第13話 謝罪

 宿舎へ戻ってきたキシたち。

キシは頭痛に襲われながら、やっとの思いでたどり着いた。

扉を開けると、カウンターからアースィマが出迎えてくれた。

そしてキシとレイを見た瞬間、彼女はだんだんと顔がニヤつき始める。


「あのー、ディアスさん? すっごいニヤついてますけど、どうかしました?」


「いや〜、たった2日しか経ってないのに、こんなに仲が良くなったんですね! 仲良く手なんか繋いじゃって!」


「――――!?」


 長い付き合いがあるレイは、すぐにアースィマの考えていることを理解した。

パッとキシから手を離すと、アースィマから目を逸した。


「どうしたレイ? なんか顔赤いような気がするんだけど……」


「大丈夫ですよ! キシさんがレイちゃんを部屋に連れても、わたしは何とも思いませんから!」


「は?」


「やめてアースィマ! わたしたちはそんなんじゃないの!」


 レイの目元は前髪で隠れてよく見えないが、頬と耳が真っ赤になっている。

それをアースィマは見逃すわけもなく、ギラッと目を光らせる。


「あらあら、満更でも無いんじゃないの〜?」


「――――! もうアースィマのいじわる! もうしらない!」


 怒ったレイは頭から煙を吹かしながら、自分の部屋へ行ってしまった。

顔を真っ赤にしていた彼女を見て、キシもだんだんとアースィマがニヤついていた意味を理解する。


「アースィマさん! なんでそういう考えになるんですか!? 彼女はどう見てもまだ子供でしょ!?」


「え〜? でもレイちゃんって見た目的に12歳とか13歳くらいでしょう? そのくらいの歳なら、恋をしたって何も不思議なことはないわ!」


「絶対ありえませんから! 出会ったばかりなのにそんな漫画みたいな展開になるかぁああ!」











◇◇◇











「あーもう疲れた……」


 キシは今、浴場にいる。

何とかアースィマを説得することが出来たが、かなりの時間を使ってしまった。

アースィマには『恋愛』というものに過敏に反応してしまう特性がある。

それを知ったキシは溜め息をつき、目元まで湯船に使った。

ブクブクと水面に泡が浮かぶ。


「――――にしても、結構人多いんだな」


 この宿舎は料理だけでなく、ビダヤで唯一銭湯があることでも有名で、毎日様々な人が訪れる。

一般市民もそうだが、特に冒険者が多い。

ひと仕事を終え、疲れた体を癒すためだ。

 キシが初めて冒険者ギルドに来て早々、オーウェルというそれなりの実力を持った冒険者に喧嘩を売られ、オーウェルを木端微塵にしたあの日以来少しはマシになった。

しかし未だに怖がっている者もいて、キシの顔を見た途端怯える冒険者も少なくない。


「あ! お前はカゲヤマ・キシか!?」


 キシは突然の声に驚き前を見ると、あの男がいた。


「エル・オーウェル……」


 そう、冒険者登録をして早々にキシに喧嘩を売った男である。

キシは警戒して、眉を寄せる。


「久しぶりだな、エル・オーウェル」


「あぁ、まさかこんな所でまた会うとはな」


 オーウェルはそう言って笑うと、湯船に入り、キシの隣まで移動する。

次は何をする気なんだとさらに警戒する。


「――――あの時はすまなかった!」


「は?」


 キシは思いがけない言葉に目を丸くした。

頭を下げるオーウェルにキシは驚いた。


「俺な、あの時冒険者ランクがAになったばかりで嬉しくて調子乗ってたんだ。でも、お前と戦って、何も手が出ずに圧倒されちまった……。俺はあの時気づいたんだよ。俺はなんで調子乗ってたんだってな。まだ世界のこと何も知らないくせに、情けないよな」


「――――」


 その後オーウェルは猛反省し、自分の体を一から鍛え直した。

苦しくても、弱音を一個も吐かずに。

 その努力はいつの間にか、行動にも影響が出ていた。

一匹狼だったオーウェルが、周りに気を配れるようになったのだ。


「お陰で信頼のできる仲間も増えたよ。あの時お前にもし会っていなかったら、俺はずっとあの調子で自然と孤立して行っただろうな」


「そう、か……」


 意外だった。

キシがオーウェルを初めて見た時、もう腐って取り返しの付かない人間で、ここでまた自分を見つけた瞬間、復讐とかしてくるだろうと思っていたのだから。


「だから、本当にすまなかった!」


 オーウェルはキシに頭を下げた。

最初は疑ったが、どう見ても彼は本気で反省している。


「じゃあ俺からひとつお願いがある」


「なんだ?」


「もし、何かあったら俺を頼ってくれ。そして、2人でお互いに冒険者として頑張っていこうぜ。あと、俺のことキシって名前で呼んでくれ」


「そうか……。お前は本当に良い奴だな。こちらこそお互いに頑張っていこうぜ!俺のことも、オーウェルって呼んで構わないぞ!」


 そう言うとオーウェルはキシに手を差し出した。

それに答えるようにキシも手を差し出し、オーウェルの手を握った。


「これからよろしくな!キシ!」


「こちらこそよろしく。オーウェル!」


 こうしてキシに新しい仲間が増えたのであった。

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