第4話 守ると誓おう
「さて、さっさと倒しちまおうか!」
キシはそう言うと、キラーウルフと正面に向き合う。
しばらくはどちらも動かず、お互いを睨み、火花を散らす。
紫髪の少女はその雰囲気に飲まれ、息をするのを忘れそうになる。
ただただ見守るだけ、それだけしか出来なかった。
少女は胸元で自分の手を握った。
「アオーーーーーーーン!」
沈黙の末、最初に動き出したのはキラーウルフだった。
遠吠えをすると凄まじい勢いでキシに突進してくる。
キシがいる距離までわずか3メートルほどしかない。
後ろで見ていた少女はもうこの時点でこの男は殺されたと思っていた。
それはキラーウルフも同じで、確実に勝利を確信した。
しかし、キシはニヤリとすると少し低い体制を取る。
そして、
「ザシュッ!」
血が吹き出す音が聞こえた。
思わず少女は目を手で覆った。
自分のために命を賭けてまで守ってくれて、青髪の男の人は死んでしまったのだと。
少女の心は、また闇の中に迷い込もうとしていた。
(もう、ダメかも……)
少女は絶望しながら、ゆっくりと覆っていた手を開く。
しかし、少女の目の前の光景はどうだろうか。
死んだと思われたはずの青髪の男は傷一つ無く、死体の前に立っていたのである。
その死体は間違いなくキラーウルフだった。
少女は状況が読めず、思わず目を大きく見開き、ポカーンと口を開けていた。
「よう、大丈夫か?」
キシは平然とした様子で少女に話しかける。
額には淡く、妖しく光る角がある。
そんな姿で急に話しかけてきたため、少女は激しく動揺した。
しかも、目の前にいるのは、かつて人間を滅ぼしかけようとした、凶悪の種族「鬼」の最上位に君臨した「青鬼」だ。
殺されるのかもしれない。
そう思った少女は思わず後退しようとした。
しかし、あまりの恐怖に体がすくんで動かず、尻もちをついてしまった。
「大丈夫だよ。怖がらなくていい。」
それに気づいたキシは優しく話しかける。
キシは少女に手を差し伸べた。
「あなたは鬼なんだよね? 私を殺したりしないの?」
少女はまた涙を流しながらキシに恐る恐る聞いた。
キシは額を
「確かに俺は鬼の中でも最上位に君臨する種族、青鬼の力を持っている」
キシは手を下ろすと、少女のもとに近寄り、その場にしゃがんだ。
先ほどの警戒心はなく、その場に立ったままキシの顔を見つめていた。
「でも鬼はもともと、人間と親しい間柄だって知ってたか?」
少女はそのことを初めて知り、少し驚いた顔で首を横に振る。
今の常識では鬼は恐れられていた存在であり、はるか昔に絶滅したとされているのだ。
「世間のみんなは『鬼は絶滅した種族で、人間にとって最も恐れられていた』って代々伝われてきたからそれが常識になってるけど、本来の教えは『鬼と人間は共に支え合うべきである』だったんだ」
鬼は人間と共存していた。
それは紛れのない事実である。
実際に人間と鬼との間で交易があった事も古い書物に記されている。
しかし、交易でいざこざがあり、やがて戦争へと発展していった。
当然、人間側は勝てるはずもなく、圧倒的な力の差で大敗した。
戦争を勃発させたのは人間だ。
それなのに、この国が記したものには鬼が原因で戦争が起こったとなってしまっているのだ。
「確かに鬼は絶滅してしまった。でも、俺はなぜか鬼の力を持っている。だからこそ、本来の教えを取り戻したいっていう気持ちがあるんだ。だから、人の役に立ちたいし、活躍して鬼は人間と共存していたんだってみんなに知ってもらいたい。普段はみんなと変わらない人間だからさ」
キシは立ち上がると座っている少女を見て、もう一度手を差し伸べる。
「俺の名はカゲヤマ・キシ。もう一度言うけど、助けてほしいなら君の名前を教えてほしい」
そう言われると少女はキシの手をとり、表情がほぐれた。
彼女から笑顔が溢れた。
「私の名前はレイ。ありがとう、私を助けてくれて!」
そして、ふたりはお互い握手を交わした。
新たな絆を結んだ2人だが、この出会いがレイという少女の人生を変えることになるとは、まだ2人は知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます