第15話 二度目の豹変
真夜中、キシは前世の頃から真夜中にトイレに行くという習慣がある。
キシはトイレに行こうと布団から抜け出し、ベットを後にする――――瞬間だった。
キシの身体は何かに取り憑かれたような感覚に陥る。
肩や背中のみならず、体全体に違和感がある。
しかし、キシは寝起きということもあって、ただ体がまだ寝ている状態だからと思った。
「――――」
キシは体の違和感を覚えながらも、階段を降りて1階に設置されているトイレへ向かった。
そして、キシは手を伸ばし、トイレのドアノブに手をかけた。
そしてキシは迷惑にならないように、音を立てないようにゆっくりとドアを開ける。
「――――」
明かりは全く無く、暗黒な視界がキシの目に映る。
夜ということもあって気温は少し低いため、トイレの中も少し寒くなっている。
ドアの横にはランタンと火付け石、そしてローソクに火を移すための細い木の板が置いてある。
キシはローソクに火を灯し、ランタンを手に持ちながら個室のトイレの中へ入った。
ランタンの薄暗い火の明かりだけが見え、その火の揺らぎが、何とも言えない恐怖感が増してくる。
「――――」
用を済ませると、キシはトイレの扉を閉めてまた同じ通路を通る。
しかし、階段を渡ろうとした途端、キシの体にまた違和感を持ち始めた。
(ここってもしかして……そういうのが出る建物なのか?)
もしかしたら……と考えながら、キシは階段を上がり切った。
すると……。
「――――?」
キシの背中がさらに違和感を持つようになった。
まるで誰かに見られているかのような気がする。
キシは後ろを振り返って見る。
「――――はぁ」
しかし、後ろには誰もいない。
背中の違和感も不思議なほど消えている。
少し安心したキシは、少しだけ表情を柔らかくして前を向いた瞬間だった。
「――――っ!?」
彼の目の前に、紫色の髪をした背の低い人が静かに立っていた。
おかしい。
先程までその場に人がいる気配など全く無かったはずなのに、何故彼女がいるのか……。
身長が低くて紫色の髪――――間違いなくレイだった。
「――――レイ?」
「――――」
キシは恐る恐る、何かに怯えて震えた声でレイの名前を呼んだ。
彼が今にも尻もちをつきそうなくらい怯えている理由――――それは、レイの全身から恐ろしいオーラを放っているからだ。
キシの声が聞こえたようで、レイはゆっくりと顔を上げた。
顔が見えた瞬間、間違いなくレイだった。
「――――っ!」
彼女の顔が完全に見えた瞬間、キシは尻もちをついてしまった。
何故なら、いつも見ているレイのとは全く異なる表情をしていたからだ。
「――――」
あの時――――キシの部屋で豹変した時と全く同じ、何かに取り憑かれたような表情をしていた。
目を大き見開き、瞳孔が極端に細くなり、口角を上げて不気味に笑っている。
そして、あの日よりもさらに強いオーラを放ち、誰もが跪いてしまいそうなほどの威圧感がキシを襲う。
しかし、レイが豹変したのはこれで2度目。
あの時は身体が鉛のように動かない、そして思考停止に陥っていたが今回は違った。体は立ち上がることが精一杯なほど動かないものの、思考停止まではいってはいない。
そのお陰で、キシは何とか冷静でいられた。
「――――なあ、レイ」
キシは重い口を開き、彼女の名前をもう一度呼んだ。
しかし、レイは反応がない。
「レイは俺に何をしたい? 何をするつもりなんだ?」
「――――」
やはり黙ったままだ。
しかし、キシはレイから視線を逸らさない。
何かが分かるかもしれないと、取り憑かれたような状態のレイに目的を吐かせるためだ。
答えてくれない確率はほぼ100パーセントと言っても良い。
しかし、自ら何かをしないと相手は何もしないと考えたキシは、あえて言葉をかけたのだ。
「――――レイって誰のこと?」
遂に口を開いた。
いつも聞く明るくハキハキした声ではない。
口調は変わらないが暗く、低めのトーンだ。
いつものレイから聞いたこともないような声だった。
「お前は誰なんだ」
「誰ってなんで? わざわざ正体まで教える必要もないでしょ?」
「じゃあお前はレイじゃないのか?」
「わたしはレイじゃないよ。アハッ!」
キシはまた聞いてしまった。
レイのこの恐ろしくて不気味な笑い声を。
キシの体に汗が滲み始めた。
「お前は何をする気なんだ……」
「何をするか、ね……。そんなのもちろん決まってるよ」
豹変したレイはキシに一歩、また一歩と近づいていく。
本当はキシは一歩ずつ後退したいが、体が恐怖ですくんでしまって全く動かない。
自分の体と葛藤しているうちに、レイはキシと触れてしまうくらいまで近づいた。
「もちろんわたしがやりたいことをしたい。この手で……。あなたがわたしを知ったらどうなるかな? 多分もっと怯えちゃうんじゃない? その時の顔を早く拝みたいなぁ。アハッ!」
キシの目にレイの顔しか映らなくなるほど、彼女は顔を近づけてそう言った。
キシは歯を食いしばりながらレイの話を聞いていた。
「アハッ! あと2年……楽しみ! アハハッ!」
そう言って、レイは突然白目を向いて気を失ったように倒れてしまった。
キシの体が、不思議と軽くなった気がした。
何とかレイは元に戻ったと安心し、キシはレイを背負った。
「――――『わたしを知ったらどうなるか』『あと2年』……。どういうことだ?」
豹変したレイの口から出た意味深な言葉の数々に、キシは疑問だった。
しかし、全くヒントが見つからない。
答えまでは全く辿り着かず、キシはレイをベットに寝かせて自分の部屋に戻ったのだった。
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