこそ、よろしくお願いします。ディアスさん」
お互いに挨拶を交わすキシとアースィマ。
ちょっとだけ話をしながら、2人は再び1階へ移動して玄関横にある食堂へ向かった。
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