第1話 冒険者登録

 たくさんの人たちが溢れ、活気があり、この世界では誰もが知る冒険者の中心街。その街の名は『ビダヤ』。

この街は多くの新人冒険者たちや経験豊富なベテラン冒険者たちがたくさんいるため、武器やポーションなどの戦闘に関わる道具を販売している店が多いことで知られている。

この街が『冒険者の大都市』と呼ばれるのも頷ける。


「いやぁー、ここがビダヤかー。やっぱ噂通りでかい街だなー!」


 街の大通りの真ん中で一際目立つ少年が、街の風景をキョロキョロと眺めながらそう言った。

つい大声で言ってしまったため、近くにいた通りすがりの人々は、この男に一瞬振り向いては聞かなかったふりをする。

青い髪に青い瞳、そして少し目つきの悪い少年、キシこと影山かげやま岐志きし

日本で命を落とし、この世界に生まれたいわゆる『異世界転生者』である。

 

「軽い気持ちで来てしまったことが悪かったな……。なんてたって人が多い。あんま都会とか人が多いところなれてないんだよな……」


 キシは周りが森しかないところで育ったのもあるが、そもそも前世から1人でいることが多かったため、大人数はあまり慣れていない。

そのため、あまりの人の多さに少し動揺している。

変な汗もかいてしまっている。


「さてっと……とりあえずギルドに行って、冒険者登録するか」


 キシはビダヤの大通りの中心へ向かう。

人の流れに任せるようにしばらく歩くと、巨大な建物が目の前に現れる。


「おーすげー! これがビダヤのギルド……。デカすぎるだろ!」


 まるで西洋の大聖堂のような雰囲気を醸し出す。

そして、まるで高層マンションを見上げるかのような高さがある。

そんな巨大な建物の正面には、これまた巨大な扉がこの街に来た全ての人々を迎え入れるかのように開いていた。


「さて、中に入って冒険者登録でもするか」


 キシはギルドの大きく開かれたギルドの入り口へ入る。

中はたいへん賑わっている。

さすが、冒険者の街ということだけあるなとキシは思うほどだった。

 キシは広大な室内を眺めながら受付カウンターに並ぶ列に移動する。

どうやら列には若手からベテランであろう冒険者らしい人たちが行列を作っている。10分くらい待つと、やっと順番が回ってきた。

カウンターまで歩み寄ると、そこには美人の受付嬢がいた。


「こんにちは。ご要件はなんですか?」


「冒険者登録をしたいと思いまして」


「かしこまりました。では、こちらのカードに手をかざしてもらえませんか? 手をかざす事であなたのステータスが表示されます」


 受付嬢の指示に従い、キシは特殊な魔法が施された石版に3秒くらい手をかざした。

すると、隣の石板に置いてあるカードに文字が浮き出てきた。

そのカードの文字を見た瞬間、受付嬢は驚いた表情で手の動きを止めた。


「どうかしたんですか?」


 少し困惑した表情をする受付嬢に疑問を抱いたキシは聞いてみることに。


「いえ、あなたは魔力がほとんどありませんね……。魔力がなければ剣術や弓術などで補うことはできますが、高ランクに上がることは困難だと思います……。それでも、大丈夫ですか……?」


「あ、大丈夫ですよ。自分が魔力がほとんどないのは知っていますから」


「え……!? では、どうして冒険者をしようとしたのですか!? しかもあなたは青い髪で青い瞳なので水属性に適正があると思ったのに、それすらないんですよ!?

なのにそれで、どうやってモンスター討伐などの依頼をしようと思っているんですか!?」


 そう、異世界物語ではよくある髪の毛の色や瞳の色で属性がわかるというものがこの世界でもある。

しかし、キシは髪の毛が髪の毛と瞳の色が青色なので水属性のはずなのに、水属性の魔法すら持っていない。

矛盾が生じている、それで受付嬢は驚いて困惑してるのだ。

 しかし、キシは平然とした様子で言った。


「普通に戦おうとすればすぐにモンスターにやられることでしょう。ね。」


「ど、どういうことですか……?」


 受付嬢はますます困惑した表情で固まってしまった。

こんな反応をされるのは分かっている。

はたから見れば、運動神経が優れている普通の若い男子にしか見えないからだ。


「まあ、そんなこと言っても誰も信用してくれないと思いますけどね。とりあえず、出来る限りのことは頑張るつもりです」


「そ、そうですか……。で、ではこれで登録は完了したのでお受け取りください。依頼を受ける時や依頼を完了した時、あと身分の証明にもなりますので失くさないようにお願いします。もし失くしてしまった場合は再発行できますが、再発行手数料として2000ディルハムかかりますのでご注意ください」


「分かりました! ありがとうございます!」


そう言ってキシはカードを受け取り、その場を立ち去った。


「魔力がほとんどないだと?」


「あいつ冒険者をナメてるのか!?」


 キシの後ろに並んでいた冒険者からどよめきと批判の声が飛ぶ。

それがだんだんと広まり、あっという間にギルド内は大騒ぎになった。

それでもキシは周りの反応に動じず、クエストの掲示板へと向かう。


「おい」


 すると、若い一人の冒険者がキシの肩を掴んだ。

キシは立ち止まり、声のした方へ振り向く。


「なんですか?」


「お前、魔力なしでステータス全体も低いらしいな。良いかよく聞け。冒険者ってのはなぁ、ステータスがあるから戦えて、活躍できて、英雄になるんだ。お前のような魔力なしはどんだけ足掻いたって無駄なんだよ!」


「「「そうだそうだ!」」」


 彼は周りに聞こえるように言い、それを聞いて周りの冒険者は賛成の声を上げる。

面倒くさいことに巻き込まれてしまったなと思ったキシはため息をついた。


「じゃあ、どうすればみんな納得することできるんです?」


「そうだな……じゃあ今からこの俺と勝負しろ。俺はこのギルドの中でも良い成績を収めている。信頼もされている。俺に勝てば納得してくれるだろう!」


「「「おーーー!」」」


 みんなは彼の言葉に盛り上がりを見せる。


「俺の名はエル・オーウェルだ。さあ、本気で来い!」


 (あ、そっか。この世界の名前って日本人の名前と同じ姓名の順なんだった。エルって言われて女子みたいな名前だなって思っちまったわ)


そんなくだらないことを考えながら、巨大な剣を持って身構えるエルと向かい合うことにした。


「1つ聞きますが、本気でいっても良いんですね?」


「あぁ、本気で来て構わない」


「後悔しないでくださいね。じゃあ、遠慮なく」

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