第14話 カップルは似た者同士、だと思う

 この後しばらく話をしながら、風呂から上がってきたキシとオーウェル。

長話をしすぎて、少しだけのぼせてしまった。

ぼーっとする頭のせいでふらふらする体に耐えながら、2人は玄関前にあるラウンジの椅子に腰を降ろした。


「あ、キシ!」


「お、レイか」


「あ、お風呂入ったの?」


「ああ、さっきな。レイも風呂入ってたのか?」


「うん!」


隣のテーブルの椅子に座っていたレイはキシを見つけると、すぐに駆け寄って来てキシの隣の椅子に座った。

彼女の行動にキシは思わず父親の目線になってしまい、可愛いと思った。

 オーウェルはそんな彼の顔を覗き込んだ。


「――――」


「どうした? 俺の顔になんか付いてるのか?」


「アースィマから聞いてたんだが……本当に2人は仲が良いんだな」


「いや、ニヤニヤしながら言わないでくれよ……。表情がアースィマさんそっくりなんだよな――――ってなんでアースィマさんの名前が?」


 キシはやれやれと呆れていたが、アースィマの名前を親しそうに呼んでいることに疑問を覚えた。

それに対して、レイは顔を赤くして目を逸した。

そこにもう一人の人物が、レイの後ろに忍び寄る。


「レイ、ちゃんっ!」


「ひゃあ!?」


 レイの両肩にポンッと誰かの手が乗った瞬間、レイは驚いて体を飛び上がらせた。

後ろを振り向くと、そこにはアースィマがいた。


「ア、アースィマさん、レイがめっちゃ驚いてますけど……。また怒られちゃいますよ?」


「大丈夫よ! レイちゃん可愛すぎるからついついやっちゃうのよ。ね〜、レイちゃん」


「う、うん。ほぼ毎日されてるから、慣れちゃってた。あはは……」


「言わされてる感あるような気がするのは気のせいか?」


 レイは本当に嬉しいのか、それとも嬉しくないのか良く分からないキシだった。

しかし、別に嫌がっている表情はないようにも見えた気がした。


「相変わらずレイちゃんが好きだなよなぁ」


「だって本当に可愛いんだもの。自分の娘みたいな感じよ」


「そう言えば、オーウェルとアースィマさんって仲が良さそうな感じがあるんですけど……」


「ああ、だって俺はここの住人だからな」


「えっ!? そうなのか!?」


「そうなの、もうここに来て3年くらい経ってるかしら。最近まで本当に困った人だったのよ……。ね、オーウェル、さん?」


「あ、はいぃ……。ものすごく反省しております……。もう二度としません!」


(アースィマさんって意外と最強人物なのか……?)


 少しだけ恐怖を覚えるキシだった。

その証拠に、オーウェルはアースィマに怯え気味になりながら、深々と何回も頭を下げていた。


「そうそうオーウェルさん、この前レイちゃんがね、キシさんの部屋に来てたのよ!」


「ふぇっ!?」


「なに? そうなのか?」


「アースィマさん! ほら、レイが困ってるじゃないですか!」


「うふふ」


「いや、うふふじゃなくて! ほ、ほらレイも何か反論してくれ……」


「――――」


「なんでそっぽを向くんだ! お願いだ、頼むって! 俺たぶん殺されると思うんだ。だから助けてほしいなぁ〜」


「――――」


 レイは知らないとでも言うように、その場を後にして自分の部屋に行ってしまった。

キシはレイに手を伸ばすが、その手も虚しく……。


「キシさん、色々と聞かせてくれませんか?」


「キシ……お前そんな男だったのか?」


「いやだから違うって! ほ、ほらアースィマさんそんな怖い顔しないで話を聞いて……。オーウェルも、な!」


 この後、2人による尋問が始まった。

結局、この尋問は夜中まで続いた。










◇◇◇









 キシはベットにうつ伏せになり、全身真っ白にしながらよだれを垂らしていた。

目も今にも白目になりそうになっている。

 結局、オーウェルとアースィマの尋問は長引き、すでに真夜中になっていた。

今回で知ったこと、というよりは再確認したこと。

それは……。


「やっぱり、カップルって似たもの同士だよなぁ……」


 今思えば、前世で通っていた高校でよく廊下でイチャつく男女カップルを見かけたが、お互い似たもの同士が多かった。

周りからは好評だった者は、同じような者と付き合う。

逆に、『あいつはヤバい』と言われている者はヤバそうな者と付き合う。

 ずっと影に潜んで学校生活を過ごしていたキシだからこそ、分かることだった。

もちろん例外もあるが、ほとんどの場合はそのパターンが多い。


「今回に関しては、2人とも性格がとても良い人で、恋バナは超がつくほど好きなんだろうな……」


「ほんとそうだよねぇ」


「うわぁ! びっくりした!」


「ふふっ、キシってほんと面白いね」


「そ、そうか?」


「うん! わたしに気づかないでずっと独り言喋ってるんだもん」


 そう言うと、レイはキシのベットに座る。

そして、空を明るく照らす月を仰いだ。

その姿はあまりにも似合いすぎていて、しかしどこか悲しいような雰囲気を漂わせていた。

彼女を見たキシは、思わず見惚みとれてしまっていた。


「どうしたの? ぼーっとして……」


「え?あ、いや―――何でもない……」


 キシは頬を紅くして視線を逸らした。

そう、レイはまだ幼い。

そんな彼女にそんな感情を抱くわけがないと、キシは自ら納得して言い聞かせた。


「そ、そう」


「ああ、本当になんでもない」


「「――――」」


 しばらく、2人の沈黙が続く。

何故か気まずい雰囲気になってしまったとキシは思った。

 しかし、それほど待たないうちにレイは口を開いた。


「ねぇキシ」


「ん?」


「きょ、今日は自分の部屋で寝るね」


「え、あ、うん。なんで?」


「いや、だってアースィマが……」


「あ、あぁ……そうだよな。俺もその方がいいと思う」


「うん、だから――――!」


 レイは部屋の扉の方へ視線を移した瞬間、言葉を詰まらせた。

そこにはアースィマが扉の隙間から顔を覗かせていた。


「――――っ!アースィマさん! なに覗き見してしてるんですか!」


「相変わらず仲が良いわねぇ。この後がとっても楽しみだわ!」


「ちょっと待ってください! 勝手に人の部屋を覗き見しないでください!ストーカーで訴えますよ!」


「あらあら、ここの管理人はわたしよ? ストーカーじゃなくて、ただただ様子を見に来ただけなんだから」


「そういう問題じゃありませんよ!? 」


 アースィマは「はいはい〜」と言いながらキシの部屋からはけた。


「もー、何とかしてくれ……」


「あはは……」


 頭を抱えるキシ。

流石にレイも苦笑いをした。


「それじゃ、わたしは部屋に戻るね」


「おう、わかった」


「おやすみなさい」


「おやすみ〜」


 この時、レイは少し寂しい表情をしていたことを、キシは気づいていなかった。

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